見出し画像

第8話 出会いの季節

 季節は春。王国学院の教師たちにとって、もっとも忙しくて大変な時ではあるが、初々しい新入生を迎えることで気分は一新、どこか気持ちが湧き立つ時期でもある、例年ならば。
 今年に限って職員室では、一学年のクラスを受け持つ担任たちが、学年主任を中心にして、沈痛な顔で打ち合わせを行っていた。

「どうしてこうなったのです?」

「何を今更。ずっと前から分かっていたことではないですか?」

 ぼやく担任を諌める学年主任ではあるが、本当のところは自分がぼやきたい気分だ。

「そうですけど、口にしないではいられないのです」

「それは私も同じです」

「しかし、何十年に一度のその年に一学年の担任になるなんて」

「はあ……」

 一学年の担任たちが頭を悩ませているのは、当たり前だが新入生についてだ。
 今年の新入生はそうそうたる顔ぶれが揃っている。数十年に一度訪れるという教師にとっての受難の年の中でも、さらに飛び抜けた面子だ。
 その筆頭は、王族であるアーノルド・ハイランド王太子。つまり、次期国王だ。それに更に侯爵家の子弟たちが続く。
 アクスミア侯爵家の嫡子ランスロット・ミニスター子爵。
 ファティラース侯爵家の次女シャルロット・ランチェスター。
 そして、ウィンヒール侯爵家のヴィンセント・ウッドヴィル子爵。
 王家と三侯家の揃い踏み。しかも、王太子も含めて、三人が嫡子だという豪華さ。こうした有力者の子弟がある年代に固まるのは、過去にも何度かあった。
 一つの侯爵家で婚姻があれば我が家も、懐妊の話を聞けば我が家もと、侯爵家同士の小さな競争は日常的に存在する。
 その結果、子弟の年が近くなる結果になり、それが何十年かに一度訪れる受難の年として、教師に恐れられているのだ。
 だが、さすがに一つの学年にこれだけ集中するのは滅多にあることではない。学院側は有力家の子弟を迎えられて喜ばしいなどと表向きは言っているが、内心では困り果てている。学院の人間は、学院長でさえ、身分が下なのだ。
 それはまだ良い。身分については毎年起きることだ。問題は、有力者の子弟同士が衝突したり、それぞれが無茶を言ってきたりした場合にどうするかだ。

「もう一度確認してみましょう。王太子殿下の為人は全く問題ありません。さすがは次期国王と褒め称えられるものです」
 
 担任の一人が、手元の資料に目を向けながら、王太子について報告をしてきた。

「それを信じるのですか?」

 それに対して別の教師が懐疑的な意見を述べてくる。

「それは……」

「王宮からの報告で、王太子殿下は性格が悪いなどと書いてくるはずがないではないですか?」

「滅多のことを口にするものではありません」

 慌てて、その教師の発言を学年主任が咎める。王太子の性格が悪いと言っているように受け取られかねない発言だからだ。

「……そうでした」

「学問も剣も魔法も、どれも極めて優れているのは間違いありません。それに王太子殿下ですから、その立場に相応しい振る舞いは叩きこまれていると考えても良いのではないですか?」

