未来は俺等の手の中2

4.

いきなりイベントをやることになったのが、8月頭のぶっきらぼうな電話。9月半ばの土曜日。きみさ、オーガナイザーとして育てたいんだよね。店長は前回の支払いの時、なけなしの1万8千円を支払うときもそういった。これはさ、札束を握りしめ、将来への投資だからね。今は我慢。タロック君とか誘ってさ。イベントやれば?。オーガナイザー?でも育てたい。よくわからないけれど、オールナイトのイベントのオーガナイザーってやつを頼まれた。ちょっと育てるって言葉に嬉しくも、身が引き締まる。イベント名はリズムフリークスにした。八月半ば、確認の電話が入る。彼はイベント名以外何も決めていない僕に吃驚して、おいおいといきなり声色を変えた。てんぱる僕はじゃあ、タロック君に電話してみます。いや、タロック君、前の日イベントやるから。じゃあさ、きみの友達でDJやってみたいやつ誘ってよ。こっちもさ、フライヤーも用意したら配るしさ、ライブペインターなんか、いるでしょ?。真夏の駐車場にいる時間が長くなる。違う部屋の窓から明かりがメモを指す。6万円。2000円×30人。フライヤー。フライヤー?。ライブペイント?。慌てて、太郎ちゃん、きしくもタロック君と同じ名前の同級生や、二人の後輩、一人のターンテーブルを持っているB系の女の子、それにやっぱり同級生でゼミが一緒のDJに電話をつづける。快諾だった。B系の女の子だけが、メールをちょっと遅くに返してきて、だけど、やるわ!といった。DJの男の子に、でさ、ノルマがさ、といったら、いや、Gちゃん、それは受けらんないわ!俺、だってもうギャラ貰ってやってるからといわれた。ギャラ?ノルマ?混乱して、じゃあさ、みんなには内緒で、ってノルマなしどころかギャラもなしに出演してもらうことになった。あれ?フライヤー?あわてて、携帯でネットに繋ぐ。イベントのフライヤーはどうやら1000枚で1万円くらいするらしいぞ。諦めて、本当にいろんなひとに電話し、メールした。BBSやメーリングリスト。タロック君も行けたら行くねー!といってくれた。

当日がどうだったか、覚えていること。まず店長に誓約書を書かされたことに驚いた。クラブに何かあったら、補償しなければならない旨、ぶっきらぼうに便宜上だからと、彼はサインする僕を見下ろしていった。後輩の一人男の子が頑張って集客してくれた。ゼミのDJの子の友達数人以外は、彼が呼んだサークルの友達だった。それでも20人ちょっとは入ったこと。ほとんどがDJブースをチラ見しては、あの子が来ないね、と僕にいった。そう、DJの女の子は結局、来なかった。だから彼女目当てに来た子たちは、ずっとカウンター近くで座って話していた。頑張ってくれた後輩がずっとMUSEばかりかけていたこと。太郎ちゃんが鳴っているほうのCDJのイジェクトボタンを押して、無音の後、静まったフロアでハンドクラップをはじめ、すべっていったこと。ゼミのDJの男の子の2時間は凄くちゃんとしていたこと。ゲームボーイまでミキサーに繋げて、途切れないまま黒く洒落た音が流れ、ドタキャンした子目当ての女の子にまで、ブースを覗き込ませた。僕が最後にミッシェルのJENNYを流すころにはほとんどお客さんはいなかった。一人だけ踊ってくれた女の子がいた。店長に最後に1万6千円支払い、握手した。ちょっとはDJ式に慣れたはずが、店長とする初めての握手はビジネスライクだった。

やっぱりカラスが生ごみを漁っている明け方の新宿で、踊ってくれた女の子と道路を挟んで、またね!と手を振り、出演者だけで24時間営業の居酒屋さんに行った。ここはおごるよ。僕はでも、Mちゃん来なかったなあ、あいつ!とドタキャンした子について話したら、みんながどっと笑った。それでもなんとか、成功したんじゃないかな?オーガナイザーとして育てたい店長の気持ちに答えられたかな?嬉しい朝だった。起きたらおかあさんにお金をまた借りなきゃ、そう思った。

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