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第15話 この世界はどこかおかしい

 目の前には多くの書物が積み重なっている。リオンは、ヴィンセントにお願いして自由時間を貰い、図書室にこもって調べものをしていた。
 それはほぼ終わっている。いくら調べても新しい事実が見つかることはなく、リオンの考えが間違っていないと裏付けられただけだった。
 それが分かったところで、リオンは本を読み漁るのは止めて、全力で考えることに没頭している。
 リオンにはどうしても理解出来ないことがある。遠足の後に広まったヴィンセントに対する評判だ。自分が助かる為に従者を見捨てた最低の主、という評判なのだが、どうしてこれが悪く捉えられるかがリオンには分からない。
 異世界人である亮はもちろん、貧民街育ちのフレアも世間の常識というものには極めて疎い。その自覚があるリオンは、従者になると決まった後に、徹底的に常識というものを頭に叩き込んだ。
 特に貴族やそれに仕える従者の心得といった類は、片っ端から調べたつもりである。
 そのリオンの知識からすると、ヴィンセントの行動は貴族として正しいものであり、周囲から非難される余地は全くないものだった。自分の知識に足りないものがあるのかと思い、こうして本を読み漁ってみても、結局は自分の考えは正しいと裏付けられるだけだった。
 そうなると又、疑問が生まれる。ヴィンセントの悪い噂が流れるのは、これまでも何度もあった。事実が歪められている等、かなり恣意的なものが感じられており、その犯人にもリオンは目星をつけていた。
 ヴィンセントに対して悪意があって、噂を広める力を持った人間――アクスミア侯家のランスロットがそうだ。
 ランスロットは異常なくらいにヴィンセントに対して敵意を向けている。ヴィンセントは『試しの儀』を流してしまった事を恨んでいるのだろうと言っていたが、それだけのことで、ここまでの敵意を向けられるとはリオンには思えない。ヴィンセントの腹違いの弟であるエルウィンと繋がりがあるようなので、その影響があるのかとも考えているが、それについては調べる余裕が今はない。
 それに今回の件にはランスロットが何故、ヴィンセントを嫌っているのかは重要ではない。重要なのは侯家の人間であるランスロットが、こんな噂を流すはずがないということだ。
 ランスロットもヴィンセントと同じような教育を受けているはず。今回の噂が悪評になるとは思わないはずだ。もちろん、個人の考えの違いというものはあるかもしれないが、自分がそうだからといって、他の貴族家の子弟も同じ様に考えると思う程、ランスロットは馬鹿だとは思えない。
 ここから得られる結論は一つ。少なくとも今回の噂を流したのはランスロットではないということ。では誰かとなると、割と簡単に一人の人物がリオンの頭に浮かぶ。
 ランスロットと同じように、ヴィンセントに対して訳の分からない敵意を向けている者がいる。ヴィンセントに対する態度に関しては、ランスロット以上に常軌を逸している人物、マリア・セオドールだ。
 平民でありながら、侯家のヴィンセントを罵倒するマリアは、どう考えても異常だ。ヴィンセントがその気になれば、いつ無礼討ちにされてもおかしくない行動を平気でとってくる。ランスロットや、もしかするとアーノルド王太子の後ろ盾さえ得ているのかもしれないが、それでも自ら事を荒立てるあの態度は理解出来ない。
 しかもリオンから見れば、彼女の態度は、虎の威を借る狐そのものなのだが、彼女自身はどうも自分自身に正義があると信じているように思える。言っていることの多くは理不尽な話ばかりなのに。
 ただの世間知らずである可能性を考えたが、それはすぐに否定した。貧民街の孤児であるフレアでさえ、貴族に逆らってはいけないと分かっている。学院に入学させようという家庭の親が、教えないはずがない。
 では、彼女は何なのか――その疑問に辿り着いた時、リオンの心の中に暗いものが広がっていった。
 リオンではなく、フレアでもなく、ただ亮だけが彼女のこれまでの理不尽な言葉のいくつかを肯定しているのだ。
 それはこの世界の考えではなく、亮が生まれ育った異世界の考えだ。亮と同じ考え方を持つ彼女は、つまり異世界人、もしくは自分と同じ異世界の記憶を持つ者かもしれない。
 自分という存在が居る以上、リオンにはそれは否定出来ない。別に否定する必要もない。マリアがただそれだけの存在であるのならば。
 亮の知識が、更なる可能性を思い浮かべてしまう。リオンとしては、絶対に否定したい可能性を。
 高鳴る胸の鼓動を、何度も深呼吸する事で抑え込もうと試みた。どうやら、それはうまくいったようで、少し気持ちが落ち着いてきた。
 もう想像で頭を悩ます段階ではない、行動でそれを確かめる時だ。リオンは椅子からゆっくりと立ち上がった。

