第16話 世界に抗う覚悟
「ちょっとすみません!」
リオンは、マリアに一声かけると、大急ぎで席を立ってエアリエルが座るテーブルに向かった。エアリエルの瞳は、そんなリオンをじっと見詰めたままだ。
「えっと……来ていらしたのですね?」
やましい事をしているつもりはないのだが、エアリエルに睨まれると、どうしても気後れしてしまうリオンだった。
「ええ。誰かが居ないせいで毎日退屈だから。もしかして邪魔だったかしら?」
「いえ、そんな事は……」
「まずは座りなさい」
「私は従者の身です。同席する訳には」
「誰が同席しろと言ったの? 私はただ座れと言ったのよ」
「……そうでした」
久しぶりにエアリエルのお怒りモードに直面して、勘が鈍っていた事をリオンは知った。こういった場合に座るのは、席ではなく床だった。
エアリエルの目の前の床にリオンは正座した。
「遠い」
「あっ、はい」
言われた通りにリオンが前に進み出ると、エアリアルは両手を差し出して、リオンの頬を挟む。さすがに公衆の面前ではと、御付の侍女が止めようとするが、エアリエルにキツイ視線を向けられただけで固まってしまった。
「……眼帯が邪魔だわ」
「いや、この場で外すのは」
「……仕方ないわね。良いわ。今はリオンの瞳を見るよりもやる事があるから」
「やる事ですか?」
「お説教よ」
こう告げるなり、両側からリオンの頬を叩くエアリエル。こういった仕打ちもリオンには久しぶりの事だ。
「どうして、こんな所に居るのかしら?」
「そ、それは、ちょっと、話を」
「あの女は誰?」
「が、学院の、生徒で、ヴィンセント様と同学年です」
頬を叩きながら、厳しい口調で、リオンを問い質すエアリエル。だが、その瞳はもう笑っている。久しぶりに会ったリオンを、いじっているのが楽しいのだ。
「あの女と何を話しているのかしら?」
「それは……今はちょっと」
「……私に隠し事をするのね?」
エアリエルの目が又、キッと吊り上がる。これは本当に怒った証だ。
「い、いえ、違います! 今は話せないというだけで……あの、いつもの……」
「……仕事なのね?」
納得とは程遠い心境なのだが、エアリエルは文句が言えなくなる。
元々は自分がヴィンセントの事を何とかしろと言ってしまった手前、その為にリオンが何をしようと文句は言えないのだ。
「はい」
「……じゃあ仕方がないわね」
リオンにしてみれば、割とあっさりと終わった方だった、と思えたのだが、事態をややこしくする存在が、割り込んできてしまう。
「貴女、リオンくんに何をしているの?」
そういう存在は、この場にはマリアしかいない。ヴィンセントに対するのと同様に、エアリエルにもマリアは最初から喧嘩腰だ。
「それを口にする前に、名前くらいは名乗ったらどうかしら? それとも、貴女は、こんな常識も知らないで育ったの?」
そんなマリアに対しても、エアリエルは全く動じる様子はない。この辺りは、兄であるヴィンセントとは違っている。
「私は……」
「別に良いわ。貴女が誰かなんて私は興味がないから」
「何ですって?」
「下がってもらえるかしら? 今、私はリオンと話をしているの」
笑みを浮かべながら、こう口にするエアリエル。貴族の令嬢らしい振る舞い、というだけでは済まない、少女とは思えないくらいの威厳を漂わせている。
「……そ、その、リオンくんに」
エアリエルの雰囲気に明らかに押されているマリアだが、それでも、言葉を発してきた。
「リオンに?」
「酷い事をしないで」
「……貴女、何を言っているの? 私がいつ、リオンに酷い事をしたかしら?」
「今よ。公衆の面前で、床に正座させるなんて」
「それの何が悪いの?」
「何ですって?」
「時には土の上に跪く事もあるわ。これはリオンに限った話ではないわよ」
「そういう身分を振りかざすような態度が、問題なのよ!」
やや勢いを取り戻したマリアが、怒鳴ってきたのだが。
