第2話 結局、俺は何者なのだ?
侍女の後について廊下を歩く。廊下を見ただけで、この建物が驚く程広いということが分かった。
どこまでも真っ直ぐに続く廊下。その左右の壁には数えきれない程の扉が並んでいる。巨大ホテルがこんな感じだろうというところだ。巨大ホテルなど行ったことがないので、あくまでも想像だが。
その廊下を多くの人たちが歩いている。
リズと呼ばれた前を歩く女性と同じメイド服を着た女性たち。男性はスーツ、よりタキシードに近いのだろうか。稀に鎧兜姿の人を見かけるのは、警護役の騎士というところか。
映画か何かで見た中世ヨーロッパの光景によく似ている。
すれ違う人たちを目元まで伸びた前髪の隙間から相手に気付かれないように見ているのだが、その相手の方は何の遠慮もなく自分をジロジロと見ている。
薄汚れた子供が何をしているのか、聞かなくても彼らの考えている事は分かる。
どれだけ歩いたのか。一階まで降りた所で外に出て、辿り着いたのは庭にある噴水の前だった。
「ここで体を洗いなさい」
「はい?」
「タオルはここに置いておきます。終わる頃に迎えに来ますので、それまで待っていなさい」
「……はあ」
自分の問い掛けなど無視。言いたいことを言い終えると侍女はこの場から去って行った。
貧民街の孤児に風呂など勿体ないということか。それともこの世界では風呂は贅沢で、他の人もこうしているのか。
頭に問いを浮かべてみたが、もう一人の自分は風呂に入ったことなどないとしか分からなかった。
噴水からは丸い筒が伸びていて、そこから水が流れ落ちている。流れ落ちる所には、いくつか桶が置いてある。少なくともただの噴水ではなく、水場として利用しているようだ。その桶を手に取って、流れる水で満たす。
季節が冬でなくて良かった。そもそもこの世界に季節があるのかも知らないが――あるようだ。この時間差は何とかならないかな。
着ていたローブのような服を脱ぐ。その下は何も身に付けていない。庭で素っ裸。恥ずかしいのだが、今の自分は子供だ。そう自分を納得させて恥ずかしいのを我慢する。
頭から水を被った。肌を伝って足元に溜まった水を見て気分が悪くなった。被っただけで水が濁った。どれだけ自分は汚れているのだ。
また水をくみ、今度は頭を指で掻きながら水を被る。更に水の汚れが酷くなったが、それを気にしなければ、かなり気持ちが良い。髪を掻きながら水を被る。それを何度も何度も繰り返した。
これだけ綺麗な水をこんな風に使うのは、もう一人の自分は初めてのようだ。嬉しさが込み上げてくるのを感じた。
水の汚れが薄まったら次は頭皮を掻きながら水を被る。いちいち水を汲むのが面倒なので、跪いて噴水から伸びる筒の下に頭を差し出して洗うことにした。
子供の小さな体だから楽に出来ることだ。
元々、風呂は好きではないのだが、この水浴びは全く苦にならない。あまりの気持ち良さに病みつきなりそうなくらいだ。
こうなるとシャンプーは無理にしても石鹸が欲しくなる。石鹸はあるのか。あるとしても相当に高価なものなのだろうと想像出来た。
豊かな世界で生きてきた自分にとって、この世界は色々な面で苦労することになりそうだ。そんな思いが浮かんだが、すぐに無理やり頭から追い出した。
考えれば悲観的な思いばかりが浮かんでくるのは分かっている。今はただ水浴びを楽しみたかった。
頭がサッパリしてきたところで体に移る。水を浴びて手でこすると、それだけでボロボロと垢らしきものが取れてきた。ふと思いついて一旦噴水を離れ辺りを探す。
目的のものは思いの外、簡単に見つかった。
