真影の月 真影の刻:第164話 結末はこの世界に生きる人たちが決める
レイモンドにとって甚だ不本意な形であるが、二万の捕虜が従うことになった。納得はしていなくても、そうなってしまったからにはその状況を利用しないレイモンドではない。アイル王国内にいるブリトニア王国軍に対して、二万の捕虜が自分に従うことになった理由、遠縁ではあるがレイモンドはブリトニア王家の血を引いており、玉座を正統な後継者の手に取り戻す為に戦うのだという情報を、元特務部隊員を潜入させて広めていった。
さらに恭順した騎士たちにも説得をさせる。説得する側は必死だ。自分の行動の正統性を証明しなけれなならないのだから。
この策が功を奏して、残りのブリトニア王国軍からも投降者が続出する。一度その流れが出来るともう止まらない。恭順しなければ確実に敗者になる。抗える人などいない。結果、三万の軍勢がレイモンドの麾下に入ることになった。
さらにレイモンドの情報工作は止まらない。アイル王国にもこの事実を知らしめた。これは策というよりも、アイル王国が変な考えを起こさない為の牽制だ。三万の軍勢を率いたレイモンドに安易に敵対するような真似はしないだろうという考えだった。その結果は。
「……人質を求めた覚えはないのですけど?」
戻ってきたアボット子爵にレイモンドは戸惑った様子で話している。その視線はアボット子爵の隣。初めて見る男性に向いていた。
「人質のつもりはありません。これは貴殿との友好関係を構築する為に必要なことだと考えた結果です」
「それはそうかもしれないけど……何も王太子殿下が来なくても良くないですか?」
アボット子爵に同行してきたのはアイル王国の王太子ジョージ二世。王太子であるが、それは前国王が亡くなった後、まだ即位をしていないだけ。すぐに国王になる身だ。
「まもなく王になる御方がご自身の目で判断したいとおっしゃっている。臣下としてそれは駄目だとは言えない」
これは嘘だ。ジョージ王太子がこの場に現れたのにはアボット子爵の強い勧めがあってのこと。レイモンドという人間をきちんと見て、判断して欲しいという願いを受け入れたからだ。
「まあ、こちらも国王となられる方に帰れとは言えない。だから来たのはいい。でもどうして同行までするのですか?」
レイモンドがジョージ王太子についてごねているのは、ブリトニア王国に向かうレイモンドに途中まで同行すると言ってきたからだ。それをする理由が思い当たらないとなれば、レイモンドとしては策略を疑わずにはいられない。
「それも友好関係を築く為」
「そうは言うけど……」
「私のことは気にするな。特別気を使ってもらう必要はない。護衛もいらない。連れてきた近衛だけで十分だ」
レイモンドとアボット子爵の話がまとまりそうもないと見て、ジョージ王太子は話に入ってきた。ただこの説明ではレイモンドは安心出来ない。かえって疑いを深めるだけだ。
「戦闘がないとは限らないのですが?」
「だからそれについては心配無用と言っている。自分の身は自分で守る」
「……分かりました」
アイル王国側に引く気配はない。レイモンドは仕方なく同行を認めることにした。ジョージ王太子の周囲に密かに人を張りつける、その無駄を覚悟して。
「それでこれからどう動くつもりなのだ?」
「物資の調達を急いでいます。それにある程度目処が立ったところで出発します」
「それから?」
「……それを聞く必要がありますか?」
「ああ、軍事機密というやつか」
軍事行動について他国の人間に簡単に話すはずがない。答えようとしないレイモンドの態度にジョージ王太子はとくに腹を立てることもなく、素直に納得した。
「別に機密というほどのものではありません。ただ出発して国境に向かう。それだけなので何も話すことがないだけです」
「……しかし、戦闘があるかもしれないと」
「はい。それは戦争をしに行くのですから当然、可能性はあります。ただ国境までであれば可能性はかなり低いと考えています」
「そうなのか……」
