83「詩」フラワームーン
あの日ひとかけらの勇気をもっていたら
この時間に違った自分が違う場所に
立っていたかもしれない
あの日ひとかけら素直さをもっていたら
この時間に見知らぬ誰かに
手紙を書いていたかもしれない
あの日ひとかけらの強さをもっていたら
今苦しんでいることと違った場所で
新しいことを始めていたかもしれない
あの時失くしたひとかけらが一輪の花になる
花は夜空を見上げる
違った場所にいたかもしれない自分が
空から花を見つめているのが分かる
失くしたひとかけらが
集まって花畑になっているのを
もうひとりの自分が見つめている
戻ることのできない時間のかけらが
遠くでモノクロの写真のように
にぶい色合いの灯火になる
戻ることの出来ない時間の中で
灯火は消えることがない
フラワームーン
灯火の周りに
五月の満月が
一つとして同じでない花たちが咲いているのを
鮮やかに照らしている
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