「……言っている事が分からないわ。どうして身分を振りかざす事になるのかしら?」
マリアの言葉にエアリエルは不思議そうな顔で尋ねている。
「貴族の貴方には分からないのよ」
「私だから分からない訳ではないわ。だって分かっていないのは、貴女のほうですもの」
マリアの言っている事を理解した訳ではない。ただ、その態度が大きな間違いであることはエアリエルには分かる。
「私が何を分かっていないと言うの!?」
「では聞くけど、貴女。私を誰だと思って話をしているの?」
「……ウィンヒール家のエアリエル、さん」
「そう。私が誰か分かっていて、やっている事なのね。ちなみに貴女の実家は?」
「……セオドール家です」
自分の挑発に全く乗る事なく、落ち着いた様子で答えてくるエアリエルに、マリアは不安を感じ初めた。自分の思っているような方向に進んでいない事が分かったのだ。
「セオドール……確か、準男爵家にそんな家があったわね」
爵位を持つ家の名は全て覚えている。それも貴族の令嬢の嗜みの一つ。もっとも、この年で、しかも一代貴族まで覚えているエアリエルは特別だ。
「多分、そのセオドールよ」
「そう。つまり平民ね?」
「それが何?」
「平民が貴族に無礼を働いて、ただで済むと思っているの?」
「私はそんな脅しには屈しない」
「別に貴女の気持ちがどうだろうと私には関係ないわ。私はただ、法の定める所によって、貴女が処罰される事を望むだけだわ」
「処罰?」
「この国には身分制がしかれている。そうであるからには、その制度を守る法もあるわ。これも知らないのかしら?」
「……それは」
知らないのだ。もっとも知っていてもマリアの態度は変わらない。主人公の自分は何をしても許されると思っているのだ。
「知らないのね。でも残念だけど、法というのは知らなければ罪にならないというものではないの」
「……私はどんな罪に?」
それでもエアリエルの前では、強がる事は出来なかった。それを許されない雰囲気をエアリエルは持っているのだ。
「それは、それを判断する者に聞きなさい。その罪に応じた、貴女への罰も」
「…………」
エアリエルは完全にマリアを圧倒している。これが敵キャラという設定のせいなのか、リオンには分からない。分かっているのは、決して近づけないようにしようと思っていた二人が、こうして出会ってしまい、見事に敵対しているという事実。
ゲーム設定の強制力が原因なのかと思って、リオンの中で、不安が膨らんでいく。
そんなリオンに、押し黙ってしまったマリアにはもう興味はないとばかりに、エアリエルは視線を向けた。
「リオン、次はいつ会えるかしら?」
「……年始休暇ですが」
分かりきった質問を何故と思ったリオンだったが、エアリエルがそんな当たり前の質問をするはずがない。
「あら、もうここには来ないの?」
「えっと……今の所、予定はありません」
「では、来週の同じ時間ね」
「はい?」
「空き時間があるのであれば、それは私の為に使いなさい。良いわね?」
「いや、でも……」
「使いなさい」
「……はい」
エアリエルに強く言われると、リオンは逆らう事が出来ない。正確には逆らう気がない。この件も寝る時間を削れば良いか、で終わってしまうのだ。
「では、私はこれで失礼するわ。リオン、又、来週会いましょう」
「はい」
エアリエルの言葉を聞いて、侍女が慌てて店の外に駆け出していく。近くに止めてある馬車を呼びに向かったのだ。
それが分かっているエアリエルの方は、店長に出されたデザートを褒める言葉を掛けるなどして、ゆっくりと出口に向かっていく。
その背中をリオンは見送っていた。
「リオンくん、辛い事があったら、いつでも話を聞くから」
「はあ」
「私も元はリオンくんと同じ境遇だもの。少しは気持ちが分かると思う」
「……そうですね」
リオンはまだ気が付いていなかった。自分が主人公であるマリアの攻略対象として、認定されている事に。マリアがエアリエルに文句を言ったのは、リオンへの同情を示す事で、気持ちを向けさせようというマリアの試みだった事に。