表面がざらざらしている石だ。噴水に戻って、その石を使って体をこする。少し痛いが面白いように汚れが落ちる。背中に手が届かないので、そこはタオルを絞って擦った。
本当は噴水の中に入って、体を洗いたかったのだが、それはきっと怒られるだろうと思って止めておいた。
体が冷えるのも気にすることなく、ひたすら水浴びを続けた。
――かなりの時間、水浴びをしていたようで、侍女の姿が見えた時にもまだ素っ裸のままだった。
子供の姿だが中身は立派な男子。裸を見られるのが恥ずかしくて、タオルでさっと拭くだけで、すぐに服を着た。
髪もまだびしょ濡れのまま。タオルを被って急いで拭く。女性のように伸びている長い髪が鬱陶しい。
「終わりましたか?」
「はい。少し髪を拭けばそれで」
「拭くならこれで拭きなさい」
そう言って侍女は新しいタオルを差し出してきた。それを受け取って髪を拭く。当たり前だが乾いたタオルの方が拭き易い。最初から二枚置いておいてくれれば良かったのに。こんな思いが浮かんだが、口にはしなかった。
水気がある程度取れたところで、鬱陶しい髪を一つに纏めて、それをタオルで縛った。
体もさっぱり。視界も良好。とにかく気持ちが良い。
「お待たせしました」
「…………」
侍女に声を掛けたが、返事がない。どうしたのかと思って、視線を向けてみると、大きく目を見開いて固まっていた。
「あの?」
「……あっ、終わりましたか……部屋に戻ります」
何とも複雑な表情を浮かべている侍女だったが、それ以外は何も言わずに建物に向かって、歩きはじめた。慌てて自分もその後を追う。
部屋へ戻る間も周囲の視線は自分に遠慮なく向けられた。どちらかと言えば、悪化しているようにも思える。
ハッとしたような表情を浮かべる人、露骨に顔をしかめて嫌悪感を示す人。やっぱり、酷くなっている。
体を洗って却って変になったのかと、自分の体を眺めて見たり、顔をこすったりしてみたが、そんな事で何も分かるはずがなかった。
仕方なく周囲の視線が気にならないように、真っ直ぐに前を向いて歩く事にした。
三階に上がり、いくつもの扉の前を過ぎる。元の部屋に到着したようで、侍女の人が立ち止まった。
「部屋の中に食事を用意してあります」
「あっ、ありがとうございます」
「……部屋の中で大人しくしているように」
「はい……」
相変わらず侍女の視線は冷たいままだ。想像以上にこの世界は身分差別が激しいのかもしれない。
そうだとすれば、家に入れて、部屋も食事も用意してくれているというのは、相当な厚遇ということになる。これも考えても分からないことだ。
部屋に入ってみると、テーブルの上に侍女が言った通り、食事が用意されていた。丸いパンが一つとサラダとスクランブルエッグ、そしてオレンジジュースだ。
それを見た途端に猛烈な空腹感が襲ってきた。考えてみれば、この世界で意識を持ってから何も食べていない。もう一人の自分は――それ以前から更に丸一日、食事にありつけていなかったようだ。よくあることで慣れっこのようではあるが。
椅子に座って、まずはオレンジジュースに口を付ける。
「……美味い」
元の世界のオレンジジュースは何だったのかと思うくらいに濃厚な味。
期待を大きく膨らませて、パンを口に入れる――固くてパサパサだった。パンは元の世界の方が遥かに美味い。
次はスクランブルエッグ――もの凄く美味い。卵も又、味が濃厚だ。
サラダも同じ。一つ一つの野菜の味がしっかりしていて、ドレッシングも何もかかっていないのに、驚くほど美味しい。
もう一人の自分も喜んでいる。こんな新鮮な食事は食べた記憶がないようだ――新鮮?