戦闘があると言ったのはジョージ王太子に同行して欲しくないからだ。国境に向かうまでの間で無駄に戦闘を行うつもりはレイモンドにはない。今、この瞬間にも途中の拠点では使者が降伏を勧めている。
それを拒否して、勝てるはずのない戦いに挑もうという拠点はほとんどないだろうとレイモンドは思っているが、それがあっても無視するだけ。国境までの拠点は元々アイル王国の拠点。わざわざ自軍に犠牲を出して、取り返してやる必要はない。
「さて確認ですが、アイル王国にこちらに敵対する意思は、少なくとも現時点ではないのですね?」
国王になるジョージ王太子が同行するのだ。それで攻撃を仕掛けてくるはずがない。もっともジョージ王太子が偽物である可能性もレイモンドは考えている。ただそれも周囲に人を張りつけて言動を探っていればすぐにボロが出るはずだ。
「もちろん。その上で貴殿と共闘するかどうかについては、これから考えさせてもらいたい」
「なるほど……分かりました。それで結構です」
共闘関係が結べればそれはいい。だが国境に辿り着いてからそうなっても意味はないともレイモンドは考えている。アイル王国の軍を待っている余裕などレイモンドたちにはない。相手に動きが知られた後に動きを止めるなどレイモンドたちにとってはあり得ないことなのだ。
「もうしばらくはアルスターに駐在します。お部屋を用意した、とこちらが言うのも変ですが、そちらにご滞在ください」
「ああ、そうさせてもらおう」
「では私はこれで失礼します。やらなければならないことは沢山あって、サボっていると叱られますので」
ジョージ王太子にこれを告げて、レイモンドは席を立って部屋を出て行った。扉が完全に閉まり、護衛の騎士が二人、その後を追うように部屋を出る。廊下で見張りをする為だ。
「……案外、物腰は柔らかだな。もっと高圧的な人物だと思っていた」
話に聞いていたレイモンドの言動。ジョージ王太子の中で、それから想像していたレイモンド像と実際はかなり異なっていた。
「好印象であったのは良かったです。しかし……どうでしょう?」
「何かあったか?」
「お怒りになられないで聞いて頂きたいのですが、少し軽く見られてしまったかもしれません」
「……私は何か失敗したか?」
レイモンドにそんな風に思われるほどの話をした覚えはジョージ王太子にはなかった。
「彼の気持ちは私にも読めません。ただ彼の中では時期というものがあるのではないかと感じました」
「時期とは何の時期だ?」
「共闘の件。すぐに回答をしないと話された時、彼はわずかに考える時間を持ちました。そうであるのに会話はそれで終わり。彼は部屋を出て行きました」
「……それのどこに問題があったのだ?」
「共闘については彼の中でもう終わったのではないかと」
「何と?」
それはつまりレイモンドはこれ以上の友好関係をアイル王国に求めないということ。そうなることはジョージ王太子の本意ではない。アボット子爵がレイモンドに話した通り、より友好的な関係を築くために、レイモンドがそれが出来る人物かを見極める時間を求めているのだ。
「私の失敗です。もっと深く考えておくべきでした。国境までの進出に彼は自信を持っていました。我が国の支援など必要ないくらいに」
「確かにそうであったな」
「そして国境まで辿り着けば、あとは彼にとっては国内での戦いです。彼は守るのではなく攻めるのです。国境の砦に滞在するつもりなど微塵もないのでしょう」
「……そういうことか」
国境に辿り着いてから共闘を申し出ても、実際にそれが実現することはない。レイモンドはアイル王国の増援など待つことなく、ブリトニア王国内に深く侵攻していくのだ。アイル王国軍はそれに追いつけるのか。恐らくは追いつけない。だからこそレイモンドは交渉は不要と判断したのだ。
「申し訳ございません」
「……いや、良い。私にも非はある。私は相手は困っているのだと決めつけていた。私たちの協力を強く求めているものだと。だがそうではなかった」
