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皮肉はどんな肉よりも美味い。_小説「星新一ショートショート1001」より『暑さ』『約束』を読んで

星新一先生の書く物語とは、どうしてあんなにも美しく、震えるのだろう。
皮肉 それは現代人が日常的に使う言葉のナイフである。
しかし、星新一先生の書く皮肉は どんな肉よりも味がする。

家に眠っていた星新一 ショートショート1001を久しぶりに引っ張り出してきた。数ヶ月ぶりの対面でも驚く圧倒的分厚さ。数話だけ読んで中途半端なページに糸が挟まっていた。当時の私、ここまで読んで諦めたんだな、と過去の自分を思い出す。

このショートショートが家に三冊セットで揃っているのに、読まないわけにはいかないかと脱衣所に置いて毎日髪を乾かしながら読むことにした。

せっかく読むのなら、感じたことをnoteにすればいいじゃない。
そんな浅はかな考えで、今日付けてこのシリーズを綴っていくことにする。

暑さ

「あのう、わたしをつかまえていただくわけには、いかないものでしょうか」

この一言からあのラストまでの進み方が本当に、たまらなく、恐ろしかった。相手の警官が、話をきちんと聞いていれば、同じ反応をしただろう。

この話のミソはなんて言ったって最後だ。
1行1行読み進めて行く度に、もしかすると、そういう事かと、まるで猛暑の中で垂れる汗のように、じわじわと、脳みそが理解していく。

「つぎの年の準備をすぐに始めるようになっていました。秋になると、さっそくサルを飼ったのです。」

そしてこの後に続く最後の1行。

今までの彼の話とその後の結末を導く一言。その瞬間、恐怖に似た何かに体が支配された。
この二文がここまで引きずり落とす伏線になると、誰が予想しただろう。

しかし、この暑さの中では、警官はこの物語の怖さに気づくことが出来なかったのだ。これがまた、彼の表現する皮肉の美しさだ。

自首しに交番を訪れた彼が、この後とった行動は、読まなくても明らかなのだから。

約束

「それならね。大人たちのやり方を、あらためさせてほしいな。大人たちに、嘘をつかせないようにすることなんかもできる.....」

別の惑星の宇宙人と、子供が交わした約束。
大人は嘘つき、悪いことばかりする、だから。
子供とは無垢で優しくて、愛おしい。そんな子供の可愛いお願いごとを、帰りに寄って叶えてあげると伝えた宇宙人。

この時点で、じわじわと、結末の予想がついてくる。仕事を終えて、再び帰ってくるから、その時に。 その時って、彼らは。

大人とは醜く、残酷な生き物だ。子供の目にはそう映ってしまうことも少なくないだろう。しかし、そんな子供たちもいずれ時を経て、そういった 大人 になっていく。 そう言った時、私達自身は子供たちに胸を張れるのだろうか。




久しぶりに読むと、たった二つだけでも心が満腹になる。
次はどんな美味い皮肉を食せるだろうか。

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