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四国大戦 一番札所 霊山寺3

「それでどうする? どうすればあの化け物を倒せる?」
 機動寺院はサーチライトをで町を照らしながら、町民たちを細いアームで掴み上げ、ふすまを口のように開けると、そこへ放り込んでいく。
「あれは霊山寺! 私が最初に作った機動寺院だ! 本尊は釈迦如来、つまりはブッダ!」
「本尊がブッダだからどうだってんだ?」
「霊山寺は全ての機動寺院の基本となる設計だ。本尊のブッダが信仰を受け、高効率で徳を運動エネルギーに変換している。武装は高射砲と、仏弾を発射する機関銃だ」
「機関銃だって?」
 霊山寺のサーチライトが向かってくるジョンを捉えた。霊山寺の下部から、ガトリングガンの砲身が二つ飛び出て、ジョンに狙いを付けた。
「危ッ!」
 ジョンはすかさず狭い路地へ飛び込んだ。そこへガトリングガンが発射され、ジョンの立っていた位置に小さな仏像が突き刺さる! 地元民の寄進した仏像を弾丸として仏敵へ発射する、これぞ仏弾である!
「くそっ! 般若心経を持ってくるべきだった!」
「まず足を狙うんだ、ジョン!」
 金剛杖が言った。
「足を狙い、動きを止めて寺の中へ入り込むのだ!」
「あの捕まってる町民に紛れて入り込めないのか?」
「私のプログラムした経典を甘く見るな! 人間の心理など簡単に分析できる! 捕まった途端に握りつぶされるぞ!」
「クソみてぇな寺を作りやがって!」
 ジョンは自動着火蝋燭の蓋を開けて火を点け、線香手榴弾の導火線に火を点けて目の前の通りに投げた。爆発と共に線香の匂いと白煙が立ち上る。白煙が十分に広がったところで、ジョンは通りへ飛び出して向かいの建物に移り、物陰から霊山寺のガトリングガンへ向けて対仏ライフルを撃った。
 黄色い爆発が生じる。
 ジョンはボルトを引いて、次は足関節を狙った。再び爆発を起こし、霊山寺の足の一つが吹き飛んだ。
「上手いぞジョン!」
「まだだ」
 霊山寺の足は八本ある。あと七本もあった。
 サーチライトがジョンを照らした。霊山寺は七本の足を器用に動かしてジョンに肉薄した。速い。巨大だから、歩幅が大きく動きも早いのだ。
 霊山寺がアームをジョンへ向かって伸ばした。
「まずい!」
 ジョンは路地の奥へと逃げる。だが霊山寺は周囲の家々を踏み潰しながらジョンを追いかけた。
 ジョンは線香手榴弾を霊山寺に投げようとして「駄目だジョン! 霊山寺の中にはまだ人がいる!」と、金剛杖に言われ、思い直して足元に線香手榴弾を投げた。たちまち霊山寺は煙に包まれる。
 逃げる前に対仏ライフルを一発撃って、もう一本の足を破壊してジョンは再び逃げ出した。
「前方から足を六本破壊すれば、霊山寺はバランスを崩して前のめりに転倒する。その隙に乗り込め!」
「承知!」
 つまり残り四本の足を破壊しなければならない。
 ジョンは路地に逃げつつ、線香手榴弾を地面に突き刺してワイヤーを伸ばし、即席のブービートラップを設置する。
 霊山寺はまだジョンの方に気が付いていなかった。ボルトを引いて対仏ライフルの撃鉄を起こし、ジョンは三本目の足を破壊する。
 霊山寺がジョンの方へサーチライトを向け、再び向かってくる。しかし霊山寺の足が、ジョンの設置した複数のブービートラップに触れた。
 四、五、六本の足がこれでまとめて吹き飛び、霊山寺が前のめりに倒れ込む。複数の建物を巻き込んで、本殿が地面へ墜落した。
 ジョンは砕けて銭のはみ出した賽銭箱を踏み、霊山寺本殿のふすまをこじ開けようとするが、開かない。やむなく対仏ライフルで吹き飛ばす。マガジン内の最後の一発が放たれると、ふすまは小さな爆発を生じて飛び散った。
 ふすまの向こうには、釈迦如来を模した本尊に向かって一心不乱に祈りを捧げる人々の姿があった。ジョンが寺院を転倒せしめたため、本殿は手前に向かって傾いている。破壊僧の鍛えられた体幹にとっては平地に等しいが、足腰の弱い老人ではあっけなく滑り落ちてしまうだろう。
