街はDing-Dong 遠ざかってゆくわ・・・
突然始まった歌番組で、「ルージュの伝言」を若きユーミンが歌っている。記憶を頼りに小声で歌いはじめるも、サビの最後のメロディーを忘れていて歌えない。難聴者の嘆きとこれから。
視たいと思っていた番組が始まる直前にテレビのスイッチを入れると、その番組が丁度終わったところだった。相変わらずのおバカさん。
まだ気持ちが追いつかず、チャンネルをそのままにしていたら、昭和を振り返る歌番組が始まった。
トップバッターは、ユーミン。松任谷由実ではなく、新井由実。
懐かしいではないか・・・。
画面に流れる字幕を追いながら思わず口ずさみはじめる。
ユーミンは、いかにも昭和後半の若者という出立ちのダンサー達と一緒に踊りながら歌っている。
歌って踊るユーミン、若さがにじみ出ている。
同じメロディーが繰り返される。
ユーミンは、相変わらず楽しそうに踊りながら歌っている。
裏声も混じるサビに入る。
気持ちも盛り上がってくる。
しかし、前半までは歌えたけど、後半が思い出せない、歌えない。
一瞬、自分を疑う。
思い出そうとする間も無く、2番がはじまる。
さっきの気がかりは取り置いたまま、再び歌いはじめる。
でも、その声は聞こえない。
再びサビが始まる。
1番と同じ歌詞の繰り返し。
やはり、後半のメロディーを思い出せない、歌えない。
だからどうだと考える間もなくエンディングとなる。
念押しのような繰り返し。
ここは、しっかりと覚えている。
ステージは、ユーミンと2人の男性ダンサーだけとなり、中央の檀上で、両手を水平にぴんと伸ばしたユーミンは、両脇に立つ男達に腕を持ち上げられ、宙に浮き最後を飾った。
若々しく元気いっぱいのユーミン。
あの頃はまだ何もかも普通だった。普通を普通と思わない普通の日々を普通に過ごしていた。
普通に聞こえて、
普通に楽曲を聴いて、
普通にメロディーを覚えて、
普通に口ずさんで、
普通にその声も聞こえていた。
思い出せないサビの1番最後のメロディーを思い出そうとするが、どうしても思い出せない。
記憶も遠ざかってしまったようだ。
去年の夏までは、過去に聴いたことがある歌なら、意識を集中すれば、耳に入ってくるメロディーを追いかけることができたし、歌詞を覚えていれば、字幕に頼らず一緒に歌うことができた。大声を出さない限り自分の声は聞こえないけど。
でも、聴いたことがない歌は、メロディーを追いかけることがもうできなくなっていた。
待合室で、「みんなのうた」から上白石萌音の歌が流れていても、字幕と画面のイメージでしか、その歌を知ることができなくなっていた。
ふと気がつくとそうなっていた。
『「音」はDing-Dong 遠ざかってゆくわ♪』
まだ読めるし、書けるし、呼吸できるし、食べることもできるし、ウンチもできる。
これから先、遠ざかっていくことが、遠ざかっていくものが、増えるかもしれない。それ故、今日という日を大切にしていきたい、気持ちのよい朝を迎えられるようにしたいと思う
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