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【人が怖い実話24】占いビジネス

今回は怖い話というよりは、業界の裏事情に近い。私の体験談だ。

以前、占い師の先生に弟子入りして実際にお客さんを鑑定したことがある。

占いは副業として十分成立するのでは、と考えたからだ。自分自身はそこまで占いに興味はなく、ビジネスとして携わってみたいと思った。特定の資格も不要で、直接的にお客さんの役に立つという点も魅力的だ。

占いといえば対面鑑定が思い浮かぶかもしれないが、メール占い、電話占い、チャット占いなど、自宅で鑑定可能な形式もある。その場合、手の空いたスキマ時間に鑑定できる。時間と場所に融通の利く職業の1つだ。

あと、むかし大阪へ行った時に石切エリア(占い街で有名)でオッサン占い師に手相鑑定してもらったことがあるが、その時の対応が最悪だった。

「あんたは内臓悪いの?」とか、「最近、身内で亡くなった人いるでしょ?」だの、こちらが尋ねてもないこと且つネガティブな内容をベラベラと巻くしたてた。

私は思った。
──あんな程度のコミュ力で対面商売できるんなら、私にも余裕でこなせるのではないか。

以上の理由から、インターネットで探した占い師A氏の元に弟子入りした。氏の年齢・性別は伏せさせてもらう。

まず簡単に占いの種類を述べておく。占いは3種類に大別できる。

1)命術めいじゅつ
生年月日などの不変的情報に基づいて占う(四柱推命、西洋占星術など)

2)卜術ぼくじゅつ
偶然の事象に基づいて占う(タロットカード、おみくじなど)

3)相術そうじゅつ
ものの形状に基づいて占う(手相、風水、姓名判断など)

ちなみに私のプロフィール画像は、タロットカードの「月」である。

私は、A氏から四柱推命の概要や、変則型のタロットカード占いを個人レッスンで学んだ。レッスンの過程で、色々と興味深いことを伺った。

例えば、「ほとんどの夫婦が、自分と相性の良くない相手と結婚してますよ」とA氏は語る。なかなかの衝撃発言だ。かく言うA氏自身も離婚経験があり、離婚後に占いを習得したと記憶している。

「もし結婚を考えてるパートナーがいるのなら、四柱推命(命術)などでお互いの相性を鑑定してもらったほうがいいですよ」とも言われた。

ちなみに、四柱推命や西洋占星術で占ってもらうためには、正確な出生時間と出生場所を把握しておく必要がある。よほど占いが好きな人間以外、自分が生まれた正確な時刻を知っている人は少ないのではないだろうか。私も知らなかった。なお、出生時間は母子手帳に記載されている。

自分のはともかく、パートナーの出生時刻を聞き出すのはハードルが高い。夜景の見えるレストランでディナーを愉しんでいる最中、「ねえ、何時何分に生まれたの?」と唐突に問い質そうものなら訝られること山の如しであろう。仮に教えてくれたとしても、それが事実であるという保証はない。出生時刻なしでも鑑定可能だが、そのぶん精度が下がる。

また、A氏は「自分が占いの鑑定に注ぐエネルギーは、ゼロ」と豪語していた。

乱暴に表現すれば、「あまり考え込まないように適当に占っている」そうだ。A氏は電話鑑定やチャット占いの待機中、YouTubeや映画を鑑賞することが多いという。ゆえに、映画を観ているときの感情が占いの鑑定結果に反映されることもあるそうだ。

念のために書いておくと、私はA氏のスタイルを否定しているわけではない。むしろ尊敬さえしている。「エネルギーゼロでお金をもらう」というのは、プロ中のプロしか出来ない芸当だ。事実、A氏には多くの固定客がついているようで、中には毎日のように電話鑑定を依頼するお客さんもいるそうだ。

さらに、私は占い、特にタロット占いを学ぶにあたり、気になっていることを吐露した。

「四柱推命とか西洋占星術なら、まだ統計的な根拠があるって分かるんですが、タロットってどうにも胡散臭いなと思うんです」と、正直に思うところを伝えた。

するとA氏は、こう答えた。

「仕事として割り切ってやるんなら、むしろそのほうが向いてると思います。お客さんが求めるのは、占い好きや占いに詳しい占い師ではなく、自分の悩み・不安を解消してくれる占い師です。こちら(占い師側)が占いを信じていようがいまいが、お客さんには何ら関係ありません。知識は最低限に止め、実践しながら経験を積んでいけば問題ないです。もっとも、占いを教えることを生業にする場合は、それなりの知識も必要ですが」

完膚なきまでの、ド正論である。

また、「嫌なお客さんとかいませんか?」と尋ねたら、「いますけど、気にならないです。お金もらえるので」と即答された。

清々しいほどにビジネスに全振りしている氏の姿は、格好良いとさえ思えた。この「お金もらえるので」というフレーズは、複数回聞いた。

ちなみに、占い師といえば一風変わった名前と服装をしていることが多い。お客さんに非日常的な空間を提供する、という理由だそうだ。

A氏の個人レッスンは3回ぐらいで終了して、チャット占いでデビューさせてもらうことになった。占術は、変則型のタロット占いだ。

チャット占いとは、文字通りインターネットを介してチャットしながら占う鑑定方法である。

お客さん側は「占い専門サイト」にアクセスする。登録されている占い師が一覧表示される。そのなかで「チャット占い:待機中」と表示されている占い師にアクセスする。その後に鑑定が始まる。

占い師側は、自分のスキマ時間に「チャット占い:待機中」に設定しておく。鑑定依頼が来るまでは、何をしていてもよい。依頼が入るとメールで通知が来る。

料金は、文字数に応じて加算される。すべてお客さんの負担だ。文字当たりの単価が、占い師ごとに決まっている。「こんにちは」と打つと、5文字分のお金がかかる。依頼件数が増えるにつれて、文字単価を上げることができるようだ。

対面や電話鑑定との違いは、複数のお客さんを同時に鑑定できることだ。3~5人を同時に鑑定するのはザラらしい。というか、そうしないと稼ぎにならない。もはやオンライン版・聖徳太子である。

また、チャット占いでは、「新人潰し」をする占い師もいるから気を付けろと忠告された。

ベテラン占い師からしたら新参者が次から次にデビューすれば、自分の食い扶持が危ぶまれる。チャット占いで鑑定する場合、お客さんの素性は全く分からない。だからベテラン占い師がお客を装って、鑑定結果に難癖つけて精神的に追い込んで辞めさせるらしい。

新人潰しはあらゆる業界で見受けられるが、占いの世界も例外ではないようだ。

結局、私はチャット占いで、2人のお客さんを鑑定した。いきなり同時に鑑定はできないので、ひとりひとり順番に鑑定した。鑑定を実践してみて色々と思うところがあり、その翌日に、辞めた。

早々に辞めてしまったが、弟子入りして良かったと思っている。仕事自体は素晴らしいと思うので、もし身近に占い師やってみたいという人がいれば、応援したい。

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