ほんのささいなことにすべてはつまっている

大好きな人と一緒に「思い出せなかったことを思い出せた瞬間」を尊く感じる。

地名、人名、あの時の出来事の流れ…。

そういうのを一緒に思い出せるというのは、それだけその人と一緒に時間を過ごしている証だから。

『ロマンスドール』という映画がある。(amazon primeにある)

映像からして透明感しかない。さらにはキャストが綺麗すぎてビー玉を覗くときのような凛とした気持ちになる。しかし、予告だけ見ると結構どころかかなり官能的で、というかダッチワイフが主題になっていたものだから、おやおやこれは?と思ってどんなものかと鑑賞してみた。

ダッチワイフの話でこんな泣けるとは思わなかった。

ダッチワイフを制作する高橋一生と、そのモデルになった蒼井優。

結局二人は夫婦になるのであるが、蒼井優は最後、いなくなってしまう。
(ネタバレになるのであとはご覧になってください!)


劇中で、二人は「ある犬」に遭遇する。
桜が満開の中で出会った老夫婦の連れているその犬がかわいくて、つい二人は犬の名前を聞いてしまう。

数年後、蒼井優がいなくなってしまった後、高橋一生は妻と一緒に見たその犬の名前をどうしても思い出せなくなる。つまり、妻と過ごした大事な時間のひとかけらを無くしてしまったと焦るのだ。

でも最後、高橋一生は、ある重要な場面でその犬の名を思い出すことに成功する。「そうだ、あの犬の名前は…!」と叫ぶのだ。そして、もういない妻に思いを馳せて、涙を流すのだった。

この時、ダッチワイフは映画の片隅に追いやられ、本物の妻と心も体も重ねていた描写は圧巻だった。もういない人と一緒に経験したことを思い出すのは、その尊い時間を取り戻すことなのだ。もういないその人を、その出来事を、もう一度蘇らせるのだ。


シンガーソングライターの柴田聡子さんが上京時のコメントで「結婚式とかの大きな経験も人生をアップさせるかもしれないけれど、ほんの些細な出来事の方が私には大切」というようなことを言っていた。

忘れられないような大きな出来事ももちろんだけど、忘れてしまうような小さい出来事の方が圧倒的に多く、その人生を作ってくれている。大きな柱を補強する粘土のように。

そういう部分を何度も思い返そう、と思った。

そういうことをもっと、大事な人と思い出したいと思った。

追記☆
『ロマンスドール』の主題歌は、never young beachの「やさしいままで」。高橋一生さんの弟がボーカルを務めるバンドの楽曲です。
「優しい」は素敵なことだけど、維持することによって成り立つものだと思います。その大変さがにじみ出ている楽曲です。


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