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【怪談実話122】悲しい煙

女性Rさんは二十代の頃、自殺未遂をしたことがある。自宅に買い置きしてあったバファリンを、衝動的に過剰摂取した。片手に山盛りの量の錠剤を、ウィスキーで体内に流し込んだ。

命は取り留めたものの、生きる意味を見いだせない日々が続いていた。その後ほどなくして恋人ができるが、それでも暗闇を這うような精神状態が好転することはなかった。

自殺未遂から約十か月後、秋頃。
彼氏のアパートのベッドで身体を重ねた後、Rさんはウトウトして寝落ちした。

ふと目が覚めたのは夜中二時ごろ。部屋は暗い。左隣の彼氏は、すぅすぅと寝息を立てている。彼氏の部屋はワンルームで、壁側のベッドからキッチンが彼氏越しに視界に入る。

「キッチンの床から、ふわっと白い煙みたいな水蒸気が見えたんです。何もないフローリングから立ち昇ってました。え……ってなって。ふわあ、ふわあ、と立ち昇る煙が、すごく悲しい煙だったんですよね。さめざめと悲しい気持ちになって、涙が出そうになりました」

その煙は、床からキッチンの高さぐらいまで立ち昇った時点で自然に消散した。煙が現れてから消えるまで、時間にして十秒程度だった。

「自殺未遂の後、なぜ生きているのか分からない精神状態だったので、そんなものを見たと思っています」

また、当時の彼氏は「結構ひどい人」で、もともと別の女性と交際していたが、その女性を振ってRさんと付き合うことになった経緯がある。

「酷い振り方をしたっぽいので、あの煙は生霊的なものかもしれないと思いました」

その<悲しい煙>を見たのは、一度きりだそうだ。

【参考図】
Rさんによるイラスト1:煙の模写図。「けむり人間」というのは、煙だが人間味を感じたという意味である。

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Rさんによるイラスト2:間取りと煙の発生場所。キッチンの前が発生場所である。

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