◇◇◇

 マリア・セオドール。学院の成績はアーノルド王太子に次ぐ二位という極めて優秀な生徒。しかも、その魔法の実力はアーノルド王太子やランスロット、シャルロットを超えているのではないかとまで、密かに噂されているくらいだ。
 平民である彼女が、王族や侯家の人間を超える魔法の才能を持つという事実は、堂々と認めて良いものではない。こんな事情から、陰で話されているだけで、実際はどこまでか分からない。そもそも、魔法の才能は、簡単に比較する事は出来ないなのだ。そうであっても、彼女の実力が、平民とは思えない程のものである事は間違いない。
 貴族の血は才能の血。これが常識であるこの世界で、彼女の存在は異質だった。
 ただ平民出身者となっているが、彼女の素性は少し複雑だ。元々は、孤児だったようだが、幼い時に今のセオドール準男爵家の養女となっている。セオドール準男爵家が彼女を養女にしたのは、その愛らしい容姿と才能を買っての事のようだ。
 幼子の才能を見出したなど、どうやってとリオンは思ったが、彼女の黒髪と、透き通った青い瞳が、彼女の持つ才能を示しているらしい。
 黒髪には、それも特に遺伝とは関係なく現れた黒髪は、魔力に秀でた者の証らしい。それが何故かは調べても分からなかった。いわゆる言い伝えの類のようだ。そして、瞳の青も、鮮やかな青は、水属性への高い適性の証という事だ。これはリオンも知識として知っていた。
 それが才能を見出された理由であれば、少なくとも黒髪についてはリオンも同じなのだが、それを喜ぶ気持ちはリオンにはない。目立ちたくないのだ。幸いにもそれほど信憑性のある話ではないようで、そのおかげか、リオンが周りから何か言われる事はない。
 とにかく、マリアの才能を信じて、養女にした両親の期待、それ以上にマリアは才能を発揮した。幼い頃から、驚くほどの知性を示し、両親の熱心な教育の成果もあって、早くから魔法の才能も表した。優れた容姿は年々、更なる成長を見せ、愛らしかったマリアは、美しいと評されるようになっている。
 そんな、彼女が学院に入学してきた。両親の期待を一身に背負って。
 自らの才能を公に認めさせ、一代貴族である実家を、世襲貴族として認めてもらう機会を作る為に――。

 ヴィンセントに手を回してもらって、侯家に調べてもらった報告書を読み終えて、リオンは大きくため息をついた。
 残念ながら、ほとんど考えていた通りの内容だった。

 更に自分が学院で調べた事を重ねる。才色兼備を絵にかいたような存在であるマリアに憧れている者は多い、そして、それ以上に反発している者は多かった。
 分かり易く言えば、男子生徒は憧れていて、女子生徒は猛烈に敵意を抱いていると言える。これも又、予想通りの状況だ。
 特に貴族家の女子生徒の嫉妬は凄まじく、ちょっとした虐めを受けているようだ。だが、マリアがそれに挫ける様子はない。どんな仕打ちを受けても、けなげに我慢しているだけのようだ。
 そんな彼女を支えているのがランスロットと、ここ最近、一気に距離を縮めた様子のアーノルド王太子だ。何かとマリアを庇う二人。それが又、女子生徒の嫉妬を生むという悪循環なのだが、そんな事に当人たちはお構いなしだ。
 上流貴族の子弟の為のサロンは、今や、シャルロットを加えた四人だけの憩いの場となっているようだ。
 そこに居れば、マリアが虐められる事はないという理由らしいが、ずっとそこに居られるはずがないのだから、逆効果にしかなっていない。そんな事も分からないほど、彼らはマリアに夢中だという事だ。