頭に浮かびそうになった情報を慌ててかき消した。食事時に思い浮かべないほうが良さそうな予感がしたからだ。
目の前の食事はあっという間に無くなった。満腹にはほど遠いが、一方で満腹感を感じてもいる。もう一人の自分は小食のようだ。
体はさっぱり、腹もまあまあ満足。こうなったところで、じっくりと今の状況を考えてみることにした。
ここが元の世界ではないのはどう考えても間違いない。夢の可能性もあるが、今はその可能性に縋っても仕方がない。
この先、この世界でどう生きて行けば良いのか。
中世ヨーロッパ風ではあるが、その中世ヨーロッパだって、自分はどういう社会だったのか知らない。
頼りは自分の中のもう一人の自分なのだが、この自分はどうやら余り期待出来そうもない。子供であり、知っているのは貧民街という特殊な環境の知識だけで、それ以外の社会をほとんど知らないようだ。
思い浮かぶ記憶で分かる限り、この自分、かなり苦労している。
物心が付いた時には親らしき人はいたようだ。大人と暮らしている記憶がある。住んでいる場所は、貧民街のようなので、当時からまともな暮らしはしていない。
それでも食事に困ることはなかったようだ。あくまでも、もう一人の自分の基準でだが。
それも同居していた大人が亡くなったことで状況は一気に悪化した。
幼い子供が食事を得る術など限られている。ゴミ捨て場での残飯あさりしかない。その残飯あさりでさえ、簡単ではない。残飯を求める人は自分だけではないのだ。
良質な残飯は奪い合いになり、それに勝つ力のない自分は、残飯というよりは腐敗して完全にゴミと化しているものしか手に入れることが出来なかった。腹を壊して死にそうになったことは数え切れない程だ。
自分の悲劇はそれだけではなかった。
理由は本人にも分からないが、とにかく周囲から嫌われていた。近づく事さえ許さない者は一人や二人ではなかった。
自分には何をしても許される。そんな雰囲気が自分の周りにはあった。
力もなく、頼れる者も誰もいない状況で、貧民街という無法地帯で自分は生きてきた。よく死ななかったものだ。
あの場所に倒れていた理由も分かった。
殺した男。あのダンという男とその仲間を自分は殺そうとしていたようだ。武器を集め、チャンスをうかがい、ようやく訪れた機会だと実行に移したのだが、見事に返り討ちに遭い、死ぬほどの暴力にさらされて、あの場に転がっていた。
どうやら、もう一人の自分は誇り高い子供のようだ。
こんな悲惨な状況に置かれていても、それに屈することなく、状況を変える為に行動を起こす強い心がある。
同じ孤児でも自分とは大違いだ。持たない物の大きさを思い知らされて将来を諦め、ただ毎日を何も考えることなく生きていた。
それを思うと「自分で良いのだろうか」という気持ちが湧いてくる。この体はもう一人の自分のものだ。そして、もう一人の自分は将来を諦めずに、懸命に生きていた。自分がこの先の自分の人生を閉ざしてしまうのではないか。
それは駄目だ。許されることじゃない。この体を、意志を自分に返さなくてはいけない。出来るはずだ。あの男を殺した時の自分は、自分ではなかった。あの時の自分は、もう一人の自分の意志で行動していた。
渡そう。この体を。元々はもう一人の自分の物だ。
さあ、起きろ。起きているのかもしれないが、目覚めろ。これからの人生も、お前のものだ。お前の意志でこれからの人生を生きろ。
少しであれば、その手助けを……自分も……
◇◇◇
不思議な感覚。この感覚は二度目だ。
目が覚めた、そういう感覚なのだが、それ以前の記憶もある。
目の前に並んでいる空の器。
美味かった。こんな飯は初めてだ。味はもちろんだけど、良い匂いのする飯は、何年ぶりだ? 少なくとも俺は、アイツが生きている時以来だ。
俺は……俺の中にもう一人の俺がいる。いや、違う。俺じゃない。俺の知らないことを色々と知っている俺は誰だ?
良く分からない記憶が沢山ある。見上げるほどの高い塔がいくつも立ち並んでいる。これは何だ?
ビルだとは分かる。だがビルって……初めて聞いた言葉のはずが、何故か何か分かる。
四角い箱が馬にも引かれずに動いている。これは何だ?
