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【人が怖い実話19】誘う女(中国)

「子供の頃に、嫌な体験してますね」

と流暢な日本語を話すのは、中国人留学生の李さんだ。

2006年、中国の東北部。
当時小学2年の彼が放課後、学校の砂場でひとりで遊んでいたとき。

「こんにちは、ケンちゃん。元気かい」

ひとりの長身の老女が腰をかがめて、優しそうな口調で話しかけてきた。

だがしかし、自分の名はケンでもないし、その老婆も知らない人だ。
学校の関係者だろうか? でもこんな人は見たことない。

彼がどう対応していいか困惑していると、作ったような笑顔で彼女が続ける。

「この近くに引っ越してきたから、遊びにおいで」

幼いながらも、言葉の裏に隠れたねっとりした悪意を察知した。
彼は首を横に振る。

とたん、老女の態度が豹変した。

「ひどい子だねっ。私を忘れるなんて」と言い放ち、眉を吊り上げてギョロリと自分を睨みつけてくる。そして、ぐいと片方の腕を掴んで彼を学校の外に無理やり連れて行こうとした。

「やだやだやだやだ」

泣きながら抵抗するが、老婆に掴まれたままどんどんどんどん校門のほうに向かって引きずられていく。年配の女性とは思えないほどの筋力だった。

不運にも、李さんが遊んでいた砂場は校門に近い位置にあり、近くには誰もおらず、助けを求めることもできなかった。

どうしていいか解らず、ジタバタと藻掻いていたとき。

校舎のほうからこちらに向かって、数人の男児らが雄叫びを発しながら猛スピードで駆け寄ってきた。その状況に老女はうろたえ、掴んでいた李さんの腕をぱっと離して校外に逃走した。

おそらく学校のすぐ近くに車を待機させており、拉致する算段だったと思われる。

「僕が誘拐されそうになっているのを、同級生の友達らが見つけてくれたんです。大声で追い払ってくれました。もし彼らが見つけてくれなければ、今頃はどうなっていたか解りません。あのババァ……」

終始、日本語の敬語、丁寧語を駆使していた李さんだが、老女のことだけ「ババァ」と吐き捨てて語気を荒げていたのが印象的であった。

・・・

※中国は誘拐大国。家の跡継ぎや老後の世話役のために児童が誘拐されるという。


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