その事自体は、リオンにとって望む所なのだが、その結果は残念ながら、望み通りには進まない。
◇◇◇
リオンにとって大きな誤算だったのは、どうやら主人公であるマリアは、特定の攻略ルートを目指しているのではなく、逆ハーレム状態を目指しているという事だった。
マリアにとっての攻略対象は不特定多数なのだ。
一つの選択肢として、自分を攻略対象と思わせて、アーノルド王太子ルートから外そうと考えていたリオンだったが、その思惑は外れそうだ。
それ所か、既にリオンも攻略対象の一人になってしまっている。自分でも考えていた事とはいえ、いざ、相手からこうされると、何だか嫌な気持ちになる。それでも情報収集を図るには、近い距離に居る事は、都合が良いと考えて、マリアのアプローチを受け止める事にしていた。
リオンにとって、最大の苦痛といって良い事だ。
マリアは、とにかく積極的だ、エロゲーなのかと思ってしまう位に、大胆にアプローチしてくる。だが、リオンが調べた限りは、そうではないようだった。
少なくとも、一番接近していると思われるランスロットとの関係は、調べた限りは、純粋なものだった。では、どういう事なのかと、しばらく悩んでいたリオンだったが、それもやがて事情が分かってきた。
マリアにはフラグの立て方が分かっている攻略対象と、そうでない攻略対象が居る。リオンは分かっていない方の攻略対象という事だ。
だから、マリアはどこにきっかけがあるのか確かめる為に、様々なアプローチを試みてくるのだ。
リオンの過去や、今の境遇に同情してくる事が一番多い。他にも、自由に生きる事の素晴らしさを訴えてきたり、自分の夢を語ってきたり。そうかと思えば、自分の苦労を相談して、同情を誘おうとしてきた事もあった。
手当たり次第、この表現がぴったりだ。
一方でフラグの立て方が分かっている攻略対象には、ここぞというタイミングだけ力を入れている様子が分かる。時間、場所が決まったイベントがあって、そこで攻略対象と出会う事で、フラグが立ったり、相手との関係が深まったりする。つまりはゲームそのものだ。
これによって、一つの事が分かった。
マリアは元のゲームで知っている攻略対象だけでなく、この世界で知った相手も攻略対象にしている。
何と貪欲な女だ、こう思って、一段とリオンはマリアが嫌いになった――数日前までは。
今も嫌いではある。だがリオンの気持ちは、それだけでは済まない複雑な思いを持つようになっていた。
そのきっかけは、リオンの苦労の成果にある。
我慢してマリアと接していた結果、リオンは大きな成果を得た。マリアに近付く目的をほぼ果たしたと言えるくらいの情報を手に入れたのだ。
時折、マリアがこっそりと見ていた手帳。その手帳には、マリアの記憶にあるゲームの情報が書かれていて、マリアはそれを確かめながら行動をしている。
何故、それがリオンに分かるのかとなると、盗み見たからに決まっている。
肌身離さず持ち歩いている手帳。ほんのわずかな隙を見つけて、リオンはその中身を見る事が出来た。時間がない中なので、全てを読み切れた訳ではないが、どのような事を書いているのかは確認する事が出来た。
書いてあったのは、攻略対象の性格や、知り合うきっかけ、フラグを立てるきっかけなどのイベント。攻略対象以外の名も書かれていた。ヴィンセントやエアリエルがそうだ。
書かれている事はリオンには納得いかないものだったが、それを気にしても仕方がない。ゲームではそうだというだけの事だと自分を納得させた。
それよりも、リオンの目を惹きつけたのは、手帳の最初に書いてあった事。個々の攻略対象とは、直接関係ない、ゲームの流れというべきイベントがそこには書いてあった。
リオンが感情を複雑にしているのは、そのイベント内容を知った為だ。