「はい。私に王太子殿下の説得を頼んできた時とは状況が異なります。すでに彼は単独で戦う力を手に入れてしまったのです」
これは少し勘違い。レイモンドの考えでは信用出来ない味方は敵も同然だ。兵数は多いほうが良いと思ってはいるが、アイル王国に積極的に協力する気がないのであれば、それを頼る気にはなれない。
「そうなると……」
ジョージ王太子が腕を組んで考え始めた。すぐにレイモンドに共闘を申し出るべきかどうかを。だが決断は簡単ではない。レイモンドと組んで、それで破れることになればその後のアイル王国は悲惨なことになるだろうと予想される。勝者となったシャロン女王もしくはアーサーが敵対した相手を許すはずがないのだ。
では傍観者でいるべきか。それは間違いだとジョージ王太子は思う。傍観者はどちらにとっても味方ではないのだ。そもそも傍観者でいられるなら、ここに来る必要はない。
「カーティスが生きていれば……」
結論が出せないジョージ王太子は思わず呟きを漏らしてしまう。
「私の力が足りないばかりに。申し訳ございません」
「ああ、そうではない。カーティスは彼と親しいとまでは言えないが、何度も話し合いを重ねていた。その時の印象を聞きたかったと思っただけだ」
「……それでもやはりお詫びいたします。私には、ただ敵にしてはならないと直感的に思うだけで、あの男が読み切れません。自分の力量不足の結果を王太子殿下に押しつけるような真似をしております」
「いや、いい。その判断は間違っていないと私は思う。ただ、やはり時間が必要だ。私にはすぐに結論はだせん」
レイモンドに国民の未来を託せるか。こういうことなのだろうとジョージ王太子は考えている。それは簡単に判断出来るものではない。
「仕方がないことだと思います。王太子殿下が後悔されないご判断をなされるべきです」
「そうだな」
◇◇◇
戦いの準備の為に忙しい日々を送っているレイモンド。そんな日々の中でも気が休まる一時がある。アルスターの街から少し離れた場所で、夜の闇が周囲を囲む中、ぼんやりと夜空を眺める時間。これはもう、晴れの日には欠かさない習慣と化している。
その習慣も最近は以前とは違う。レイモンドの傍らには常にクレアがいる。夜空を眺めながら思いを馳せていたその対象がすぐ横にいるのだ。
長い間、離れ離れだった二人。話すことは沢山あるはず。だがこの時間の二人はあまり会話を交わすことをしない。お互いに何となく照れくさくて、何を話して良いか分からないのだ。それでも二人は楽しかった。同じ時間を同じ空間で過ごせることが嬉しかった。
ただし、今日に限っては少し事情が異なる。レイモンドには話したいことがあるのだが、それを口に出来ないでいるのだ。
「トリスタンが……」
覚悟決めて口を開いたレイモンドだが、トリスタンの名を出しただけで、また口をつぐんでしまった。
「トリスタンがどうしたの?」
「……何でもない」
「何? そんな言われ方したら気になるわ」
「トリスタンが……」
もう一度きちんと婚約をし直したほうがいいのではないか、と言ってきたとは恥ずかしくて口に出来ない。というかトリスタンを口実にせず、それは自分の意思として言うべきだ。
「だから何?」
「……母親に会って欲しいって」
だがヘタレなレイモンドはそれを口にすることが出来なかった。レイモンドとクレアの結婚は親同士が決めたもの。レイモンドはプロポーズをしたことはないのだ。
「そう……それで会うの?」
「会っても話すことがない」
「話したいことは相手にあるのではないの?」
会いたいと言ってきているのはトリスタンの母親だ。レイモンドに用はなくても相手にはある。当たり前のことだ。
「お礼とお詫びだって言っていた。でもそれをされる理由が俺にはない」
「ザトクリフ子爵家が取り潰しになった時、金銭的な援助をしたのではないの? トリスタンはレイのおかげで暮らしに不自由しなくて済むと言っていたわよ」
「……ああ、金は渡した。でも要らない金だ。お礼を言われることじゃない」