 マリア・セオドールは何者なのか。リオンはずっとそれを考え続けた。浮かんだ可能性を検証し、逆に徹底的に否定してみる。
 何度も何度もそれを繰り返し、どうしても否定しきれない、それでいて、突拍子もない可能性が残る。一番否定したい可能性が残った事で、リオンは、覚悟を決めて認める事にした。

 残った最悪の可能性――この世界は、ただの異世界ではない。恐らくは恋愛ゲームの世界であり、その主人公はマリアだ。そして、マリアはその事実を知っていて、ゲームの知識に沿って行動している。
 これだけであれば構わない。王太子でも侯爵家の息子でも何でも攻略して逆ハー状態を勝手に楽しんでいれば良い。だが、それで終わらせられない理由がリオンにはある。
 恋愛ゲームには攻略対象キャラ以外に主人公の邪魔をする敵キャラが存在する。状況から考えるとヴィンセントは恐らくは敵キャラか、これまで起こった出来事を考えると、主人公を目立たせる為の踏み台キャラといった所だ。
 そして、攻略対象であるアーノルド王太子の婚約者であるエアリエルは――それを思った瞬間に、リオンの心に怒りの炎が燃え上がる。エアリエルを悲しませるような真似をリオンは絶対に許す事は出来ない。
 それが例え、この世界の主人公であったとしても。

◇◇◇

「嬉しいな。リオンくんが誘いに乗ってくれるなんて」

「マリア様は、遠足の時に私の事を心から心配してくださっていたと聞きました。そんな方をいつまでも無下には出来ません」

 嬉しそうに話しかけてくるマリアに、リオンも笑みを浮かべて言葉を返す。内心は表情の下に見事に隠して。

「もうちょっと、砕けた話し方が良いかな?」

 軽く首を傾けて、やや上目遣いに告げてくるマリア。この仕草を可愛らしいと思う者は多いだろう。

「普段からこの口調ですので、この方が楽なのです」

「そうだとしても。せめて、名前は」

「名前ですか?」

「マリアで良いよ」

「そういう訳には。私は同級生ではなく、あくまでもウィンヒール家の従者です」

「でも、私は平民よ」

「……記憶に間違いがなければ、ご実家は準男爵家だったかと?」

「そ、そうね。でも一代貴族って貴族として認められていないもの」

 これを自らの口でいうマリアは、変わっている。準男爵家は何とか貴族として見られたいと、考えているのが普通なのだ。

「そうですが、それは世襲貴族の方々からの見方であって、平民である私から見れば、やはり爵位ある家の方です」

「そうなの?」

「はい」

「でもな……」

 マリアにとっては、実家に爵位があるという事は、望ましい事ではないようだ。どんな理由かは分からないが、リオンはこの事実を頭の片隅に残しておく事にした。とにかくマリアについての情報は何でも集めておく事が当面の目的なのだ。

