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【取材した怪談199】夜の『灯台』


話者:三十代男性

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僕が小五の時の話です。市内の公園に展望台があったんですよ。五階建てぐらいで、中の螺旋階段を登って屋上に行くと周辺景色が見渡せる場所です。僕らは『灯台』と呼んで、そこでよく遊んでました。

夏休みのある日、友人らと集まって夜の『灯台』で肝試しをしました。親には「昆虫を捕まえに行くから」と伝え、夜に外出しました。七~八時ぐらいです。

その時に集まったのは、近所の同級生・下級生ら計八人だったと思います。
肝試しの方法ですが、一人ずつ『灯台』を登って屋上まで行って帰ってくるものです。
屋上まで登った証として、公園内で拾ったヒビ割れたレンガを使うことにしました。

一人目は、レンガを持って屋上まで行き、屋上にある木製のベンチに置いてくる。
二人目は、手ぶらで屋上まで行き、一人目が置いたレンガを持って帰ってくる。
これを八人目が終わるまで繰り返す計画です。

ジャンケンで順番を決め、早速肝試しを始めました。
一人目の男子がレンガを持って『灯台』に入っていきます。しばらくすると屋上から彼が手を振ってきます。僕らはそれを下から見上げてました。懐中電灯を持参していましたが、弱い光量でしたので、姿がハッキリ見えるわけではないです。周囲は真っ暗ですし。またしばらくして、彼が降りてきました。

僕は二人目でした。何も持たずに『灯台』に入りました。内部は電灯なんてないですから、真っ暗です。ゆっくりと階段を登っていき、屋上に着きました。下にいる皆に向かって手を振ってから、ベンチに置いてあるレンガを持って一階まで降りました。

そして六人目の時です。シゲ君という小四の男子の番でした。六人目ですので、レンガを持って帰る役回りです。彼は一人で『灯台』に入っていきました。

ところが、いつまで経ってもシゲ君は屋上から姿を見せません。彼が入ってからたぶん十分ぐらいは経ってたと思います。下で待ってる僕らが「シゲー!」と大声で呼んでみても、何ら応答がないのです。

中に様子を見に行こうか、と相談していた矢先ようやく屋上に人影が見え、こちらに手を振ってから姿を消しました。それを見た僕らはホッとして、彼が降りてくるのを待ちました。登るのに時間を要したのだから、降りてくるのも時間がかかるだろう、と思いました。

ところが、その一分後ぐらいにシゲ君は降りてきました。なぜか半泣き状態で。「ごめんなさい、ごめんなさい」と言うばかり。その手にはレンガが見当たりません。

「どうした?」
「大丈夫か?」
「レンガは?」

皆が駆け寄って声をかけました。シゲ君はしばらく泣きじゃくっていましたが、ようやく説明してくれました。

「こわくて、階段の途中でうずくまって泣いてた。屋上まで行かずに戻ってきたから、レンガは持ってきてない」

それを聞いた僕らは、顔を見合わせました。

──じゃあ、さっき屋上から手を振ってたの誰だよ……

レンガは屋上に置きっぱなしにして、その場から逃げるように帰りました。怖かったので、皆で固まって帰ったのを憶えています。

それ以降、夜に『灯台』へ行くことはありませんでした。

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