問題となるイベントの一つは、エアリエルに対する糾弾イベント。エアリエルがライバルキャラの中でも、最大の敵として位置付けられている事をリオンは知った。イベントの細かな内容までは書かれていないので分からないが、主人公に対してエアリエルが行なった仕打ちが、明らかにされて責められるのだという事は分かる。そして、恐らくはそれによって、アーノルド王太子との婚約関係にも影響が出るだろう事も。
リオンとしては何としても阻止しなければならないイベントだ。
最後の手段を使っても――とはリオンは決断する事が出来なかった。その後に発生するイベントがリオンにマリアを殺す事を躊躇させていた。
最後のイベントは、『魔人討伐イベント』。
マリアが学院で知り合った仲間たちと共に、王国を襲う魔人の軍勢と戦うというイベント。どうやら、これがゲームの目的だった。
仲間とともに、魔人の襲撃を退ける事が出来れば、ゲームの攻略は成功。負けるような事になれば、失敗となり、登場人物は全員死亡、王国滅亡というバッドエンドが待っている。
マリアの形振り構わない行動は、この最後のイベントで一人でも多くの仲間と戦う為。リオンにはそれが分かってしまった。
実に安直で、面白みのない、自分であれば絶対にやる事がないくだらないゲーム――と切り捨てる事は出来ない。
滅亡するのは、今、現実に自分が暮らしているこの国なのだ。
マリアを殺せば、魔人と戦う以前に、ストーリーは終了。王国は滅亡となる。ではエアリエルが不幸になるのを見過ごすのかとなると、それもリオンには出来ない。
マリアを殺しても魔人を討伐出来れば良い。殺す事で、逆にゲーム設定の束縛から逃れる事が出来るかもしれないとも考えたが、そうならない可能性も頭に浮かんでしまう。
どうにもならないジレンマに今、リオンは陥っている。
「……痛い」
頬に感じた痛みによって、リオンは思考の世界から引き戻された。
エアリエルの翠眼がリオンを睨みつけている。リオンは今が、ほぼ毎週の定例となったエアリエルとのお茶会の場だと思いだした。
「人の話を聞いているの?」
「すみません。ちょっと考え事をしていました」
「それは分かっているわ。何を悩んでいるの? ここ最近、ずっと様子がおかしいわ」
「それは……」
「隠し事をする気?」
自分への隠し事を、エアリエルは異常に気にする。今もそうだ。ただでさえ、きつめの視線がより一層、鋭さを増している。
「いえ。えっと……」
「何よ? ちゃんと話しなさい」
「……エアリエル様は王太子殿下の事をどう思われていますか?」
「えっ?」
「あっ、すみません。変な事を聞きました」
「……どうしてそんな事を聞くのかしら?」
「いえ、ただ……」
「何よ?」
「結婚相手が生まれた時から決められているのは、どうかと思いまして。貴族の世界では、珍しくもない事ですが、エアリエル様個人は、どう思っているのかと」
「……どうして、そんな事を聞くのよ」
同じ言葉の繰り返し。だが、口にするエアリエルの表情は、寂しげな表情に変わっていた。聞いてはいけない事を自分は聞いてしまったと思って、リオンの表情も暗くなる。
「……そういうものだと思っているわ」
それでもエアリエルはリオンの問いに答えてきた。
「それは貴族としての責任感からですか?」
「そういう事を言葉にする?」
「あっ、すみません」
「一々謝らなくて良いわ。リオンの言うとおり、侯家に女性として生まれたからには、見知らぬ人と結婚するのは当たり前の事よ。私の場合は、たまたま相手が王太子殿下だった」
「それはエアリエル様にとって、喜ばしい事ですか?」
「…………」
「……これも聞く事ではなかったです。すみません」
エアリエルは何も言わずに、じっとリオンを睨んでいる。リオンは、そのエアリエルの気持ちが分かっているようで分かっていない。
聞かれた事を怒っているのではない。リオンに聞かれた事を怒っているのだ。それに対する悔しさを口に出来ないエアリエルは、黙るしかなかった。
