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【取材した怪談229】神奈川の廃病院

文章取材:三十代男性

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私は子供の頃、神奈川の田舎に住んでいました。

自然があふれる場所だったのですが、その自然の中にはあまり似つかわしくなく、昔病院として使われていた建物が廃墟として残っていました。
もちろん施錠されているので中に入ることは出来ず。そして入口の前には車を数台停められるようなスペースがありました。

夜になると近くの空き地や公園には不良連中がたむろしていることも多かったのですが、その病院の駐車スペースに人がいることは一度も見たことはありませんでした。

廃墟の近くには中学校があり、昼間は生徒たちの声でうるさいぐらいです。
病院の立地場所はメインの道路から外れていて街灯も少ないこともあり、夜にはちょっと不気味に思えるような所です。

普段は夜にその場所を歩くことはなかったのですが、ある日私の両親が用事で遅くなりました。早く帰りたかったこともあり、普段なら避けるその道を通ったそうです。

夜の十一時頃だったそうですが、当然ながら他に人はいません。
気味が悪いな~と思いつつ病院の前を通ったときです。

ざっざっざっ……

サンダルを擦って歩くような音が聞こえました。
母は周りを見渡しましたが、前には誰もいない。もちろん振り向いても誰もいない。とにかく周りには誰もおらず、確実に自分たち二人だけ。ちなみに父もこの時に同じ音を耳にしたそうです。

言葉にこそ出さなかったものの、父の表情を見て母は「同じ音を聞いている」ということを察知したそうです。

その場から動けなくなって二人とも立ち尽くしていると、その間もその音は続きます。怖くなって
「早くこの場を通り過ぎよう。早く離れなければ」と思ったその時。

風もないのに突然、廃墟の入口からギィ────、と軋む音が……。

驚いて入口を見ると、白くぼやっとした人影がすーっと中に入っていったそうです。

それを見た父が『まずい!』と思い、母の手を引き急いでその場を離れました。
無事に帰宅した両親でしたが、この出来事の翌日から母が高熱で一週間ほど寝込みました。病院にもかかりましたが、高熱以外の症状はなく、詳しく検査をしても原因は分からずじまいでした。

そして後日この出来事を友人に話したところ、数名の友人から同じような話を聞いたのです。本人だったり知り合いだったりでしたが、皆があの「ざっざっざっ……」というサンダルを擦るような音を聞いていました。

そして後から聞いたことなのですが。
見た目が小さいクリニックのような建物だったので、私たちは通院患者のみが来る病院だと勝手に思いこんでいました。けれど昔から住んでいる年配の人の話によると、この病院には入院患者もいて霊安室もちゃんと完備されていたそうです。

病院がまだ運営していた頃には、近くに日用品や飲食物を扱っているお店があって、院内に売店がなかったことから買い物に出る入院患者さんも多かったそうです。

これは私の想像の話になってしまいますが……。
入院患者さんはつっかけのサンダルを履いている人が多かったようなので、以前入院していて亡くなった患者さんが未だに病院へ出入りしているのかもしれません。

この出来事から約十年後に私は引越しをしてしまったので、夜にあの廃墟の前を通ることもなく、病院自体が存在しているのかも分かりません。
もし今も廃墟があるとして、あの不思議な音は未だに聞こえてくるのでしょうか……。

確認したいけど、怖くて触れたくないような気持ちです。

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