キャサリンの為に貯めていた金。キャサリンが自殺して不要になった金だ。金は金。何の為の金だったかなど関係ないのだが、レイモンドは持っていることが辛かったのだ。
「レイモンドはそう思っていても、相手は感謝しているのよ。その気持ちは受け取るべきではないかしら?」
「好意でやったことじゃない」
「……レイ。レイの気持ちがどうであろうと、相手にとっては救いだったの。それが事実。それを否定する必要はないわ」
「たまたまだ。それで礼を言われても嬉しくはない。だから礼を受け取る必要はない」
この件に限らず、レイモンドは自分の善行を認めようとしない。自分の利でやったことは、それが結果、人々の救いになっても偽善だと思っているのだ。それでは駄目だとクレアは思う。
「……私はこの国を良くしたいと思っていたけど、何も出来なかった」
自分は結果を出せなかったが、レイモンドはそうではないのだ。
「そんなことはない。レアは頑張ったと思う」
「でも結果は出せなかった。私にはその力はなかったの」
「レア……まだ終わりじゃない。これから良くしていけばいい」
「ええ。そのつもり。だって今はレイが側にいる。私には出来ないこともレイならやってくれるわ」
レイモンドであれば自分がやりたかった事を実現してくれる。レイモンドにはその力がある。皆が望む結果を出してくれる。クレアはそう信じている。
「俺は……俺にはそんな力はない。それに俺は周りを不幸にする」
この思いはまだレイモンドの心から消えていない。キャサリンのことを思い出したことで、また強くそれを感じてしまっている。
「……レイ。それはレイが幸せになろうとしていないからではないかしら?」
「えっ?」
「レイ自身が幸せにならないと周りの人だって幸せにはなれないわ。私がそうだもの。レイが苦しんでいれば私も苦しい。レイが不幸になることで私が幸せになれることなんて絶対にないから」
自分の為にレイモンドに傷ついてもらいたくない。クレアもこの思いをずっと胸に抱えていた。レイモンドがクレアを守りたいように、クレアもレイモンドを守りたい。守れる自分でありたいのだ。
「レア……」
「レイ。幸せになろうよ。自分たちが幸せになる為にこの世界を良くしようよ。その為に頑張ろうよ」
「……俺はレアを幸せにしたい」
「だったらレイが幸せになって。それが私にとって最大の幸せだから。レイ、私も同じなのよ? レイが私を想ってくれているように私もレイを想っている。お互いに相手に幸せになってもらいたいのだから、一緒に幸せになるしかないの」
「……そうか。レアを幸せにするには俺も幸せにならないといけないのか」
この気持ちになったからといってレイモンドの行動が大きく変わるわけではない。この先もクレアを守る為には自分が傷つくことを厭わないだろう。クレアを守ることがレイモンドにとって喜びなのだから。
ただクレアを喜ばせるにはそれだけでは駄目なのだ。クレアはレイモンドに傷ついて欲しくないのだ。クレアを幸せにしようと思えば、それについて考えなければならない。
これはちょっとした心境の変化。だがこのわずかな変化がレイモンドには必要だった。本当にクレアの為を思うなら、これまでと同じでは駄目だと気付くことが必要だった。
◇◇◇
戦いの準備が整い、いよいよ出陣の日。正統ブリトニア王国軍三万はアルスターの城門の前で号令の時を待っている。
大きく三万を三部隊に分けて整列している正統ブリトニア王国軍。それぞれの最前列に立っているのは部隊長、万の軍勢を率いるのだから将軍と呼ぶべき上級指揮官に任命されたブラッド、グリフレット、トリスタンの三人だ。
さらに三部隊よりはかなり人数は少ないが、レインウォーター伯爵領軍や特務部隊員等で編成されたレイモンド直卒部隊が並んでいる。ルークとドロシーはこの直卒部隊の所属だ。
整列した全軍の前に、馬に乗って進み出たのはレイモンド。その斜め後ろにはクレアも続いている。
