できることならスティードで Intermission3 「ホンダ スティード 400」/加藤シゲアキ (読書感想文)

単行本発売にあたり
書き下ろされた
"旅する"掌編小説3編のみっつめ。

この小説のタイトルを見ればわかると思うが
バイクの話だった。

そして、そのバイクは
このエッセイ集のタイトル
『できることならスティードで』の
スティードのことだ。

冒頭、バイクのエンジンをかけた時の描写に
『目を覚ましたエンジンは大きく嘶き』とあった。
「嘶く」とは馬が声高く鳴く事だ。

私はバイクに詳しくないので調べてみると
英語の「steed」は「馬」「軍馬」という意味なんですね。
なのでバイクを馬に例えて
エンジン音を「嘶き」と描写してるのですね。

そして、やっぱり出てきました。
真鍮でできたハートの南京錠。

主人公の甘汰(かんた)は
父親のフランス出張の際に
ロッカーに使うおしゃれな鍵を買ってきてほしいと頼む。
父親の働いている企業の部品が
フランスの廃棄施設で使われているらしい。
廃棄施設といえば
ふたつめの掌編小説にも出てきてた。
きっとあの場所なのだろう。
そして、父が選んだ鍵が
真鍮で出来たハート型の南京錠だった。

甘汰は気に入らず怒り
落ち込んだままだったので
父は見かねて欲しいものを買ってくれようとする。

そこで甘汰がねだったのは
自動二輪の教習所代だった。

以前見たバイク雑誌に
ホンダのスティード400に乗る
女性の写真が載っていて
『甘汰はどことなく彼女に、
 自分のこじれた自意識を肯定してもらった気がした。』
のだった。

『こじれた自意識』。
加藤シゲアキという人の話を聞いていると
時々『自意識』とたたかっている様子が見てとれる。
なのでファンは『自意識』に反応してしまったのでは
ないだろうか?
私はめちゃくちゃ反応してしまいました。(笑)

教習所に通いながらバイク代を貯め
バイク店を巡って
スティードの入荷のお知らせを頼んで回った。
そしてスティードを手に入れる。

その時の甘汰の心情の描写が印象的だった。
『~それはまさに名の通り、気品と勇敢さを兼ね備えた『軍馬』だった。
 その得も言えぬ輝きに、本当に自分が乗っていいものなのだろうか、
 まだふさわしくないのではないか、
 と思わずスティードを諦めそうになる。
 しかしあのとき見た写真の女性の姿を思い出し、
 甘汰は自分の尻を強く叩いて、それを購入した。』

馬に乗った時、、、
競馬のジョッキーは馬の尻を叩いて走らせるが
甘汰は自分の尻を強く叩いている。
その表現にクスッとなった。

あっ!競馬といえば
掌編小説のふたつめに出てきてるではないか。
やっぱり少しずつ繋がっている。

あと、『甘汰』という名前。
『オルタネート』の批評の中で
登場人物の名前が覚えにくいとか
言われてたりしたけれども
今までの作品を読んでいると
登場人物の名前は意味のあるものを付けている気がする。
『甘汰』もそんな気がする。。。

初めてスティードに乗った甘汰は
『地続きであればどこまでもいけることを実感し、圧倒された。
 そしてその可能性が自分の未来と重なった。どこにでもいける。
 なんにでもなれる。』と思った。

『地続き』はひとつ前のTrip『パリ』を思い出す。
そして『なんにでもなれる』は
シゲちゃんが書いた戯曲『染、色』の中で
主人公の深馬が真未に言われたセリフ
「君は何にだってなれる」を
思い出させた。

甘くて青くさいかもしれないけれど
若い時のそれは
とても大切なような気がする。
いや、いくつになっても
そういう感覚は大事な気がする。

何かを行動したら
何かが変わる。
思った通りの『完成』だったり
『成功』だったりとは
違うものかもしれないけれど
何かが生まれるのだ。

甘汰は大学卒業後
就職のために都内に住むのと
バイクよりも車に乗る機会が増えたので
スティードを手放そうとしていた。

シゲちゃん自身は
次にバイクを買うならスティードと思っていたけれど
買う前に車に乗るようになっていったので
結局スティードは購入していないと
ラジオで話していたかと思う。

このみっつめの掌編は
どこかシゲちゃんとも
リンクしている気もする。

そして、最後にスティードに乗って
初めて行った場所に行く甘汰。
そこでみつけたものは何だったのか?!

最後の一文を読んで
わたしは
「!!!」となった。
ひょっとして甘汰って?!ってなったのです。

実は、諸事情で
『Last Tlip 未定』を先に読んでいて
私の中でこのみっつめの掌編小説と
繋がってしまったのです。

単行本化の際に追加された
掌編小説3編と『Last Tlip 未定』は
繋がっているんだ!!!とはっきりしたのでした。

他のTripとも繋がってるところもあるし
すごく計算されて
追加されたのだなぁと思いました。

私の諸事情についてはまた
『Last Trip 未定』の時にでも
お伝えしたいと思います。。。

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