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土を焼く技⑪ 主力事業の転換(一般消費財から生産財へ)

戦後、急速な復活をとげ、昭和40年代に最盛期を迎えた愛知の窯業だったが、同48年になると状況が一変する。変動相場制が導入されると円高が進展、安価な東アジア製品が台頭するようになり、愛知の陶磁器製品の価格競争力は急速に低下していった。

一方でこの間、新たな展開もおこった。白磁製ディナーセットや高圧碍子などの開発を通じて高められた磁器焼成ノウハウを使った、ファインセラミックスの実用化である。

まずは光学的、電気的、磁気的特性に優れたエレクトロセラミックス(機能性セラミックス)が実用化された。昭和40年代頃から、日本碍子(現日本ガイシ)や日本特殊陶業、丸和セラミック(現MARUWA。尾張旭市)などをはじめとする県下のさまざまな陶磁器メーカーによって、機械製品(自動車、工作機械、電子機器、情報通信機器、医療機器など)向けの部品(半導体パッケージ、センサー、ヒーター、蓄電池など)がつくられるようになった。これ以降、愛知の窯業界では主力事業の転換(一般消費財から生産財へ)が急速に進んでいく。

エレクトロセラミックス(機能性セラミックス)部品の事例 (瀬戸蔵ミュージアム)

続く昭和50年代には、機械的、熱的、科学的特性に優れたエンジニアリングセラミックス(構造用セラミックス)の研究が進んだ。その成果は、排ガス浄化フィルター(日本碍子ほか)、ベアリング用ボール(日本特殊陶業ほか)、機械工具(ノリタケカンパニーリミテドや日本特殊陶業など)、医療用ポンプ部品(日本特殊陶業ほか)などに展開されている。

さらに平成時代になると、バイオセラミックス(構造用かつ機能性セラミックス)が実用化され、医療を中心としたバイオテクノロジー分野への参入を果たす。セラミックスと生体組織との親和性の高さを活かして、人工骨(日本特殊陶業。令和4年に生産中止)、人工歯(蒲郡市の山八歯材工業。同社は瀬戸の技を活かして、昭和33年にはレジン製人工歯をすでに実用化)の開発が進んだ。

ここまで千数百年におよぶ愛知の窯業(土を焼く技)のあゆみをたどってきたが、日用陶磁器に代表される工芸品の印象が強く、ともすると伝統産業とみられがちである。しかし実際には、ファインセラミックスが実用化され、一般消費財(日用陶磁器)から生産財(機械製品の機能部品)へと主要市場(主要アイテム)の転換が進むなど、時代の流れに従って着実に進化をとげている。こうした姿を今一度認識すべきであろう。

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