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好きな人に純粋な愛を伝えたいなら、大きな薔薇の花束よりも、赤い薔薇の一輪花の方がいい。
大げさな演出はいらない。
誰かにどうしても伝えたいことがあるのなら、溢れ出す思いを何枚もの手紙に書き連ねるより、一筆箋に、気持ちが凝縮された一言をシンプルにさらっと書くのがいい。
真意は一言にある。

両手で抱えなきゃ持てない大きく美しいものよりも、両手で包み込める程度の儚いものの方がさり気ないのに色気があるから。
これはあくまで、わたしの持論だけど、「優しさこそ、さり気ない方がより優しい」ということだ。

粋な人が好き。
粋って、さり気なさと優しさを絶妙なバランスでブレンドしたスペシャルブレンドコーヒーみたいなものだ。
困っている人を助けて名前を聞かれても、「ただの通行人ですよ」と後ろ姿で片手を上げながら、背広を肩にかけて颯爽と振り返ることなく去っていくヒーローみたいなものだ。(誰だよ)

残念ながら23年間生きてきたくらいじゃまだそんな「ただの通行人ですよ」ってリアルに片手を上げるヒーローには、出会ったことはないけど、最近出会った粋な人の話をしよう。

わたしが、友達から借りたテキストをコンビニのコピー機でコピーしていたときのことだ。
コピーしなきゃいけないページは30ページくらいあるし、一回一回ページを裏返してセットしなきゃいけないから時間がかかる。
他にコピーをしたい人からしたら、内心イライラする、「急いでるときに限って前の人のコピーが異常に長い現象」のまさにそれ。
後ろに人が並ばないことを祈りながら、何ページかコピーをしたくらいで、後ろに一人おじさんが並んだ。並んでしまった…。
おじさんの手元を見ると2、3枚の紙しかなくて、それだけをコピーするためだけに、わたしのあと25ページ程の時間を待たせるのは申し訳なさすぎる。そう思ったから、「わたしは時間がかかるので、よろしければ先にどうぞ」と途中でコピーを中断してお金を戻し、順番を変わった。
後ろに人が並んでるとソワソワしちゃって嫌だったから。
「いいんですか!ありがとう」とコピー機を使うおじさんのコピーは3分もかからなかった。
そして、コピー機の近くの雑誌コーナーで何となくブラブラ立ち読みをしていたわたしに、「終わりました。ありがとう。」と声をかけた。
コピー機に戻ると、残金が30円ほどコピー機に残されていた。
おじさんがお釣りのボタンを押し忘れたのかと思って、帰ろうとするおじさんの背中に急いで「あの、30円残っていますよ!」と声をかけた。
すると、おじさんは微笑みながら、「どうぞ。使ってください。」と言い、帰って行った。
「え…!いいんですか…!?ありがとうございます!」というわたしのお礼は届いていたのか分からない。

見えた…!「ただの通行人ですよ」と言って去っていく背広を肩にかけたヒーローが。しかも絶対ハットを被ってるやつ。
おじさんは、「コピー機を代わってくれたお礼ですよ。」とも、「残りの30円、良かったら使ってください」とも言わなかった。
ただ、そっとコピー機にお金を残しておいただけ。
もしも、わたしが気付かなかったら、もしくは、ラッキーって思ってそのまま使っていたら、おじさんは、その好意に気付かれることも、お礼を言われることも無かった。

人って、誰かにしてあげたことはいつまでも覚えているけど、してもらったことは忘れやすい。
だから、誕生日プレゼントだって、自分があげたプレゼントのことは手帳に書かなくてもだいたい覚えているけど、貰った時は誰から何を貰ったのかちゃんとリスト化をしておかないと分からなくなる。

それでも、そのおじさんのたった30円のことは、セリフまでしっかりと頭に残っている。
実はこのエピソード、もう1年半くらい前のことだ。
そのおじさんの、さり気ない優しさと気遣いがなんとも粋だった。

もちろん、相手に何かをしてあげたら喜んでほしいし、良いことをしたら気付いてほしいし褒められたい。
好きな誰かには、さり気ないどころかたくさんプレゼントをしたくなる。
そんな優しさも「とびっきりの優しさ」と呼びたい。

でも、たまには、花束をプレゼントするよりも、飾りテーブルの端に飾ってある一輪挿しの花の水を変えてみてほしい。
そのさり気ない優しさが、たった一輪の花を枯らさない。
その粋なやさしさに気付く人もいるものよ。

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