社会心理の健康状態
先日ツイッター(現X)に興味深いアンケートを見つけました。それを紹介して考察してみたいと思います。
このアンケートをご存じの方もおられると思いますが、ツイート主については、好き嫌いがあると思いますのでここでは明かさず、アンケートとその結果についてなるべく素直に受け入れてもらいたいと思います。
結果は、 🔴 43.5% 🔵 56.5% (全44,667票)
でした。外国の結果も示されています。
米国 🔴 35% 🔵 65% (全68,774票)
ロシア 🔴 45.2% 🔵 54.8% (全8,385票)
また、リプを見ると面白い。
【赤派】
・赤を押したら確実に助かるなら、青を押す意味がない
・読解力と論理の問題…
・なぜ青を押すリスクを選ぶのか
・赤はノーリスクで、青には愚かに死ぬリスクがある
・青押す人は勝手に不要なリスクを背負っているだけ
等々…
【青派】
・赤を押すことは、自分主義、協調性や思いやりに欠ける
・皆が助かるように青を押す
・赤押すと命かけて人を救う善人達も大量死する
・愚かに死ぬ可能性ある奴らを救うために青押す
・みんな自分しか助かる事を考えない社会は怖い
等々…
この質問は、映画「マトリックス」の「赤い薬と青い薬」がヒントになっているのかも知れない。それはともかく、オリジナルと思える米国のツイートでは、この質問は12歳の子どもからだそうだ("Pole question from my 12yo: …"と書かれている)。本当なら驚き。なぜなら、この質問は事実上心理調査であり、論理の正誤を問うものではないからです。では、この調査の目的は何でしょうか。
赤派のようにまず自分の身を第一に考えると言う心理が一つあります。
そして青派の全員生き残る方法はないのかと考えるのも一つの心理。
純粋に数学的に赤か青かなら確率的に半々です。しかし、今回赤青を選択するのは人間です。だから、ここに人間の心理が働くことになるのです。青ボタンの条件はそこに上手い具合に揺さぶりをかけます😎。
人間は多種多様であるとするなら、赤派と青派に分かれるのは自然と思えます。どちらを選ぶかは、社会状況やその人の背景によって変わる可能性もあります。しかも、人間は一人で生きているものでもありませんので、社会的な心理も入って来るでしょう。
とは言え、どちらを選ぶべきかと言う人間本来の姿(理想)はあるのでしょうか。
ここでちょっと話がずれるかも知れないけれど、皆さんは岡潔(1901〜1978)という数学者をご存じですか。数学なんて日常にあまり関係ないので知らない方もおられるでしょうが、傑出した数学者で、当時の数学の大問題を解き新しいアイデアを出した学者で、そこから現代数学の新分野を拓いた数学者です。1960年に文化勲章を受賞しています。また思想家でもあり、例えば「春宵十話」(1963年)という随筆はベストセラーになったということです。
わたしも大学時代、岡先生の講義を聞いたことがあります(1970年ごろ)。と言っても、数学の講義ではなく、日本民族に関する講義でした😅。どんな話だったかよく覚えていませんが、「情緒」という言葉をよく使われていました。先生の言う情緒は、辞書的な意味ではないようです。自然に生まれる感情、喜び、関心、人間が本来持っている感性のようなもの…簡単に言うと「こころ」です(単に「情」と言っても良い)。
さて先程の「春宵十話」にこういうことが述べられています。
ここから、岡先生なら赤・青ボタンのどちらを選ぶか明確にわかりますね。
宗教の教義の面から言うと、わかりやすいのは天理教で、「人を助けて我が身助かる」と言います。これは、自分が助かりたいために、人を助けるという意味ではないでしょう。それは打算的功利主義ですから。そうではなく、自分が助かりたいという視点を、他人を助けたいという視点に転換するということを言っている訳です。
キリスト教にも似たような教えがありますね。いわゆる隣人愛がそれでしょう。「あなたの隣人をあなた自身のように愛しなさい。」
佛教思想では、無我、空による実践と言ってよいでしょう。この実践においては、「愛しなさい」というように言われてするのではなく、自主自律の自然の行いになります。神様が見ていようといまいと、行わずにはいられないという心持ちです。
しかしそれより、ジャータカという説話集にあるうさぎの布施の話が分かりやすいかも知れません。話すと長くなるのでここでは省略します。(興味のある方は、例えば、ここ「うさぎの布施」〜見返りを求めない布施の心 などをご覧ください。)
しかし宗教と道義教育(道徳)とは少し違う分野になります。岡先生の話に戻りましょう。先程の随筆集に、
前の引用箇所では「自他の別」と言っていましたが、その頃(数え年五つ)から自分と他人が区別できるようになってくるという意味なのでしょう。「自他対立」というと、世間と自分の中の心理・分別心、自然の客観視などを言うのでしょうか。「自と他が同一」になるとは、先のキリスト教の隣人愛のように、自他を同じ立場にする関心や思いやりの心情を言うのかも知れません。(この箇所は抽象的に書かれていますが、前後を読むと具体例もあります。)
ここでまた唐突な話を展開しますが、理論物理学者のホーキング博士は、宇宙人との接触に警告を発しました。悪のエイリアンの来襲で人類が滅ぼされるのを危惧したのでしょう。しかし地球よりずっと高度な文明を築くには独善的な政府ではできないのではないか。互いに助け合う(善の)精神がなければそれほど長く生存するのは難しいと思うのです。
科学は地球上で起こる現象も遠くの宇宙で起こる現象も同じ法則で働くとしています。エイリアンが人間とよく似た姿かたちかどうかは分かりませんが、人間(ETも含め)精神も宇宙のどこでも同じではないかと考えます。岡先生は数学は人の心から作り出された学問芸術と言われていますが、科学も人間精神(心)が発見・発明したものであれば、そこに、知的欲求と共に真善美(色調は違うかも知れない)を求める心もある…と、わたしのような古い人間は考えるのです。
さて話をはじめに戻しましょう。この調査アンケートを始めたのは、青派の人だと思います。赤派なら、論理的に結論は決まっているので調査の必要がないと思うからです。
ではでは、この調査の目的は何でしょうか。それはやはり社会的な心理〜道義心〜の健全性を知るためではないでしょうか。
皆さんはどうでしょうか、赤派ですか、青派ですか🙂
【註】
◎ 冒頭画像はWikipedia「赤い薬と青い薬」より WCarter作
◎ 2024年10月21日、一部加筆修正。
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