車、自動車。全く分からないのだが、何故かそういう物だと分かる。
夜空なのに周りが明るい。様々な色の灯りがキラキラと輝いている。これが噂に聞いた魔法か?
そうではないと俺の中の奴が答える。何かを聞きたがっているようだが、ここは無視だ。
では何だ?
違う世界。俺の中の奴は、こことは違う世界で生まれ育ったみたいだ。信じられないけど、間違いなく事実だと、俺は分かっている。
何が何だか分からない。大体が俺は死んだと思っていた。アイツはそれくらいに酷く、俺を痛めつけた。殺そうとした相手を生かしておくほど貧民街は甘い所じゃないはずだ。でも俺は生きている。そして、アイツを殺した。
恐かった。あんなに憎んでいた相手を殺したのに、嬉しさよりも恐ろしさの方が勝った。震えが止まらなくなって、動けなくなって、俺は気を失った。
ここはあの貴族のガキの家だ。
ここまでの扱いは悪くない。だが、相手は貴族だ。俺みたいな奴に恩を感じるとは思えない。あの侍女の視線がそれを示している。
あれは貧民街の奴等と同じだ。嫌悪感と何かが入り混じった不快しか感じない視線。俺の中の奴は分からなかったようだが、俺は何度も経験している。
やはり、あまり欲はかかない方が良さそうだ。
この屋敷を出て、その後どう生きていくか。俺の中の奴は俺の知らないことを色々と知っている。それが役に立てば良いけど。
又、廊下から声が聞こえてきた。
どうやら、あの生意気なお嬢様の登場だ。
部屋の扉が開いて、思った通り、小娘が入ってきた。胸を張って偉そうにしているが、ちっちゃな体では逆に滑稽だと誰か教えてやれば良いのに。
「どうやら綺麗に……」
近づいて来た小娘は、はっとした表情をして固まってしまった。
廊下ですれ違った奴等とは少し違う反応。
「……綺麗」
「はっ?」
小娘が呟いた思いもよらない言葉に俺の方が驚いてしまった。
「ねえ、その瞳。どうして色が違うの?」
「……色?」
小娘が何を言っているのか分からない。色が違うって人によって目の色が違うのは当たり前だ。
「貴方、鏡を見たことないの?」
「……ない」
貧民街の孤児がそんな高価なものを持っているはずがない。貴族の娘にはそれさえも分からないか。
「じゃあ、見てみなさい」
小娘は服のポケットから小さな鏡を取り出して、俺に差し出してきた。
受け取るまでもない。鏡には俺の顔が映っている。小さすぎて全体が映らないので、自分の顔を動かしてみる。
瞳の色。確かに違う。
小娘の目と色が違うのではなく、俺の目は左右で色が違っていた。右目が青、左目が赤。こんな人間には会ったことがない。どうやら俺は人とは違った容姿をしているようだ。
「ねっ、違うでしょ?」
戸惑っている俺に、小娘は嬉しそうに話しかけてくる。何がそんなに楽しいのか俺には分からない。
「ああ……」
とりあえず、曖昧な返事を返しておく。
「綺麗な青と綺麗な赤。瞳もそうだけど貴方、綺麗な顔ね。髪も長いし、何だか女の子みたい」
顔を近づけて、俺の瞳を凝視すると小娘はこんなことを言いだした。褒められているのか貶されているのか分からない。とにかく髪は切ろう。そう思った。
「エアリエル様! 離れてください!」
ガキとはいえ、男女が近付き過ぎたと思ったのか、侍女が大声を上げてきた。
「うるさいわね! 私はこの子の顔を良く見たいのよ!」
侍女の声以上の大きな怒声が飛ぶ。我儘お嬢様は侍女なんかの言うことを聞く気はないらしい。それでも侍女は素直に引き下がらなかった、
「いけません! オッドアイに近付くなんて不吉です!」
「オッドアイ?」
小娘は初めて聞いたようだ。俺は何度か聞いたことがある言葉だ。
意味は知らない。でも、俺が嫌われていた理由の一つが分かった。俺みたいな目を持つ人間は不吉な存在らしい。
