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6月の心の荷物 #4


 突然の別れ2# から3週間ほど後。

 この日は後任の薬剤師k君と私(事務員)の2人での勤務。午前中の混雑時間帯の処方せんが一段落し、しばらく落ち着いた時間が流れた。
と、正午前に見慣れた黒い車が、窓越しに駐車場に入ってくるのが見え、好きだった兄さん薬剤師の姿を私の目が捉えた。

「何だか懐かしい・・・」と、私は呟いてしまった。心がドキドキしたのを後任のk君に気付かれないように。

「お疲れ、コレ皆で食べて。」と、先日のお返しを持ってきてくれた。県外の実家にこれで戻るからと最後に寄ってくれた。

 顔や腕が最終日より凄く日焼けがしていて、「間違いなく焼けたよね。」と聞くと、実家の田んぼの手伝いで焼けたと。手入れのこと、農協に卸す時の手続きも色々と大変なんだと。
就職先も隣の市で決まったと言っていた。

 途中で仕事が入って話は中断。私が受付で入力終えたら、兄さんが処方せんを受け取った。
「最後ぐらい、一緒に仕事させてよ。」と、そんな兄さんを私は見つめていた。数日前、兄さんと一緒に仕事をしていた夢を見てしまった私は、少し目が潤みそうだった。


 k君がドライブスルーの窓口に渡しに行く後ろ姿を二人で見送りながら、
「k君、大丈夫そうだね。」と、兄さんの言葉に、
「ええ、凄くしっかりしてるよ。先を読んで行動してくれてるよ。」と私は穏やかに答えた。

「k君が整理した薬品棚も使い勝手が良いね。」と兄さんは褒めていた。k君が黙々と大改革していて、部長も以前、上手いなと褒めていた。

 刻々と時間は12時10分を過ぎ、土曜は半日で終了するので、いつもなら、ここで締め作業の準備に入るのだか、まだ動き出したくない。恐らく終わりを告げてしまうから・・・・・。
そんな私の気持ちや雰囲気に絶対兄さんは気付いている。気配りが凄く出来る人だから・・・。

さらに10分が過ぎ、流石に作業に向かわないと、k君にも迷惑が掛かる。レジ締めしなくちゃ、と私は動き出した。それに併せて、兄さんも「じゃぁ、俺も行くかな。」と切り出した。


「・・もう・・思い残すことはない・・・」と、私のみに聞こえる様に、兄さんは呟いた。最後の繋がりがプツンと切れた感覚だった。

「なら、これで行くわ。二人ともコロナ気を付けて。k君もまた何処かで。」と言い、私達も元気でね。と、言葉を掛け、兄さんは店を出た。


 車にエンジンが掛かり2分程、炎天下だから直ぐには動かないだろう。今ならまだ顔が見れると、私はドアを開けて追った。先日、気持ちをぶつけて、ケジメを付けたはずの気持ちがまた揺らいでしまった。まだ運転席の窓を開けて止まっていたので、側に行った。

 「見送りがしたくて。」と、ニコッとしながら車内をのぞき込んだ。子綺麗な運転席と助手席の間には小さなひまわりのブーケが付けられていた。やっぱり兄さん、花が似合うなぁ。

でも、直ぐ顔が曇って、「ゴメン、気持ちの切替下手だから・・・」私は俯いてしまった。
「そりゃそうだわな。」と、仕方がない妹だなと頭を撫でてくれた。
「道中気を付けね。これで仕事に戻るわ。」と私がサヨナラをして歩き出すと、車は発進した。

 車が見えなくなり、「さて、」と、必死に気持ちを切り替えて、締め作業を終えた。
お疲れ様でした。と先にk君が退社して、姿が見えなくなったのを確認してから、私は一人で泣いた。家に帰ると泣ける場所が無いから、気持ちが落ち着くまで泣いてから店を後にした。


 
思い出すきっかけが多すぎる兄さん。
書く時系列逆になりましたが、8月下旬、たまたま遭遇したことを先に書いてしまいました。
自分の拙い文を読んで頂ける方がいるだけでも感謝しています。




  

 






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