 最初に報告した教師が、安心材料を重ねてきた。フォローをしているつもりなのだろう。

「そうですね。では次に移りましょう」

 それを受けて学年主任は、王太子の話はこれで終わるべきと考え、次に話を進めようとした。

「はい。アクスミア侯家のランスロット・ミニスター子爵は」

「学院ではランスロットくんです。気をつけるように」

 また学年主任の注意がとぶ。教師を指導するのが学年主任の役目。生徒の呼び方にも定められたものがある以上は、それを守らせなければならない。

「……私、担任は初めてで」

 たとえ、新任教師にとって困惑の材料になるとしても。

「慣れてください。これは規則です」

「はい……ランスロット、くんは成績優秀、魔法にも優れた才能を発揮しています。性格は大人と書いてあります」

「……シャルロットさんは?」

 尋ねてきたのは、王太子に関する報告に対して疑問の声をあげた教師だ。

「同じく」

「同じって。全員が身分だけでなくて、才能まで人よりは優れているってことですか?」

 また疑いの言葉を口にしてしまう。良く言えば慎重、悪く言えば疑り深い性格なのだ。

「それが王家であり侯爵家です」

 その問いに対して、きっぱりと断言する学年主任。才能を受け継ぐ血を持つことは貴族が貴族として敬われる理由だ。建前であっても、これは決して否定してはならない。

「……そうでした。そうなるとヴィンセントくんも」

「剣は今一つ、体力作りが課題。魔法の才能は中くらい。まあまあ成長中。勉強はやる気になれば出来るので教え方に注意。性格は少し我儘に見えるところはありますが、内面はすごく優しいそうです」

「えっと……一人だけやけに具体的ですね?」

「そう書いてあります。まあ報告書を見なくても、彼の場合は有名ですから」

「有名?」

「知らないのですか? 試しの儀で、侯爵家失格の判定をされて、それに納得出来ずに、その場で大暴れ。大切な魔道具を壊してしまって、一緒に受けるはずだったランスロットくんは試しの儀を行なえなくなったそうです。かなりひんしゅくを買ったみたいですね」

「……最悪ですね」

 正に我儘貴族の典型といえるような逸話だ。話を聞いただけで教師はげんなりした顔をしている。

「はい。ヴィンセントくんは新入生の中でも要注意人物です」

 学年主任も予めチェックしていたようだ。これもはっきりと言い切った。

「……私、そのヴィンセントくんが居るBクラスの担任ですが?」

 げんなりした顔をしていた理由がこれだった。

「えっ? そうなのですか?」

 一方でAクラスの担任は、嬉々とした表情をしている。
 本来の暗黙のルールでは、上位貴族家はAクラス、そこから身分に従ってBクラス、Cクラスとなる。侯爵家の子弟であればAクラスであるべきだ。
 ただでさえ大変なAクラスで、そこに問題児が居るのかと落ち込んでいたのだが、どうやらそうはならなかった。

「何故か私のBクラスに名があるのです。おかしくないですか?」

 この教師の疑問に答えたのは、学年主任だった。

「理由があって変えました」

「学年主任! 何てことを? それでウィンヒール侯爵家からクレームが来たら」

「先にアクスミア侯爵家から来たのです。まさか同じクラスにはならないでしょうねと」

「……すでに確執が?」

「そういうことだと思います。表向きはランダムでクラスを編制したことになっています。学院の在り方を考える新たな試みという口実ですから、そういう話で」

「つまり?」

「同じクラスでも身分はバラバラです」

「そんな馬鹿な……」

 王国学院に入学してくるのは、貴族だけではない。平民でも、入学試験にさえ合格すれば、学院に通うことが出来る。もちろん、かなり優秀な者でなければ合格することなどない超難関試験なのだが、逆に言えば、それを突破すれば、将来の道が大きく開けることになる。
 今年はかなり受験合格者が多い。受験合格者は知っているのだ。この学年に王家と三侯爵家が揃っていることを。学院で彼らの目に留まって、仕えることが出来るようになれば、出世の糸口を掴んだことになる。
 それを目当てに大人しくしてくれるのを教師としては祈るしか無い。貴族同士の確執よりも、頭を悩ます問題が教師にはある。身分格差による確執がそうだ。

◇◇◇

 校門は多くの馬車でごった返している。どこまで続くのか先が見えない程の馬車の列。毎年恒例の光景だ。
 新入生は寮に入る。その為に、本人が乗るだけでなく、荷物を積んだ馬車も引きつれてやってくることになる。貴族の子弟の荷物だ。それはかなりの量になる。本人の物だけでもそうであるのに、身の回りの世話をする使用人の分まで加わるのだ。
 この光景を見ていると、それだけで新入生の身分が分かる。馬車が連なる道の端を、大きな荷物を背負って歩いているのが平民だ。

