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【取材した怪談243】焦る座敷童子

「私の実家、事故物件かもしれません」

そう切り出したのは二十代女性Aさん。
彼女の実家は古く特殊な構造の二階建てで、契約上の理由から二階部分は使えないことになっている。清掃などの管理をするために二階に行くことはでき、二階は普段は無人である。

「私は夜あまり眠れなくて、睡眠時間は3から4時間ほどでしたね。私が10歳ぐらいの頃、一階の私の部屋の真上から子供の声が聞こえてくることがありました」

彼女の部屋の真上は二階の和室で、夜11時から2時ぐらいにかけて男児と女児の笑い声、話し声、タタタタと走る音などが聞こえてくる。誰もいないはずなのに。

不思議なことに、この「騒音」はAさんと父親にだけ聞こえ、母親と弟は聞こえなかった。

「悪いものという印象はありませんでした。ただ遊んでるだけな感じ。座敷童子かな、とも思ってました」

その年の夏が終わり少し寒くなりはじめた頃、夜に父親と肝試しがてら二階に上がってみることになった。

父親の背後にAさんはぴったりとくっつき、恐る恐る階段に向かう。

階段は折り返し階段。一階部分は電灯の明かりに照らされているが、その先は闇だ。一段一段、足音を殺してゆっくりと上がっていく。父親が折り返しにさしかかり、見上げた途端に立ち止まった。父親の陰でAさんもその場に留まる。父親はしばらく静止した後、小声で呟いた。

「……やばい。これ以上は行ったらダメだ」

いつもは常に強気で豪胆な父親が、そんな弱音を吐くのを初めて聞いた。Aさんの位置からでは父親が何を目にしているのかは分からないが、得体の知れない恐ろしい状況が展開されていることは容易に想像がつく。父子ともに息を呑んでそっと階段を下りて引き返し、一階の我が家に帰還した。

一息ついたあと、Aさんは「さっき階段で何見たの?」と父親に訊いてみた。

彼によれば、階段を上がった先に、幼稚園児ぐらいと思しき女の子と男の子が並んで立っていたらしい。女の子のほうは赤系のワンピースを着ていたそうで、男の子のほうは不明。

ただ父親はその存在自体に驚いたわけではなかった。子供達は顔を横に振りつつ、掌をこちらに見せながら両腕を交差させたり開いたりしていた。言葉は発しないが、明らかに「来ちゃダメ」というジェスチャーだ。ふたりとも、かなり焦っている様子だったという。

「二階にはその子供達の他に〈もっとヤバいもの〉がいて危険だから、来るなと警告してくれてると父は直感したようでした」

その後も二階から子供達の声や音は聞こえてきたが、Aさんが中学に上がった頃には聞こなくなった。

結局あの子供達がなんなのか、〈もっとヤバいもの〉がいたのか、は分からずじまいである。

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