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繋がっていくもの

人との繋がりの不思議に鳥肌がたつことがあります。カトリックには「神さまのお計らい」とか「神さまの御旨」という言葉がありますが、もしかしたら、神さまの考えたストーリーがひとりひとりにあって、最初から決まっていたストーリーで繋がっていくのだ、と思えるようなことがあります。

毎朝NHKFM放送で古楽の楽しみという番組を聴いています。この番組は昔「バロック音楽の楽しみ」という番組でパーソナリティを皆川達夫先生がなさっていました。
中学生の頃からこの番組を聞き始めました。バロック音楽に興味を持った切っ掛けは、教会のミサで歌っていた聖歌のメロディーが好きだったからです。私が小さかった頃はグレゴリア聖歌のメロディーを使った聖歌をよく歌っていました。不思議なメロディーでしたが、心地よく気持ちに寄り添ってくれる旋律でした。
バロック音楽の楽しみで紹介される曲はその旋律に似ている曲が多いように感じたのです。
中学生になった頃ピアノのお稽古でバッハのインベンションを習い始めたのですがバロック音楽の楽しみで聴く曲と似てると思ったのを覚えています。

バロック音楽の楽しみを聴くのは高校生になっても変わらない朝の日課でした。
受験準備の時期になった頃どこの大学を受験するか分からないでいました。私が高校の頃は情報がとても少なく、毎月買っている螢雪時代という雑誌や先輩にきいて情報を得ることしか出来ない、そんな時代でした。そんな時知人から皆川達夫先生が教えている大学があるという情報が耳に入りました。
私は音楽に進みたかったのですが、学費を出してもらう父親から反対され、反対を押し切るほど自分には才能がないと諦めました。それでも、音楽を諦めきれずに、きっと音楽に繋がってくれるだろうと選んだのがドイツ文学でした。
ドイツ文学やドイツ語を学べる大学は当時そう多くありませんでした。ラッキーなことに皆川先生のいらっしゃる大学にはドイツ文学科があったのです。

そして運がいいことにその大学に合格し、皆川先生が部長を務めていらっしゃるグリークラブに入りました。皆川先生の授業もいくつか受けることができました。

授業での皆川先生は、ラジオでお話しするのと変わらない話し方で、毎回正装で教壇に立っていらっしゃいました。講義の中で先生が
「授業というのは過去の専門家が苦労して得た知識を後世に受け渡す儀式なのです。儀式なのだから正装をすると決めているのです。」と仰っていました。
なるほどな、と感心したのを覚えています。講義もそうでるが、凛とした生き方など、心から尊敬できる先生でした。

大学を卒業した後の私はバロック音楽の番組ともずいぶん長い間縁がないまま毎日をおくっていました。

数年前から定年を迎えた家族が別の仕事につき5時前に出勤するようになりました。玄関先で見送った後ほっとした気持ちになり、私はふと早朝のラジオを聴いてみようと思い立ちました。バロック音楽の楽しみはいつの間にか古楽の楽しみという番組になっていました。

古楽の楽しみを聴く時間はとても楽しい時間です。X(旧 Twitter)で同じ時間にラジオを聴いていらっしゃる方々が曲にまつわる様々なことをポストしてくださるのです。そんな時Facebookでパーソナリティのひとり加藤拓未先生が古楽の楽しみについて情報を流してくださってるのも知りました。聖心女子大学での講義で学生さんがとても熱心に聴いていたという記事がFacebookで流れてきました。


「いいですね。」と思わずコメントしてしまいました。すると加藤先生から、講座があるのでどうぞいらしてくださいとお返事をいただきました。

そして、今日が初めての講座の日でした。
超方向音痴の私は慣れない所に行くのが苦手で数日前から緊張していました。
ドキドキしながら会場に着くとお世話係のHさんと会員のKさんがいらっしゃいました。

「藤沢から来ています。」とご挨拶くださったKさん。お話しを伺っていると、カトリック鎌倉雪ノ下教会の信者さんで聖歌隊で歌っていらっしゃるとのこと。とても驚きました。というのは息子が中学1年から大学卒義するまで所属していた合唱団が雪ノ下教会所属のグロリア少年合唱団だったからです。

しかも、今私が通っている教会の主任司祭スダーカル神父様が雪ノ下教会から転任していらしたこと。息子が最後に参加したポルトガルとスペインのグロリア演奏旅行で引率してくださった神父様がスダーカル神父様だったこと。どんどん話が繋がってしまいました。

今日の講義が始まり、加藤先生が聖心女子大学で今年から授業をするようになったことをお話しなさいました。「その講義は前任は〇〇先生、そしてその前は皆川達夫先生が担当していました。」
ここでもまた皆川先生に繋がってしまいました。

今日の講座はバッハ以前の受難曲について。いただいた資料には歌詞が載っていました。ドイツ語と加藤先生の邦訳がありました。遠い昔、自分の進みたかった道が途切れて、それでもなおきっと音楽に繋がるとドイツ語を学んだことがこんなところで役立つのだと感慨深い思いになりました。

学生の頃、友人の大学の講義に忍び込んでデーケン神父様の話を聞いたことがあります。

「神さまは願いを叶えてくださるのです。目の前にある願いは叶わないことがたくさんあります。それでも、時が経った時に振り返ると周り道をしながら自分の描いた道に繋がっているのです
そういう意味で神さまは願いを叶えてくださるのです。」と仰ったのを覚えています。

自分自身歩いてきた道を振り返ってもいろいろな事がありました。八方塞がりで辛くてもう生きているのを止めてしまおうと思った事さえ幾度かありました。
這いつくばるようにしてでもなんとか生きていれば、ちゃんと自分の願った方向に繋がっていくものなのだ。

しみじみ思う片道2時間の帰り道でした。

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