「おい! 邪魔だ、そこをどけ!」

 後ろから掛けられた声に、振り返ったのは黒髪の女の子。

「邪魔って何ですか!? 私は規則を守っています! 貴方の方こそ……あれ?」

 いきなり、ものすごい剣幕で文句を言ってきた女の子に、戸惑いの表情を浮かべているのはリオンだ。その後ろに不機嫌そうな顔で、女の子に文句を言った当人であるヴィンセントが立っている。

「えっと……何だかすみません」

「どうして、リオンが謝る? 荷物を置いて邪魔しているのは、その女の方だろ?」

 女の子は学院の新入生で、平民なのだろう。大きな荷物が地面に置かれている。疲れて休んでいるところを、ヴィンセントに文句を言われたのだ。

「そうですが、ヴィンセント様の言い方も少しきつかったと思います。女性には優しくと申し上げたはずですが?」

「女だろうが何だろうが、人の邪魔は駄目だ」

「そうですけど……もう少し荷物を脇に避けた方が良いのではないですか? すぐ横を馬車が通るので、そこに荷物を置かれると歩行者にはかなり邪魔になります」

「えっ? あっ、でも」

「荷物が重いのですか? それであれば私が動かしましょう」

「あっ、いえ、そうじゃなくて」

「まさか運べと? どうしてもと言うなら、そうしますけど……」

 リオンには女子生徒の戸惑いの意味がさっぱり分からない。何だか変な女の子に絡んでしまったと内心で困惑していた。

「違います。あの……ウィンヒール侯爵家の方ですよね?」

「……どうして分かるのですか?」

 リオンの視線に途端に厳しさが加わる。今のリオンは黒い布を眼帯のようにして、オッドアイであることを隠している。そうしていても端正な顔立ちは隠しようがないが、目つきを厳しくすると、どこか冷酷さを感じる美しさに変わってしまう。
 案の定、そんな視線で睨まれた女子生徒の顔には、怯えの色が浮かんだ。