「……分かりました。ではマリアさんと呼ばせて頂いて宜しいですか?」

「さん付か……そうだね! うん、それで良いよ!」

 輝くような笑みをリオンに向けてくるマリア。女性に対して、良い印象を持たないリオンでも、ドキリとするような表情だ。そんな感情が心の中に湧くたびに、リオンは意識を切り替えていく。完全に意識を変える事は出来ないが、それでも亮とフレアのどちらかに意識を向ける量を変えるだけで、効果はある。
 何に対する効果なのかと言えば、マリアが発する魅了(チャーム)に対する効果だ。実際に魅了の魔法なのかは分からないが、精神に何かが働きかけてくる事を、リオンは敏感に感じ取っていた。
 常に第三者の目で冷静に自分の心を見詰めている自分を心に宿すリオンだからこそ、出来る事だった。
 そして、他人に比べて圧倒的に精神攻撃に対する耐性が強いリオンでさえ、影響を受けるマリアの魅了の恐ろしさ。
 攻略する側の主人公に与えられた特殊能力だろうと理解したが、これだけ強力な魅了で、果たしてゲームとして成り立つのかという思いもリオンにはある。
 もしかして、とんでもない、つまらないゲームなのかもしれない。こんなくだらない事まで考えていた。

「それでどこに行く?」

「えっ?」

「あれ?」

「あっ、すみません。考えていませんでした」

「そ、そうだよね。私が誘っておいて、何処に行くはないね」

 デートプランは男性がするのが当然、とでも思っていたのだろう。間違ってはいない。リオンがデートと思っていないだけだ。

「いえ。では、私が知っているお店で宜しいですか?」

「リオンくんの? それは、どういうお店なの?」

「美味しいスイーツが食べられるお店です」

「あっ、それ嬉しい! 私、美味しいスイーツに飢えていたの!」

 マリアの反応は完璧。リオンとしては、冒険した甲斐があったというものだ。この世界ではスイーツなんて言葉は使わない。侯家の使用人たちが知らなかったのだから間違いないはずだった。スイーツをお菓子やデザートと受け取る事が出来たマリアは、異世界の知識を持っている。それが確認出来た。

 これまで徹底的に避けていたマリアと、リオンは距離を縮める事にした。
 本当なら、一思いに殺してしまいたい所なのだが、リオンはそれを思い留まった。主人公という存在を、そう易々と殺せるのかという疑問が亮の知識から浮かんだからだ。
 この世界がゲームであり、マリアが主人公であるなら、物事はマリアの都合の良い方向に進む事になる。いわゆる主人公補正というものだ。
 実際にヴィンセントの噂などは、リオンからすれば、どうしてこんな事にと不思議に思う状況になっている。
 主人公補正が働くゲームの世界で、主人公を殺せるとは思えない。そういうバッドエンドが存在するゲームであるなら良いが、リオンにはこの世界が何というゲームの世界なのか分からない上に、分かったとしても、この手のジャンルのゲームをする事がなかった亮には、設定なんて分かるはずがない。

 では、どうするか。
 マリアが知っているであろう、この世界の知識を何とかして手に入れて、攻略の邪魔をする事が一つ。それが無理であれば、せめて、こちらに都合が悪いルートには進ませないという事がもう一つ。
 要はエアリエルの婚約者であるアーノルド王太子を攻略するルートには進ませないという事だ。
 これがうまくいけば、エアリエルはライバルキャラになる事はない。全く関わり合いにならないとは思えないが、重要な登場人物にならなくて済むはず。
 これを実現する為に、リオンはマリアに近付いているのだ。

 辿り着いたのは、リオンが何度か買い物に来ている喫茶店。ヴィンセント御用達という所だ。デザートにうるさいヴィンセントのお気に入りだけあって、かなり美味しいデザートが揃っている。

