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【怪談実話113】K区の交差点

「むかし住んでたマンションの近くに、尋常でないほどの死亡事故が起きる交差点があってね」と話してくれたのは、男性T氏だ。

東京都K区にあるその交差点での事故では、車同士が衝突するわけではなく、車に接触された歩行者が亡くなる。事故が起きる場所が決まっており、四つ角のうちの二か所だけに集中している。四車線の二本の道路が交わる交差点で非常に見通しが良いのだが、どういうわけか事故が多発していた。六階の自宅まで事故の衝突音が頻繁に聞こえ、慣れてしまっていたそうだ。

三十年ぐらい前、T氏が十八歳だったある日。彼と母親が在宅しており、夜一時ごろだったが二人とも起きていた。

──ギャリリリリリリリリ ガシャ

鼓膜を刺すような、鋭い金属音が響いてきた。

ああ、また事故か。

T氏は自宅を出て廊下に出た。マンションの廊下の一部から、その交差点が一望できるからだ。交差点は目と鼻の先である。六階の廊下から交差点を見下ろす。

一台のバイクが交差点の角のガードレールに突き刺さって停止していた。事故が多発する角である。運転手は見えなかったが、その交差点の角に三人の人間が並んで立っているのが見えた。

人が居るんなら、誰かが助けるなり救急車を呼ぶなりするだろう、と思い、そのまま家に戻った。

「事故どうだった?」と母親。
「人が三人いたから、大丈夫でしょ」

少し間があった後、母親が再び口を開いた。

「先週もさあ、そこで事故あったよね。三件」

母親の言うとおり、先週の一週間の間に、交差点の同じ場所で自動車と歩行者の接触事故が三件も起きており、三人の命が失われた。

母親との会話が続くなか、いっこうに救急車が来る気配がない。

「ちょっと下に降りて見に行ったら?」

母親の打診を受け、T氏は再び家を出た。下に降りる前にもう一度、廊下から交差点を覗いた。先ほど見えた三人は居なかった。バイクは突き刺さったままである。この時、車が一台も通っておらず、しんと静まり返っていた。普段は深夜でも交通量が多い場所であるにもかかわらず、である。

彼が一階のエレベータホールに到着した時、ぎょっとした。白の短パンとタンクトップ姿の若い男が立っていたのだが、全身が血だらけだったからだ。先ほどの事故を起こしたバイクの運転手だと、一目で悟った。

「体の左側が挽き肉みたいだった。皮膚がズル剥けの状態。もうね、心臓が飛び出るかと思ったよ」

ヨロヨロと歩きながら、その男は懇願してきた。

「す、すみません……電話を……」
「ちょ、救急車呼ぶから待ってろ」
「い、いえ、救急車は……呼ばないで……ください」

事情を聴くと、その男は無免許で運転しており、警察沙汰を避けたいようだった。その男の兄が働いているボーリング場(現場近くにある)に電話すべく、公衆電話を探していたとのことだった。携帯電話もない時代で、外からの連絡手段は公衆電話のみだった。

幸い、T氏はそのボーリング場の電話番号を記憶していたため、マンション近くの公衆電話までその男と一緒に歩いていき、電話をかけて事情を説明した。その男の兄に取り次いでもらって、男に電話を代わり、兄が迎えに来てくれることになった。

迎えが来る間、事故の詳細を男に尋ねた。

「何があった?」
「交差点に入る直前、急に人が横から飛び出てきたんすよ。避けようと思って事故っちゃって。人を撥ねた感触があって……。それで探したんですけど、誰も見当たらなくて」

男が言うには、撥ねたであろう人間を探したが誰も見つからず、バイクが食い込んだ交差点の角の縁石に座っていたそうだ。交差点に車が通ったら助けを求めるつもりだったが、全く通らなかったため、公衆電話を探して歩きだしたという。それが、T氏のマンションだった。

T氏は、もうひとつ気になっていたことも訊いてみた。

「交差点の角に人が三人、立ってたよね。バイクが突っ込んだ角に」
「いえ、その角の縁石に座ってましたけど、誰も居ませんでした」

男は事故を起こしてからT氏に会うまで、誰の姿も見ていないという。そんな会話をしていると、男の兄が迎えに来た。その後、T氏も帰宅した。

なお、事故の前後には件の交差点に全く車が通行しなかったが、ボーリング場に電話をし終わった後は、通常どおり、多くの車が往来していたそうだ。

・・・

ちなみに、T氏が小学生の頃(本エピソードの数年前)、この交差点に霊能者の冝保愛子氏が除霊に訪れたことがあるそうだ。テレビ番組の収録も兼ねており、地元の友人らとその撮影の一部始終を現場で見ていたという。

「交差点で御祈祷してたんだけど、事故が起こらない角でやっててさ。『そっちじゃねえよ!』って叫んだのを覚えてるな」

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まとめ

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●=事故が発生する角
▲=飛び出してきた者?(その後不明)
★=バイクが衝突した角
○=立っていた三人
△=宜保氏の除霊場所

・事故が起きる場所が決まっている
・人が飛び出てきてバイクで撥ねた感触があったが、誰も居なかった(事故ったライダー談)
・立っていた三人の謎
・事故の前後、交差点に車が全く通らなかった(深夜とは言え、普段はあり得ないとのこと)

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余談

大怪我を負っているにもかかわらず、公衆電話を求めて彷徨い歩き、さらにはT氏と会話したというバイクの運転手の若者。その話を聞き、私は疑問に思ったことを訊いてみた。

「事故った後、そんなに歩いたり会話できるものなんですか?」
「事故の直後って、痛みを感じないことも多いよ。俺も経験あるし」

※見出し画像は現場ではありません。

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