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【取材した怪談239】鼻血

その朝、高校1年だった哲也さんは寝床で目覚めた直後に息を飲んだ。

「鼻血が止まらなくて。起きたら血だらけになってました」

どうやら就寝中から既に出血していたようで、現在も流血している。
まるで水道の蛇口から水が流れるような勢いで血液がボタボタボタと滴り落ち続けて、みるみるうちにパジャマが鮮血に染まっていく。
慌ててティッシュペーパーを掴み取って鼻腔に詰め込んでみるも、一向に止まらない。
もう、どうしていいかわからない。
彼の尋常でない様子に気づいた母親も同じ。状況が飲み込めないようだ。

そんなタイミングで、自宅の固定電話の呼び出し音が鳴った。
母親が受話器を取る。
その電話は、哲也さんの叔母からだった。
開口一番、叔母は「哲也君いま何してる?」と聞いてきた。
「鼻血が止まらんで、えらいことになっとる」と母親がすがるような声を出す。
叔母は「やっぱりな」と答えた。
何か心当たりがある様子だ。

母親が叔母に詳しく問うと、次のことを教えてくれた。
その日、就寝していた叔母は夢を見ていた。
夢の中では、哲也さんと、既に他界した彼の父親の二人の姿が視界に映る。地面に横たわる哲也さんが、父親に膝枕してもらっている状態だ。
その光景を見て、叔母はこう直感した。

──父親が哲也さんを「連れて」いこうとしている。

叔母は急いで哲也さんの元に駆け寄り、彼の身体を力一杯引っ張って父親から離した。そしてできるだけ遠くに彼を引き摺った。
そこで夢が覚めた。
すぐさま哲也さんの身を案じて彼の家に電話を入れた、とのことだった。

電話で母親と叔母が話している時から哲也さんの鼻出血は軽減し始め、ほどなくして治まった。

「40年生きてますけど、鼻血を出したのはその時だけなんです」

不可解な面持ちで、彼は最後にそう付け加えた。

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