【取材した怪談230】故郷の夜道
本土からフェリーで2時間以上要するX島。
山々や滝などが豊富に存在する、人口数千人の離島である。
夜は主道でさえ暗い。脇道に入ればもう真っ暗。山道ではガードレールが設けられていないカーブも多い。運転中に油断すると、道路から外れて車ごと崖から真っ逆さまである。
ヒロト君はX島の高校を卒業後、大学進学のため上京した。
大学1年の夏季休暇に合宿で運転免許を取得し、島に帰省した。
その際、高校時代の友人2人と数ヵ月ぶりに再会した。
ドライブも兼ねて、ヒロト君が実家の軽自動車を借りて送迎した。高校時代に行きつけだった定食屋でひとしきり歓談してお開きになった後、彼が友人らを家まで送ることになった。友人の家は山のほうである。
時刻は二十三時を過ぎていた。
帰りの車中、助手席と後部座席に座っていた友人達はいつの間にか、ぐぅぐぅ、と寝息を立てている。山道にさしかかったあたりから、ヒロト君もつられて瞼が垂れてきた。
次の瞬間。
ヘッドライトの光に、人影が照らし出された。
老婆。
横向きで中腰の状態の老婆だ。
顔はよく見えない。
気づいた時にはもう車の目の前。
ブレーキかけても轢いてしまうような距離。
ヒロト君は思わず目を瞑り、ブレーキを踏みつけた。
キィィィ、というタイヤ音が闇に鳴り響く。
ばくばく、という心音が身体中を駆け巡る。
急停車後、その衝撃で目を覚ました友人たちが何か言ってるが、言葉が耳に入ってこない。
しばらくして、恐る恐る目を開けた。
崖。
目の前が崖だった。
あのまま走行してたら、間違いなく落下していた。
車外に出て懐中電灯で辺りを確認したが、老婆らしき人物は見当たらない。
何かが車に接触したような衝撃も痕跡もなかった。
───あのお婆さんは自分の守護霊かもしれない。
ヒロト君はそう解釈している。
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