「オッドアイって何よ?」
「この少年のように、左右の瞳の色が違うことです」
「それがどうして不吉になるの?」
「それは……」
「理由がないなら気にする必要はないわ。不吉なんて信じられない。だってこんなに綺麗なのよ」
「でも、そう言われて……」
「黙りなさい! これ以上、何か言ったら、この家に居られなくするわよ!?」
「……承知しました」
自分に従わなければ首って、とんでもなく横暴なお嬢様だ。言う通りに何も言わなくなった侍女だが、その顔には不満の思いが浮かんでいる。
あまり慕われていないみたいだ。これだけ性格がきつければ当たり前か。
侍女の様子など気にすることなく、小娘は俺の目を興味深そうに見ている。
「ねえ、貴方、魔法は使えるの?」
「はっ?」
「魔法よ、魔法」
「使えるはずがない」
「そう。これだけ綺麗な青や赤なのに」
どうも話が分からない。平民の俺が魔法なんて使えるはずがない。魔法は高貴な血を引く貴族だけが使えると俺は聞いている。
「教えれば出来るかも……」
だから、そんなはずがない。
「まあ、今は良いわ。貴方はここで暮らすことになるのだから、ちょっとずつ確かめることにするわ」
「はっ?」
「何を驚いているのよ?」
「ここで暮らす?」
「当然でしょ? 貴方はお兄様のペットなのよ。私のペットでもあるわ」
「……ペット」
「貴方、名前は?」
ペットと呼ばれて戸惑っている俺に構わず名前を聞いてきた。人の反応なんてどうでも良いらしい。
名前……名前が思い出せない。思い浮かぶのは俺の名前じゃない。俺は誰だ……?
「名前もないの? じゃあ、私がつけるわ」
「あっ、いや」
それは絶対に嫌だ。とっさにそう思った。
「あるなら言いなさいよ」
「……リョウ。リョウ・モリヤ」
仕方がないので奴の名を教えた。ちょっと後悔。何だか変な名前だ。
「……リヨ、リオ」
小娘もそう思ったようだ。うまく言えないでいる。
「……リオン。そうね、貴方の名はリオンね」
「いや、そうじゃ」
「リオンよ。私がそう決めたの。何か文句ある?」
「……ない」
小娘の圧力に屈して、俺は受け入れてしまった。奴が心の中で文句を言っているのを感じる。
我慢しろ。俺だって、ちょっと我慢している。
ここで拒否すれば、この小娘を間違いなくとんでもなく変な名前を付けるに違いない。
それを思えばリオンは良い名前だ――どうやら納得してくれたみたいだ。
「じゃあ、リオン。次は髪を整えて、その後は着替えね」
「髪? 着替え?」
「私のペットに相応しく綺麗にしないと」
「…………」
ペット=愛玩動物=可愛がる為に人間に飼われている動物。この場合の、動物に人間は含まれない――分かり易い説明だ。ペットの意味がようやく、ちゃんと分かった。
思わず救いを求める視線を侍女に向けてしまった。何もしてくれないと分かっていても。
案の定、侍女は何も言ってくれない。ただ、憐みを表情に浮かべて、顔を横に振るだけだ。侍女にも優しさがあることが分かったが、何の解決にもならないので意味はない。
結局、小娘に連れ回されて、一日中、翻弄されることになる。
髪を整えると言いながら、端を揃えただけで、長さはほとんど変わらない。髪に油を塗りたくられて気持ちの悪い思いをし、顔にまで何か塗りたくられた。
着替えとして用意されていたのは小娘のお古のドレス。俺は男なのに。
二度と思い出したくない記憶が一つ追加された日だった。
トランスジェンダー=性別の垣根を超える存在=同性愛者、両性愛者――確かに俺は男に犯されたことがある。
だが、俺はそういう存在じゃない!!
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