 現に今、足腰の弱い老人の一人が畳からずり落ちて、ジョンに向かって落っこちてきた。
「うあー」
 いかん!
 ジョンが受け止めようと構える前に、天井の一部が開いてロボットアーム『木魚』が飛び出し、足腰の弱い老人を掴んで元の位置へ引き戻し、電撃で一撃した。
「はうあっ!」
 足腰の弱い老人は体を痙攣させたのち、再び祈りを捧げ始めた。
 その光景を見たジョンに、かつての戦場がフラッシュバックした! 国家仏教の名のもとに、様々な敵を打ち倒してきた記憶を! 無辜の民が屍の山となり、流される仲間の血が川となる戦場! 徳を失って倒れる僧侶たち! 闇夜に跋扈する仏敵が安らかな眠りを奪う!  
 何故だ! 何故こんなことになった! ジョンの叫びが、仲間の叫びが、あるいは無辜の民が大声で叫ぶ! 
 仏像の下に祈りを搾取する光景は、ジョンの眠れる怒りを引き出した!
「うおおおおおおおお!」
 ジョンは対仏ライフルを捨てて跳躍し、本尊へ向けて拳を放つ。するとさきほど足腰の弱い老人を引き戻したロボットアームが天井から飛び出した。この霊山寺の最終仏敵迎撃システムにジョンは掴みかかり、力任せに引きちぎると、本尊へ投げつけた。
 本尊はびくともしない。本尊だけあって凄まじい徳である。
 天井のハッチがいくつも開いて、大量のロボットアームが次々と飛び出た。さすがにすべてを引きちぎることは出来ずに、アームがジョンの身体を捕らえ、繋ぎとめようとするが出来なかった。今のジョンを、誰も止めることは出来ない。
 彼はキレているのだ!
 ジョンはジリジリと本尊へにじり寄る。
 ロボットアームが電気ショックを与えた! この電気ショックはほんらい念仏を唱える僧侶の眠気を覚ますものであり、それほど電圧が高くない。しかし大量のアームから同時に放たれる電撃を食らって、人間は無事なものなのだろうか? ジョンの身体から白い煙が立ち上る。
「無駄だぁ!」
 ジョンは構わず本尊の前へ進み「馬鹿野郎!」と叫んで本尊をその拳で一撃した。その声は心を失い、虚ろな目で祈りを捧げる人々の魂をも一撃し、刹那、祈りの供給を停止せしめた。
「アホっ!」
 ジョンが再び本尊を拳で一撃する。ジョンから本尊へ放たれた反仏性の高い暴言が、空中でスパークして反仏質の結晶を発生させる! ジョンはそれを拳に載せて「クソ野郎!」と、本尊の顔を殴った。対消滅による爆発が生じ、本尊にひびが入る。
「馬鹿! アホ! お前なんかブッダじゃない!」
 ジョンが拳を連打する。反仏質がスパークし、本尊と激突して爆発を生じる。閃光と爆発が、霊山寺に捕らえられた人々を正気に返した。比較的、最近に捕まえられた人々が立ち上がり、率先して霊山寺から捕らえられた人を脱出させていく。
 祈りの供給を断たれ、急速に徳を失った本尊は黄色い光と共に爆発霧散した。
「ジョン、今だ! 納経帳を掲げろ!」
 金剛杖が言う。
 ジョンはふんどしに挟んだ納経帳を本尊のあった場所に向けた。すると、爆発四散した本尊の欠片が粒子化し、納経帳へ吸い込まれていくではないか。
 次の瞬間、霊山寺は全ての機能を停止した。
 木魚のアームから解き放たれたジョンは、最初の一ページだけ梵字の刻まれた納経帳を落とし、畳に突っ伏してから本堂を転がり、吐き出されるように霊山寺から飛び出た。
 いつの間にか顔を出していた朝日が、祝福するかのようにジョンへ降り注ぐ。寺から解放された人々は、半ば本能的に地面に突っ伏すジョンへ祈りを捧げていた。本尊へ捧げていたものと違う、心からの祈りであった。
「救世主じゃ」足腰の弱い老人が涙して叫ぶ。
「四国を救って下さる救世主様じゃ!」


一番札所霊山寺………破戒完了
次回更新……2020.11.19
内容……ライナーノーツ的な何か

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