「リオン。お前こそ、女性を脅しているぞ」

「えっと……理由を聞きたいだけです」

 ヴィンセントの指摘を受けて、リオンは意識して笑みを作って、女子生徒に問い掛ける。

「ヴィンセント様と呼んでいたので……」

「名前だけで?」

「三侯爵家の人たちの名はさすがに覚えています」

「……新入生ですね?」

「はい」

「分かりました。それでウィンヒール侯家の者であれば何ですか?」

 女子生徒の説明に納得した訳ではないが、とりあえずは、先を聞くことにした。

「どうして歩いているのですか?」

「どうして? 散歩だからです」

 何を聞いているのだという顔でリオンは答える。目的もなく歩いていれば、それは散歩しかない。

「はい?」

 だが、女子生徒には通じなかった。

「退屈だったので、散歩を。ヴィンセント様の……ちょっとした運動を兼ねて」

 ダイエットと言いそうになったが、慌てて言葉を変えた。ヴィンセントが怒るのが分かっているからだ。

「でも、ここは馬車でやってきて、混んでいるからと強引に反対車線を走って」

「はい?」

 今度はリオンが疑問の声をあげる番だった。女子生徒の言っていることは支離滅裂にリオンには思える。

「いえ、何でもありません」

「……荷物はどうしますか?」

「……自分で運びます」

「分かりました」

 何だか変な女と関わってしまったみたいだと思って、リオンは急いでこの場を離れることにした。だが、それを邪魔する声が道に止まっている馬車から届く。

「ウィンヒール! 侯家を貶めるような真似は止めてもらおう!」

「何だと? 僕はそんなことはしていない!」

「女子生徒に絡んでいるではないか!? 力無い女性に対して権力を振りかざすとは、それが恥さらしでなければ、何だ!?」

「だから、僕はそんなことはしていない!」

「俺は止めろと言っているのだ!」

「……エラそうに。そもそも、お前は誰だ!?」

「何だと!?」

 ヴィンセントの問いに相手から驚きの声があがる。それはそうだろう。

「ヴィンセント様、アクスミア侯爵家のランスロット様ではないかと」

 小さな声で、リオンはヴィンセントに相手の正体を告げた。

「……そう言えば、一度会ったことがあるな。でも子供の頃だ。覚えていない」

「いえ、そうであっても馬車の紋章が」

 ランスロットが乗る馬車には三つの水滴を渦の様に丸く配置した紋章が記されている。王国の貴族であれば誰もが知っているアクスミア侯爵家の紋章だ。

「……そうだな。どうする?」

「他の侯爵家との争い事は、王国の為になりません」

「そうだな。では……どうする?」

「さっさとこの場を治めて、立ち去りましょう。私が治めます」

「ああ、頼む」

 ヴィンセントから離れたリオンは女子生徒の前に立った。

「正直、理由は分かりませんが、貴方に不快な思いをさせてしまったのでしたら、お詫び致します。申し訳ございません」

 そのまま女子生徒に向かって、リオンは深々と頭を下げた。

「えっ? いえ、私は」

「お許し願えますか?」

「えっと……はい」

「では、私たちはこれで失礼します」

「あっ」

「……まだ何か?」

「貴方は?」

「私はヴィンセント様の従者をしております。学院でお会いする事もあるかもしれませんが、従者ですので、無視してください」

「無視って、そういう訳には」

「そういう存在なのです」

 これはこじつけで面倒くさそうな女子生徒に関わり合いになりたくないというのが本音。
 リオンが合図を送ると、少し不満そうな顔をしながらも、ヴィンセントは先に歩いていた。まだ馬車からはランスロットが文句を言っているので、それに苛ついているのだ。
 そのランスロットの馬車に向かって軽く頭を下げてから、リオンもヴィンセントの後を追う。
 それを見た女子生徒は小さく呟いた。

「攻略キャラ以外にも、あんな人がいるのね? 隠れキャラかしら?」

 もしこの声をリオンが聞いていたら……そんな仮説は意味をなさない。リオンは聞くことなく先に進んでいるのだ。
 女子生徒からかなり離れた所でリオンは立ち止まって後ろを振り返って見た。漠然と何かが気になっての行動だ。
 ランスロットに荷物を持たせて、女子生徒は馬車に乗り込もうとしている。従者の自分が荷物を運ぶのは断ったのに、侯爵家のランスロットに平気で荷物を持たせている。やはり少し変な女だ、とリオンは思った。

「リオン! 何をしている!」

「あっ、はい」

 女子生徒のことを、それ以上考えるのは止めて、リオンはヴィンセントを追いかけた。

「リオンの言うとおり、入寮を早めて正解だったな」

「一日早めるだけで全然違いますから。他家の方々も少しずつ入寮日をずらせば、あれほど混まないと思うのですが」

「そうだな。しかし、さっきの変な女だったな」

「ヴィンセント様もそう思われますか? ああいう人物には関わらない方が良いと思います。面倒に巻き込まれそうな嫌な予感がします」

「ああ。気を付けておく」

 残念ながらリオンのこの忠告は意味をなさない。ヴィンセントが望まなくても、女子生徒に巻き込まれる運命なのだ。
 この時のリオンは分かっていない。この世界はただの異世界ではなく、より特殊な世界だという事実を。
 この世界には主人公がいて、今会った女子生徒こそが、その主人公だということを。

