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200「詩」冬華 白暮

過去にあった詩誌「詩芸術」に掲載された作品です。

(冬華)     —東山魁夷の絵のための2作—

じさまのじさまがうえた木
のうえで もつれたしじま
とかれてゆくとかれてゆく
もつれたこずえ もつれた
かなしいきおくとが
からんで

とかれてゆくとかれてゆく
じさまこじさまは とうに
しんだ じさまのじさまの
しわがもつれて

一本の木に
白い花の咲く頃
薄絹の奥に
昼日が
うろこのような光を放っていた

(白暮)

ひとすじ
細くも細い線が
地の奥深く奥深く空の彼方に貫かれた日

君は
うすももいろの笑みを
湖水に塗ろうとしていた

凝縮した青いナイフの中で
確かに失われたもの
いたわるように傷を きらりとしたたり

はるかな時を照らし続けた光の束が
葉脈を潤すと
遠くばかり見つめたまなざしを
分厚いまぶたの底にひそめ
たそがれを否んだ森のように

朝まだき満ちてくる祈りのように
君は
なえた指をかたく組んで
しなやかな氷の渦を
くぐりぬけてゆく
ひとすじ

ぬすびと
ぬすびと


学生時代、当時あった商業詩誌「誌芸術」に発表した作品です。たまたま部屋の片付けをしていてこの原稿を見つけました。

学生時代実家からもらってきたどこかの銀行のカレンダーに東山魁夷の絵が印刷されていました。白馬のいる青い絵で見ていると心が洗われるようでした。それが東山魁夷の絵との出会いです。

アルバイトをしてお金を貯め、当時私にしては高価な東山魁夷の画集を買いました。嫌な事があってもこの画集を見ていると些細なことに思え不思議に元気を取り戻すことができました。
画集を眺めて眠りにつくのが日課でした。

中学の頃からこっそりと詩のようなものを書いていましたが大学時代に初めて詩を書く仲間たちと出会うことができました。その頃から詩誌に投稿するようになりました。
この2作品を古い木造アパートの一室で寒さの中で書いたのを覚えています。原稿を書く時には万年筆✒️を使う、当時の私のルールでした。

2作とも「詩芸術」に掲載されていますが、いったいいつだったか記憶にありません。卒業してから何度も引越しをしたので、大切に残しておいたはずの雑誌が今どこにあるのか分からなくなってしまいました。

原稿を見つけた時は、うれしくてたまりませんでした。

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