【エッセイ】オチのない話①
エッセイと銘打っているが、一般人の何でもない公開日記と思ってもらう方が、読んでもらいやすい。
読んでもらいやすい‥?読むのは読み手の勝手なのに、読んでもらう側の人間に難易度なんて物はない。このように矛盾した事をたまに日常会話でも挟んでしまいがちだ。
レビュー以外の記事を書くのは初めてなので、温かい目で見守って欲しい。
家の鍵を紛失した。現在、一人暮らしをしていて、この1月末で丸2年になる。けれど、あと10日経てば今の家を出る事になっている。
この2年間、鍵を紛失した事などなかった。鍵にキーホルダーやストラップ等を付ける習慣がなく、そのままズボンの右ポケットに入れて持ち運んでいたが、紛失する事はなかった。
しかし、何も付けていない鍵を裸のまま携帯していると、いつか紛失するだろうと思いつつ、失くした時に焦る自分を想像しては、これまで失くした事のないという結果が勝利し、これからも失くさないという自信があった。
ある日、くら寿司のビッくらポンで当たりを引き、キーホルダーを手に入れた。モンスターズ・インクのマイクの平べったいキーホルダーだ。
これまでの"当たり"は、仮面ライダーの缶バッチや寿司ネタにコマが付いていて勝手に走り出すおもちゃだったりと、実用的な物が少なかった。
キーホルダーは違った。雑に訳すと"鍵を固定する物"だ。失くさない自信はあったが、キーホルダーを付ければより失くす確率は下がる、付けて損はない。洒落てもなければカッコ良くもないそのキーホルダーを僕は早速取り付けた。実用的であれば、特にデザインに拘りはない。
レンタルしていたDVDを、家から歩いて30分かかるゲオまで返却しに行った。自転車が破損してから、移動には徒歩を余儀なくされるが、良い運動になるし慣れれば大した事はない。往復で1時間。今日も良い運動をした。
と思いながら家のドアの鍵を開けようとするが、鍵が無い。ついに落としてしまった。焦っている妄想を何度も反復してきたのに、実際に起こると結構焦るものだ。
歩いてきた道のりを思い出しながら、俯き気味に歩き始める。時刻は19時半を回っていて暗い。本当に見つけられるだろうか。
スマホをポケットから取り出す際に引っかかって落とすパターンだと思った。音楽を聴きながら歩くので、落とした時の音には全く気づかない。
こんな時に限って、いつも利用する道とは違う道から行ってみたりしたので、正しく思い出す事が出来ない。
途中、何度か写真を撮ったりしていて、それが目印になり道を思い出す事が出来たが、一向に鍵を見つける事は出来なかった。
何故か道端に食パンが4切れ落ちていてシュールだったから思わず撮ってしまった。住宅街の良く似た風景、迷った時に「食パンが落ちている道を探そう」と思い、再度行ってみるとまだ落ちていた。1枚猫に齧られた痕があったけれど。
近くのマンションの下の遊具が面白かったので、そちらも撮った。
アンコウをモチーフにした遊具だけれど、これは親子で遊ぶには難易度が高い。親御さんは入りづらいし、座ると汚れるから入りたくないだろうし、入れたとしても何もする事がない。そんな事を言うと元も子もないけれど。
滑り台は滑る為にあるし、ブランコは漕ぐためにある。このアンコウは食われる為?造型は楽しいけど、遊ぶには適していない。オブジェのような立ち位置かもしれない。
遠目から見ると、提灯の部分がレバーに見えたので気になって近づいた。
‥こんな事をしていたから、鍵を落としたのかもしれないと反省した。もちろん、このアンコウの近くにも戻り、ライトで草むらを照らして探したが鍵はない。
もしかするとこのアンコウには魔力があって、誘われるようにこの地に戻らされたのかも‥とか思ったりもした。生憎、霊感的なものが全くないので、何も感じる事なくこの場所をあとにした。
2時間ぐらい歩き回ったし、交番にも電話したし、ゲオやコンビニなど全て確認したが無かった。もしかしたら心優しい人が拾っていて、明日交番に届けてくれるかもしれない。
交番の婦警は意外と物腰が柔らかかったし、通っている愛想の良くないコンビニの店員の対応も優しかった。普段話さない人物に話しかけてみると、意外と受け入れてもらえるものだと思った。
ここまで徹底的に探すと諦めが付くもので、焦りは感じなかった。言ってしまえば、予備の鍵が実家にストックされているからだ。だが僕の今住んでいる地域からは、電車と徒歩合わせて1時間かかる。
鍵を取りに行くだけで更に2時間。1時間だけ外出するつもりが、合計すると4時間。冬の寒空の下、よく歩いたと思う。
鍵を探している最中、これだけ探した結果、実は家から徒歩数十秒の場所に落ちていた‥というオチも妄想していた。
本当に大切な物は、側にある。
メーテルリンクの『青い鳥』を思い出したけど、神は願いを叶えてくれなかった。
その代わり、家に帰ってから観ていたアニメでは、青い鳥が登場する回だった。こんなサプライズは求めていない。
もうすぐ家を出るというタイミングで鍵を失くした、特にオチのない話。
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