「また変な事を聞いて良いですか?」
気まずい雰囲気に耐えられなくなって、リオンは話を変える事にした。
「何かしら?」
「エアリエル様は魔人って聞いたことがありますか?」
「魔人? おとぎ話に出てくる魔人の事かしら?」
「おとぎ話に?」
「……おとぎ話じゃなければ、どこで魔人なんて知ったの?」
「人から聞きました。おとぎ話だったのですね? 現実の事のように言われたので、驚きました」
「それは、いつか魔人が復活して、この世界が亡びるという話ね?」
「ああ。それです」
「リオンは、そういう話を信じるの?」
「少しだけ。実際に起こりそうな話され方をされました」
「そうね。おとぎ語の結末は中途半端だったわ。でも、それは子供たちに魔人を怖がらせる為よ」
「どうして、怖がらせるのですか?」
「悪い事をすると魔人が来る。これで子供に言う事を聞かせる為よ」
「なるほど」
おとぎ話としては、よくある話だ。だが、このおとぎ話が現実になる可能性がある事を、リオンは知っている。
「もし、魔人が復活したら、リオンはどうする?」
今度はエアリエルからリオンに質問を投げてきた。
「逃げます」
「……馬鹿」
「えっ?」
又、エアリエルを怒らせてしまったリオンだった。
「まさか、リオンは私を置いて逃げるつもりかしら?」
「あっ、そうでした。エアリエル様を守る為に戦います」
「無理して守ってくれなくて良いわ」
「いえ。無理はしていません。私は、エアリエル様を守る為に、ウィンヒール侯家に来たのです」
「……馬鹿」
今度のリオンの言葉は、エアリエルの顔に満面の笑みを浮かべさせた。普段、エアリエルが見せる事のない心からの微笑み。その輝きにリオンは見惚れてしまう。
半分は義理で言った、『エアリエルを守る』という言葉は、この瞬間にリオンの中で誓いに変わった。
他の事がどうなろうと、この笑顔を守る為だけに行動する事をリオンは決めた。
「リオン……」
その守りたい笑顔が消えて、エアリエルの顔は真剣なものに変わった。
「……はい」
「私は……王妃になるわ」
「……はい」
アーノルド王太子と結婚するという事は、そういう事だ。
「王妃になったら、私情を捨てて、自分の全てを国に捧げる覚悟を持たなければならないの」
「はい」
「だから……せめて、その時までは、私は自分の気持ちを殺したくないの」
「それで良いと思います」
それがどんな事であれ、リオンはエアリエルの気持ちが一番だ。
「私の我儘でリオンにも迷惑を掛ける事になるわ」
「エアリエル様を守ると私は言いました。その私が迷惑などと思うはずがありません」
「本当に?」
「はい。これまでも思った事はありませんし、これからも思う事はありません」
「ありがとう」
「……いえ」
リオンは驚いた表情を見せている。実はリオンが、エアリエルから御礼の言葉を言われるのは初めてなのだ。
「何よ?」
リオンの驚く様子を見て、エアリエルの雰囲気がいつもの調子に戻った。
「いえ。私からも一つ言わせて頂いて良いですか?」
「……良いわよ」
「私が何をしようと、周りからどう見えようと、それは全てエアリエル様の為にしていることだと信じて頂けませんか?」
「どういうことかしら?」
「その理由を聞かずに、信じて頂きたいのです」
「……仕方がないわね。良いわ。私は何があろうとリオンを信じるわ」
「ありがとうございます」
守る為には何でもすると覚悟を決めたリオンにとって、唯一の懸念は、エアリエルの信頼を失うこと。それさえ覚悟するべきだと分かっていても、お願いせざるを得なかった。
そうでなくては、覚悟を貫き通せないと思えるからだ。
最悪はマリアを殺す。それは限りなく不可能で、行動を起こせば、間違いなく自分が死ぬことになるとリオンには分かっていた。
世界に抗うということはそういうことだ。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?