◇◇◇

 まだ暗いうちから起きだして、鍛錬を始める。王国学院の生活が始まっても、リオンはこの習慣を変えるつもりはない。それどころか、屋敷にいた時よりも、もっと勉強や鍛錬に力を入れるつもりだ。
 従者であるリオンには、授業に出る資格はない。休み時間のたびに、ヴィンセントの教室に行く必要はあるが、拘束時間はその程度だ。
 一人で自由に使える時間は、屋敷にいた時の何倍もある。それをどう有効に使おうかと、リオンは剣を振りながら考えていた。
 優先するのは剣か魔法か、勉強か。勉強はどんな勉強を。その程度の事だが、中々、それが頭の中でまとまらない。それ以上に気になることが出来てしまったからだ。
 女子生徒と会ったあの日の出来事は、どういう訳か学院中に広まっている。それも、かなり歪んだ形で。
 ヴィンセントが侯爵家の権威を振りかざして、平民である彼女に嫌がらせをした。だが女子生徒はそれに屈することなく、ヴィンセントの非を訴え、その彼女の堂々とした振る舞いを見て、ランスロットが女子生徒の加勢に入った。
 それでヴィンセントは嫌がらせを続けられなくなり、女子生徒に謝罪する羽目になった。
 侯爵家に対して屈することなく、堂々と正論を述べて、それを退けた彼女は、一気に注目の的だ。これをきっかけとして平民でありながら、侯爵家のランスロットと親しくしているという結果も、注目を集める理由になっている。
 その一方でヴィンセントの評判はガタ落ち。ウィンヒールの落ちこぼれは、やはり落ちこぼれだった。そんな噂が流れている。
 どうしてこんな嘘が真実として人々の間に広がっていくのか。どうにもリオンには分からない。あれだけの馬車が並んでいたのだ。事実を知る者は大勢いたはず。この噂には悪意を感じる。
 後継争いの為に、学院でヴィンセントの評判を上げるつもりが、逆に評判を落とす結果になってしまった。それがリオンには許せない。それを許した自分が許せなかった。
 今のままでは駄目だ。剣や魔法を鍛えるだけではヴィンセントの役に立つには足りない。
 後継争いとは政争だ。それに勝つための知識と力を持たなければならない。剣を握る手に、自然と力が入る。
 その決意に反応したかのように、リオンの周りに精霊が集まってくる。以前とは異なり、精霊の姿はリオンの瞳にはっきりと映るようになっている。
 異世界の知識での精霊とはほど遠い、ただの球体ではあるが、リオンは意志ある者として、それを精霊と呼んでいる。いや、正しくは。

「サラ、ディーネ。もしかして励ましてくれているのか?」

 名前をつけて呼んでいる。
 話しかけても、さすがに精霊からの応えはない。それでもリオンは、周囲に人がいない時は、こうして気持ちを言葉にして、話しかけるようにしている。
 特に意味がある訳ではない。あえて言うなら、ヴィンセントとエアリエル以外には、まともな話し相手のいないリオンであり、その二人はリオンにとって主人である。泣き言や愚痴が言える相手ではないのだ。
 精霊たちは、リオンがそういった心に溜まった鬱憤を話せる唯一の相手だった。

「もしかして腹が減っているだけ?」

 精霊たちは、リオンの両手に集まって、体から魔力を吸い上げている。

「……餌に群がる鯉か」

 亮の思考がそんな言葉を口に出させる。亮としての意志は、未だに心の中に残っている。それだけではない。この世界で生まれ育ったフレイの意志も認識出来る。
 二人の価値観には大きく異なる部分があって、完全に融合しきれないでいた。
 その結果として、亮とフレイの意志の融合体として、主人格となっているリオンと、融合しきれていない亮とフレイの意志という三つが体の中に存在することになった。一つになると思われていた意志が、逆に三つに増えてしまった状況だ。
 この異常さには、リオン自身も呆れるしかない。だが恐れを感じながらも、それを受け入れるしかない。全てがリオン本人なのだから。
 それに案外、便利なものでもある。

「情報網の構築か。そういうことだろうな」

 精霊たちの相手をしながらも、ヴィンセントの評判を高める方法を考えていた。嘘の情報で困っているのなら、正しい情報を発信する手段を確立すれば良い。噂に悪意があるのなら、その元を突き止める力を持たなければならない。

「どこから手を付けるかとなると……そうなるよな。はあ、エアリエル様に知られたら、またムチ打ちだな。本気のほうの」

 苦笑いを浮かべながら、リオンは外していた眼帯を顔に巻く。従者がオッドアイということで、ヴィンセントの評判を落としたくない為の配慮だ。
 全ては主人であるヴィンセントの為に。それがヴィンセントの侯爵家承継を、その後の施政の成功を望む、エアリエルの為になる。
 昇り始めた朝日の光を背に、リオンは寮に戻っていった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?