【怪談実話83】肝試し前
北海道出身の男性Aさんは高校生のとき、地元の山中にある墓地に肝試しに行ったことがある。夏の夜、高校の同級生の男子、その同級生の従妹ふたりの合計4人で出かけた。
のどかな田舎町で、その墓地も特に心霊スポットというわけでないが、肝試しの場所としては、十分におあつらえ向きだった。
皆で他愛のない話をしながら、墓地に続く、街灯のない舗装された一本道を歩いて進む。懐中電灯は所持しておらず、手ぶらだった。彼ら以外、人の気配はない。
まだ墓地区域に入る前だというのに怖じ気づいてきたAさんは、ひとりだけ少し後ろに下がって歩いていた。前の3人は、女子・男子・女子の横並びで歩いている。
「おせぇよ」
前を歩いていた同級生男子が、こちらに振り返って急かしてきた。
そのとき。
振り返ってこちらを見ている彼の肩越しに、色白い男の顔がにゅっと現れた。暗い夜道とはいえ、1メートルぐらいの距離で目に映っているため、見間違いないようがない。
男は血の気がない顔色で、無表情。おそらく30~40代だった。それ以外の顔の特徴は、憶えていないそうだ。
仮に生きた人間だとしても、前の3人が気付かないはずがない。
「ひ」
短い悲鳴を上げたあと、Aさんは歩いてきた道を一目散に走って逃げた。
「お、おい。どうしたッ」
状況が飲み込めない同級生男子らが、あわててAさんを追いかけてくる。
街灯がある場所まで走って立ち止まると、すぐに同級生男子らも追いついてきた。息を切らしながら、皆で小休止した。
「どうしたんだよ」
「お前の後ろから、男が出てきて」
「いやいや、怖えこと言うなよ」
結局、肝試しは、それで終了した。
「墓地に入ってくるな、と警告されたのかもしれませんね」
身をすくませながら、Aさんは語り終えた。
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