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【取材した怪談話134】古墳は出る

大阪府堺市といえば、中百舌鳥(なかもず)古墳群が有名である。堺市内に残存する、四十四基の古墳の総称だ。二〇一九年には世界遺産にも登録されている。世界最大の墳墓・仁徳天皇陵古墳(五世紀頃の築造)も、中百舌鳥古墳群の一つである。

二十年ほど前、終電を逃した女性Kさんは堺市の某駅でタクシーを捕まえた。以前からテレビなどで「古墳は霊が出る」と小耳に挟んでいた彼女は、運転手に訊いてみた。

「テレビとかで、古墳は出るって聞くんですけど、見たことあります?」
「おう、出るでぇ。見た見た。もうすぐ通るで」

その時タクシーは二車線の府道を走っており、深夜でも疎らながら車が行き交っている。しばらく進むと、道路のすぐ右側に共同墓地が現れた。この墓地の向こう側には、堀を挟んで中百舌鳥古墳群のX古墳がそびえる。

「おお、ここやここや。この右の墓や。墓石の上に、スーツ着た男が立っとったわ」
「えっ? ここですか!」
「おう。皆、見とるわ」
「怖くないんですか?」
「いや、ワシが見たんは一回だけやしな」

まさか現場を通過すると思っていなかったために吃驚して、Kさんはこの後に運転手と何を話したのか覚えていないそうだ。

その日以降も彼女はその墓地前を何度か行き来したものの、<墓石の上に立つ男>を見ることは一度もなかった。

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