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【取材した怪談238】馬

四十代女性Lさんは幼稚園児のころ、ある特定の夢を見ると夢遊病状態に陥っていたそうだ。

当時、彼女の家族はアパートの2階に住んでいた。
彼女がその夢を見たときは、わんわんと泣きじゃくって、寝床から起き上がって部屋をふらふらと歩いて窓を開けて外に出ようとする。
バルコニーがないので落下するおそれがある。
そのため母親が常に近くで寝て、Lさんの症状が出るとすぐに自分も跳ね起きて幼い彼女を窓から遠ざけていた。

夢の内容は、一頭の褐色の馬が自分の目の前をただひたすら駆け抜けていく映像だ。
理由はよく解らないが、その夢を見ると涙が止まらず、居ても立っても居られずに窓から逃げ出したくなる。

馬の夢を見る正確な頻度は思い出せないが、一度や二度ではなかった。
小学校に上がったころには、もうその夢を見なくなった。

それから月日は流れ、約40年後。
Lさんは、友達に連れられて都内の著名な女性霊能者に前世判断をしてもらった。

「前世、馬だね。仔馬こうま。茶色の」

そう霊能者に告げられた。
自分について何も情報を伝えていない段階で。

だがそのときLさん、小さい頃の馬の夢をすっかり忘れていた。彼女は、人間は人間に生まれ変わると考えていたから、『前世が仔馬』と言われて爆笑してしまった。だから「馬で何か思い出すことない?」と霊能者に問われた時も「わかんないです」と返すしかなかった。
霊能者は続ける。

「仔馬で亡くなったんだよ。あなた、体力ないでしょ」

その時点では馬の夢のことは思い出せなかったが、Lさんは確かに体力はない。風邪を引きやすい体質だし、遠足に行っても歩き疲れてしまい弁当を完食できなかった。
霊能者はさらに続ける。

「その仔馬は、群れで母馬と一緒に行動しててね。でも体力がなくて、群れから遅れがちだったの。そのときも群れから遅れ、やっとの思いで森の中の水飲み場にたどり着いた。でもそこで力尽きて、地面に倒れたの。その後は起き上がれず、母馬に付いていくことができずに群れから置いていかれた。仔馬はそのまま、そこで亡くなったのよ」

ここまで聞いてもなお、その時点では馬の夢を思い出さなかった。

後日、幼い頃の夢を思い出して鑑定結果に合点がいった。
自分が泣いていたのは、母馬が属する群れから置いていかれて悲しかったから。
逃げ出したいのは、今いる場所を離れて群れに追いつきたいから。

ちなみに、その茶色の仔馬(性別は不明だそうだ)の前世、つまりLさんの前前世は、海外の天涯孤独な男性農夫だったそうだ。彼は自分が飼育していた馬を溺愛しており、「キミの眼は綺麗だな、生まれ変わったら馬になりたいよ」と愛馬に話しかけていたらしい。

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