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Last present②

俺は恐る恐る振り返る。
それと殆ど同時におっさんが叫ぶ。

「うわぁっ!やべー!やっちまったよ!やべー!」

何が「やべー!」だよ!
この状況の方がよっぽどやべー!よ。
俺は意を決しておっさんに話し掛ける。
「ちょっとあんた!他人の部屋に勝手に上がり込んでどういうつもりだよ!」
おっさんはキョトンとしたがすぐに唇の端を少し歪めてニヤリと笑った。
「わりーわりー。俺もさあ疲れてた訳よ。それに夜中に起こすのも悪いかなーって。俺の配慮じゃん。は、い、りょ。」
「説明になってないし!そもそもどうやって入った?」
「合鍵使ってだよ。」
「なんで合鍵の置き場所知ってるんだよ!」
「えー?そこから説明しないとダメ?」

なんなんだ?こいつ全然悪びれてない。
そこまで悪党にも見えないし。
だからって見ず知らずのおっさんに寝てる間に勝手に部屋に入られたのを許す理由にはならないが。

俺の事などお構い無しにおっさんはゴソゴソと落ちてる服を拾い集めて着始める。
出来上がった姿はやっぱり街中でプラカード持って立ってるのが似合いそうな安っぽいサンタクロースだ。
「兎に角、あんたの行為は不法侵入だからな。警察に来てもらう。」
「ふうん。その不法侵入する怪しい奴を部屋に残しといていいなら警察でも何でも呼んで来いよ。」
「だ、誰が。今この場で呼んでやる。」
「ほう。スマホ…解約…は不便だからしねーか。じゃ故障中だろ。」
「なんでそんな…。」
なんでそんな事を知ってる?と言いそうになって言葉を飲む。
なんだこいつ?なんだこいつ!気味が悪い。

「そんなに不思議か?お前にずっと連絡してるのに応答が無いって聞いたからさ。」
「聞いたって誰に?」
「誰とか言う程交友関係広くないだろ、お前。」

もう訳が分からない。
誰なんだ?このおっさん。
俺が誰か知ってて此処に来たのは間違いない。
でも俺はこんなおっさん知らない。

「あーあ!やべーな!ちょっと休憩するだけのつもりが疲れて眠り込んじまったよ。おいユタカ、今何時だ?」
ユタカ?今ユタカって呼んだよな?
俺の名前知ってる。

「おっさん!誰だよ、あんた?」
「誰だよ?じゃねーよ。今何時だよ?俺が先に聞いてるの。」
「もうすぐ朝の八時だよ…。」
「すっかり朝じゃん。ま、来たのが四時過ぎてたしな。」
「それが何だよ?今度は俺の質問に答えろ。あんた誰だよ!何しに来た?どうして俺を知ってる?」
「俺は親切なサンタさんでーす。」
「ふざけんなよ!」
「至って真面目だよ。何しにってーと、お前に会いに来た。お前の事はずっと前から知ってるよ。会うのは二度目だけどな。」
「二度目?」
「そうだよ。」
「一度目はいつ?」
「そっか。覚えてないのか。」

おっさんはまた唇の端を歪めて笑う。
少なくとも危害は加えられそうにないから少し気が抜ける。

「お前大学は?」
「とっくに辞めたよ。」
「で、バイト生活かよ?」
「そんなのあんたに関係無いだろ!」

おっさんは今度は少し溜息をついてから俺を見る。
「ああ、俺には関係無いよ。俺にはね。」
「『俺には』ってどういう意味だよ?」
おっさんは腰を落ち着けて座り直す。
散らかった男の一人暮らしの部屋に胡座をかくサンタクロース。
シュール過ぎる景色だ。

「お前、今のままでいいと思ってるのか?」
おっさんがそう言った時に聞き慣れない着信音が鳴る。
おっさんはポケットかスマホを取り出し応答する。

「ああ、此処に居る。待てって。俺に任せろ。待てってば。ああ、じゃあな。」

手短に電話を切りおっさんは俺を睨み付けた。


続く

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