「これは、ようこそいらっしゃいました」

 顔見知りの店員がリオンに向かって、丁寧に挨拶をしてくる。

「今日は私用ですから、そういった挨拶は無用です」

「私用? あ、ああ、いや、しかし……」

 後ろにいるマリアを見て、店員は事情を察したようだが、何だか歯切れが悪い。

「あの私用ですから。誰と来ても構いませんよね?」

 それをリオンは店員の詮索心からきた態度だと思って、不快感を露わにしている。

「ええ、それはもちろんですが……」

「空いている席に座って良いですか?」

 まだ何か言いたげな店員だが、リオンはそれを許さなかった。マリアとの関係を変に想像されるのが嫌なのだ。

「……ええ、どうぞ」

 店員の返事を聞いたところで、リオンはさっさと空いている席に向かう。そうすればそうしたで、今度は周囲の視線が気になってしまう。
 眼帯をした、そうであっても女性のような整った顔立ちのリオンと、これもハッとするほどに美人なマリアが連れ立って歩いていては、周りの注目を集めないはずがない。
 周りからの嫌な視線には慣れているリオンだが、今のそれは少し感じが違っていて、気まずさを感じてしまう。
 席に辿り着いても、いくつかの視線が自分に向いているのをリオンは感じたが、ここまで来ては、気にしていても仕方がないと、意識から切り離した。

「素敵な雰囲気のお店ね」

「そうですか? まあ、綺麗は綺麗ですね。それなりに高級店ですから」

「そうなの?」

「私の立場では逆にこういう店しか知りません。私用で外食するなんてありませんから」

「もしかして、お休みとかないの?」

「決まった休みはないです。でも必要な時にはきちんと休みを貰えますので、かえって良いですね」

「そう。リオンくんって孤児だったのよね?」

「……それ誰から聞きました?」

「ランスロット」

「ランスロット様はどなたから?」

「それは……怒っているの?」

「いえ。私の素性を知る人は学院にはヴィンセント様くらいしかいないはずですので、単純に不思議に思いました」

「そう。ランスロットは、エルウィンくんに聞いたみたい」

「ああ、そういう事でしたか。マリアさんもエルウィン様とご面識が?」

「一度だけ。ランスロットの所で、お茶会があって、その時に会ったの」

「そうでしたか」

 マリアは実に簡単に情報を漏らしてくれる。ウィンヒール家の内部事情を知らないのか、それとも知っていながら隠す必要はないと思っているのか。
 どちらであるかによって、事は大きく違ってくる。後者であれば、ヴィンセントにとっても大きな問題となる話だ。

「他にも少し話を聞いた」

「何の話ですか?」

「ずいぶんと酷い扱いを受けているのね?」

「……そこまで?」

 リオンが孤児である事まではまだ良い。オッドアイの事まで漏らしていたとなると、それは問題だ。従者がオッドアイとなれば、又、評判を下げてしまう事になる。

「そうよ。ペット呼ばわりされていると聞いた。酷いわよね。人間をペットだなんて」

「えっ、それ?」

 何故こんな以前の話がマリアに伝わったのか。あまりに意外な事だったので、リオンは思わず素で答えてしまった。

「えっ?」

「あっ、いえ。別に気にしてません。結果として私は救われた訳ですから」

「それは騙されているのよ。人には、最低限の暮らしを営む権利があるの」

「権利ですか?」

「そうよ。リオンくんにだってあるわ。普通に暮らす、それは当たり前の事なの。その当たり前の事で、恩に着せるなんて、ズルイと思う」

「……はあ」

 やはり、リオンにとってマリアの言い分は理解出来ない。亮であっても同じ事。言っている事は分かっても、この話を今、ここでする意味が分からない。

「私、リオンくんの力になりたいの。私に何が出来るか分からないけど、皆の力を借りる事が出来れば、きっと何かが出来るはずよ」

 じっとリオンの瞳を見詰めて、真剣な表情でマリアは訴えてくる。そのマリアの手はリオンの手をいつの間にか握っていた。
 あまりに積極的なアプローチにリオンは戸惑ってしまう。

「えっと……とりあえず何か頼みましょうか?」

「……そ、そうね」

 どう対応して良いか分からずに、リオンは一旦、話を逸らす事にした。残念ながら、ちょっと手遅れだ。
 注文を受けに現れた店員が心配そうな顔でリオンに話を切りだした。

「あの……怒っているけど?」

「怒っている?」

「あれは怒っているのだと思うけど……」

「何の事ですか?」

「だから……」

 目だけを動かして、店員は何かを知らせようとしている。その視線の先には。

「……嘘」

 震えてしまいそうになるくらい、恐ろしい笑みを浮かべたエアリエルの姿があった。

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