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Last present

「ぐぉーっ!ぐぉーっ!」

何だよ?うるせえな。
静かにしてくれよ。俺昨夜もバイトで。まだ寝たばかりなんだよ。

「がーっ!ぐぉーっ!」

だから!うるせえって言ってんだろうが!……って何だ?
ここは俺の部屋だよな?
そして俺はもう何年も一人暮らしだ。
勢いでお持ち帰り出来る程の度胸も機会も無い。
でもこれって人間のいびきだよな?
どうして一人暮らしの俺の部屋の中に俺以外の人間のいびきが聞こえる?

軽い恐怖を感じ俺は薄明るい部屋で目を凝らす。
俺のベッドの傍らの床で下着姿の見知らぬおっさんが大の字になって熟睡していた。

「な、な、なんだこいつ!おいっ!おいっ!おっさん!起きろよ!」

俺は床に転がっているおっさんを少し乱暴に揺すってみた。
だらしなくたるんだ体型のおっさんは相変わらず大いびきをかきながらビクともしない。

俺は記憶を整理する。
昨夜は居酒屋でバイトして、賄い食ってからフラフラで帰宅した。
途中何処にも寄り道してないし誰とも会ってない。
誰かが訪ねて来てもいない。
俺が帰宅したのは深夜二時だ。
誰も来るはずがない。

鍵は死んだばあちゃんの言い付けでいつもどんなに疲れてても必ず三回は確認する。
それでなくても都会は物騒なんだ。
鍵掛けないで眠れはしない。
戸締りを確認すると施錠してある。

だったらこのおっさんどうやって俺の部屋に入って来た?


疑問符いっぱいの頭でもう一度おっさんに目をやる。
おっさんの周りには脱ぎ捨てられた服。
真っ赤?
よく見直すとサンタクロースの衣装じゃないか。
じゃあこのおっさんクリスマス商戦に乗っかった即席サンタかよ?
仕事帰りに一杯やって自分の部屋を間違えたのか?

分からない事が多過ぎる。
何気に脱ぎ捨てられた衣装を拾い上げるとチャリーンと床に金属音がした。

俺の部屋の合鍵だ!

鍵を無くした時の為に雨避けの裏に隠してあった、俺と死んだばあちゃんと先週別れたカノジョしか存在を知らない合鍵だ。

何故このおっさんがそれを知ってる?
カノジョが教えた?
そんな常識の無い事をする奴じゃなかった。

待て待て待て待て。

分からない。
この営業サンタのおっさんは誰で、何故俺の部屋の床で熟睡している?

落ち着け、俺。

これは不法侵入だ。
このおっさんは不審者だ。
そうだ、警察だ。警官に来てもらおう。

そして思い出す。

カノジョと別れた日に八つ当たりで壁に投げたスマホが今修理中である事を。
外に出て通報するしかない。
玄関に出て靴を履こうとした時に背後でおっさんが動く気配を感じた。

続く

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