【取材した怪談話138】唯一の夢
風香さんは、祖母を癌で亡くしている。
その祖母は、母親の再婚相手の親だった。
祖母の病死以降、風香さんはある夢を見るようになった。
夢の中は、やたらに広い原っぱが舞台。
清々しい好天の中、彼女は宙に浮いている。
ビルの3~4階ぐらいの高さだ。
原っぱの地上には、自分の親族が集合している。
老若男女の親族が全員、集まっている。
ここで必ず一度、目が覚める。
だいたい朝の4時ごろだ。
起床には早すぎるため、再び目を閉じる。
そしてまた夢を見る。先ほどの続きだ。
風香さんは、宙に浮いたまま。
今度は、地上にいる親族らが殺し合いを繰り広げている。
喧嘩ではない。
殺し合いだ。
ある者は、別の者に馬乗りになり首を絞めている。
ある者は、別の者を殴打しつ続けている。
ある者は、別の者に刃物を突き刺している。
風香さんだけが真上から、その阿鼻叫喚の地獄絵図を眺めている。
上空の自分は、動くことも声を出すこともできない。
ただただ、殺戮を傍観するほかない。
ひとり、またひとりと絶命し、地面に斃れていく。
最後には、鮮やかな薄緑色が広がる草原に親族全員の死体が転がる。
地上の生存者は、ひとりもいない。
そこで、目が覚める。
夢は、この夢しか見ないそうだ。
毎晩この夢を見るわけではなく、精神的・肉体的に弱っている時に限り、見るという。
この現象が、13年以上続いている。
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