正統ブリトニア王国軍を率いる総指揮官。ブリトニア王家の代表として軍を率いるレイモンドは、それに相応しい正装姿。黒地に金糸で彩られた豪奢な騎士服の上にマントを羽織っている。クレアはそれとは対照的な白を基調とした軍装だ。
『いよいよ出陣の時だ!』
しんと静まりかえっている兵士たちに向けて、出陣の時を告げるレイモンドの声。怒鳴っている様子はないのに、その声は良く響く。
『敵はブリトニア王国にある! 誰とは言わない! この世界を、この世界に生きる人々を苦しめる奴らが俺たちの敵だ!』
アーサーでもシャロン女王でも、ハートランド侯爵家でもない。シャロン女王を敵と指定することを避ける為ではなく、この言葉はレイモンドの気持ちそのままだ。
『俺たちがそうだった! この世界に争いをもたらし、多くの人々を苦しめてきた! そうやって俺たちは生きてきた!』
レイモンドのこの言葉を聞いて、兵士たちにわずかに戸惑いが生まれる。戦いを前に自らの正義を訴えるのではなく、非を認めるレイモンドに驚いているのだ。
『だからこそ俺たちがやらなければならない! 俺たちは知っている! この世界の不条理を! 俺たちは何度も味わっている! 思うように生きられない悔しさを!』
力のない人であれば誰もが、大なり小なり同じような思いを抱いている。そして兵士たちはその力のない人々だ。死にたくない、殺したくないのに戦わなければならないのだから。
『もう二度と! 俺たちのような存在を生んではいけない! 俺たちのような思いをさせてはいけない! この世界に生まれたことを後悔させてはいけない!』
自分のような思いはさせたくない。戦争が良くないことであるのは皆分かっている。それでも戦い、人を殺さなければならない。
『……武器を取れ! これが最後だ! 俺たちが最後にするんだ! この世界の未来の為に! この世界に生まれてくる子供たちの為に! 俺がゲームを終わらせてやる! 最後に勝つのは、俺たちだ!!』
ゲームなどと言われても誰も分からなかったはずだ。だがそんなことは関係ないのだ。レイモンドは勝つと言った。これまでいくつもの戦場で圧倒的な力を見せつけた戦争の天才が、災厄と呼ばれる龍でさえ従った英雄が勝つと宣言したのだ。それを疑う者などいない。
『さあ、行こう! 出陣だっ!!』
『『『うおぉおおおおおおおおっ!!』』』
天に向かって剣を突き上げるレイモンド。それに応えて兵士が、騎士も槍や剣を突き上げて歓声をあげている。その歓声に応えながら馬を進ませるレイモンドとクレア。その後ろをルークとドロシーがいる直卒部隊が軍旗を翻しながら続く。
さらに城壁の上にいたクロウが滑るように宙を降り、レイモンドの頭上を飛び越して、先に進んでいく。
まるでレイモンドたちを導いているかのように――その光景を見た騎士たちは、シャロン女王に剣を向ける口実などどうでも良くなった。この光景を、レイモンドの威風堂々とした姿を見て、他に忠誠を向ける相手などいないと思ってしまったのだ。
「なるほどな……こういう人物か……」
それはその様子を見ていたジョージ王太子も同じ。
「……アボット。動かせるだけの軍を集めるのだ」
「よろしいのですか?」
レイモンドの人物を見極めるには時間が必要だとジョージ王太子は言っていた。アボット子爵の知る限り、今日この日までそれが出来るほどの接点は持てなかったはずだ。
「……聞くな。これは私の直感のようなものだ」
「そうですか。分かりました。しかし間に合いますでしょうか?」
「そのようなことを考える必要はない。ただひたすらに後を追い、一人でも多く戦いに参加するのだ。我らに出来る最善はそれだけだ」
「はっ」
レイモンドは間違いなくブリトニア王国の国王に、この大陸の覇者になる。少なくとも自分にはレイモンドに抗える力はない。抗う気持ちにもなれない。そうであれば誠意を、それどころか目の前の兵士たちのように忠誠さえ向けるべきだ。それがアイル王国の国民の為。そうジョージ王太子は決断した。
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