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【取材した怪談197】営巣

仏教では、亡くなってから49日経過するまでは自宅にお骨を置いて供養し、四十九日法要の際に墓地で納骨(お墓にお骨を納める)を行うのが通例である。

沙智さんが中学三年の夏、父方の祖父が亡くなった。祖父は祖母と二人暮らしだった。葬儀後、遺骨は祖母宅に移された。ひとり残された祖母が寂しいだろうということで、四十九日が終わるまで祖母宅に沙智さん家族が移って生活することになった。その期間は夏休みと部分的に重複したため、沙智さんも祖母宅で過ごすことが多かった。

祖母の家は、広大な庭を有する一軒家。庭にはガーデニング用の畑が耕され、簡易な手作りのミニゴルフ場まで設けられている。木々もいくつか植えてあった。

<祖父の遺骨を持ち帰った翌朝>

祖母宅にて。
けたたましい小鳥の鳴き声が、庭から聞こえてきた。耳をつんざくような盛大な鳴き声で、もはや爆音だ。スズメの声だろう。鳴き声が聞こえる方向の、一階リビングのモザイクガラスの窓に近づいて、そっと開けてみた。

声の主は、大きめのスズメだった。リビングに最も近い庭木に、巣を作っている様子。「窓を開けたら、目の前に巣」というぐらいの距離感だ。

沙智さんはその日から、祖母宅に居たときにはその巣を確認するようになった。完成した巣は、サラダボウルぐらいの大きさになっていた。最初は一、二羽しか確認できなかったが、日を追うごとに数が増えていった。どうやら卵を産んで雛が生まれたらしい。

<四十九日当日・納骨前>

祖母宅にて。
朝方、巣に複数羽のスズメが居るのを確認した。相変わらずチュンチュン騒いでおり、賑やかな朝だった。その後、納骨のために午前中に祖母宅を出発した。

<四十九日当日・納骨後>

つつがなく納骨が執り行われた後、沙智さんらは午後に祖母宅へ帰宅した。帰宅時、やけに家がシンと静まり返っていたのを憶えている。

スズメの姿は、もうなかった。

彼女はその後も祖母宅に二日ぐらい滞在したが、再び巣にスズメが姿を現すことはなかった。空っぽになった巣だけが、残り続けた。

<数日後>

二学期が始まった。
放課後、学級委員だった沙智さんは二階の教室に一人で居残っていた。教室に貼る掲示物を作成するためだ。自分の机で、黙々と作業していた時だった。

──ごつん

窓ガラスに、何がぶつかった音がした。
誰かが下から小石でも投げてきたのかな?
作業を中断して席を立ち、ベランダに通ずる引き戸をゆっくり開け、音がした辺りをそっと覗いてみると──。

ベランダの床に、一羽の大きめのスズメが横たわっていた。ベランダに出てそろっと近づいてみたが、ぴくりとも動かない。生死は不明。
祖母宅の庭木に営巣していた個体に、似ている気がした。

お祖父ちゃんが自分に会いに来てくれた、と沙智さんは解釈している。

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