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花食症(0:0:2)

タイトル:花食症(かしょくしょう)
ジャンル:SF、ディストピア
上演目安時間:30〜40分
登場人物:2人(性別不問)

画家………性別不問

執行人……性別不問




執行人:(M)美の価値、基準が変わった未来。
執行人:人間は、自然の中に『美』を見出すことができなくなった。

執行人:唯一人間が美しいと思えるものは、人の手で作られる『美術品』。
執行人:作品は高値で売買され、様々な国の一大資産となっていく。

執行人:いつから、この世界はおかしくなってしまったのか。
執行人:誰も正体を知らないまま、緩やかに世界は変容していった。

執行人:これはそんな世界で起きた、ある罪人の物語。

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画家:(M)私は、生きていることが恥ずかしい。
画家:いつからか私は、自分の作品に美を、価値を、見出す事が出来なくなってしまった。
画家:どんな称賛の言葉も虚しく、意味を持たない。
画家:…今、私の胸を震わせるものは、ただ一つ。

画家:あなたは、その花の美しさを知っていますか?

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0:白い壁の部屋の中、画家が目を覚ます。
画家:「…ー」
執行人:「目が覚めましたか?」
画家:「…ここは…?」
執行人:「あまり体を動かさない方がいいですよ」
画家:「あなたは…」
0:ベッドに寝ている画家に機械的に笑いかける。
執行人:「初めまして」
執行人:「ここがどこだか分かりますか?」
画家:「いや…」
0:状況が飲み込めず首を振る画家
執行人:「混乱しているようですね」
執行人:「手短に説明しましょう」
画家:「…」
執行人:「私は、統一美術保護団(とういつ・びじゅつ・ほごだん)より派遣された執行人。本件の責任者、兼、貴方の移送を務めさせて頂きます」
画家:「統一、美術保護団…」
執行人:「世界中の美術品の保護、そして管理をしている団体です。貴方もご存知でしょう」
画家:「…」
執行人:「何故なら貴方はかつて、Aクラス級のアーティストとして、団体に保護されていた『画家』ですから」
画家:「…私を、知っているのか」
執行人:「はい」
0:あたりを見渡す画家
画家:「ここは、病院か…?」
執行人:「ええ、我々が管理する病院です」
画家:「どうして私はここに… ッ、」
執行人:「どうしました?」
画家:「急に、目が痛く…、」
執行人:「…」
画家:「それに、頭痛も酷くなる一方だ」
執行人:「初期症状が始まったようですね」
画家:「初期、症状?」
執行人:「急ぎましょう」
画家:「…、」
執行人:「あなたは囚人C-864番」
執行人:「美術品の窃盗ならび損壊の罪により、当局で処分が決定されました」
画家:「美術品の窃盗に、損壊?」
画家:「私はそんな事をした覚えはない」
画家:「それに処分って…」
執行人:「今回は特殊かつ重要な事例につき、処理は極秘で行われました」
画家:「何だそれ、訳がわからない」
画家:「ちゃんと順を追って説明してくれ。頭がおかしくなりそうだ、」
執行人:「時間がありません」
執行人:「後は移動しながら説明しましょう」
画家:「そういえばさっき移送っていってたな…」
画家:「私をどこに連れて行く気だ」
執行人:「行けば分かりますよ」
画家:「そんな説明で納得できるか…!」
執行人:「貴方が理解しなくても問題はありません」
画家:「何だと、…ッ痛、」
0:頭痛と共に記憶のワンシーンを思い出す。
画家:「…これは、…一体」
執行人:「思い出しましたか?」
画家:「…、」
執行人:「あまり強引な手段は取りたくありません」
執行人:「もう一度お聞きします」
執行人:「自主的に、移動して頂けますか?」
画家:「そうすれば説明して貰えるんだな…?」
執行人:「はい」
画家:「…わかった」
執行人:「では、移送を開始します」

0:画家を車椅子で移動し、車に乗せて走り出す。

画家:「移送という割に、他に誰もこないんだな」
執行人:「貴方は動けないでしょうし、今回の件は、極秘で進められていますから、目立つのは得策ではありません」
画家:「…こんな軽ワゴン車一台で移送、か…」
0:窓越しに流れる景色を複雑な表情で眺める画家
画家:「教えてくれ、私は何を盗んだというんだ」
執行人:「記憶が戻ったのでは?」
画家:「断片的に、見えただけだ」
執行人:「…貴方が盗んだのは花、ですよ」
画家:「花?」
画家:「花が美術品だなんて、聞いた事がないぞ」
執行人:「SSクラスの絶滅希少種の花」
執行人:「この世界で、とても大切なものです」
画家:「ー…どうして私は、花を」
執行人:「貴方は画家時代に精神を病み、ある時から異食症(いしょくしょう)を患っていました」
画家:「異食症…?」
執行人:「人体に影響があると知りながら、汚染された植物や動物を食べずにいられない、依存症の一種です」
執行人:「貴方はその中でもとりわけ、花に固執していた」
画家:「…私は、花を盗み、食べた」
執行人:「はい」
0:記憶を思い起こす画家
0:以降の会話は噛み合わなくても良い
執行人:「その花がおかれていたのは、団体の運営する植物園でした」
画家:「無我夢中で、私はそれを両腕に抱いて走った…」
執行人:「細かい罪状を上げるなら、立入禁止区域の侵入、それに器物損壊罪も適応されますね」
画家:「私にはどうしても、その花が必要に思えて―」

0:ふと画家は窓の向こうに見える景色に目を止める

画家:「―あれは、何だ…?」
執行人:「あれですか?」
執行人:「海ですね」
画家:「海……。なんて、きれいなんだろう」
執行人:「……あれが、ですか?」
画家:「ああ…」
執行人:「私には海洋生物の死骸と、ゴミの掃きだめにしかみえませんが、あんな不純物だらけの水たまりが綺麗、ですか」
画家:「ああ…美しい」
執行人:「…」
画家:「海面は夕日を反射し、波は気ままに色を変える」
画家:「魚の死骸やプラスチックのゴミも、大海というキャンバスを漂う小舟のようだ」
執行人:「理解できませんね」
画家:「…そうだろうな」
画家:「私もずっとそうだった」
画家:「…でも今は、分かるんだ」
執行人:「…分かる、ですか」
画家:「ああ」
執行人:「貴方はかつて、名だたる画家達と額(がく)を並べる芸術家でした」
執行人:「著名人の肖像画で一躍名を上げ、その後も斬新な画風で常に世間を魅了していた」
執行人:「しかし突然筆をおり、業界からも姿を消し、それ以降行方不明だった」
画家:「…」
執行人:「久しぶりに貴方の名前をみたのは、この事件でした」
執行人:「…なぜ、あんなことを?」
執行人:「アーティストは国の、いや、世界の宝だというのに」
画家:「…世界の宝、か。何故だろうな」
画家:「ある日、夢から覚める様に気づいたんだ」
画家:「みんなが美しいと呼ぶ物を、私は美しいと思えなくなってしまったことに」
執行人:「…」
画家:「額に入れられた花を絶賛する人たちは、野に咲く花を踏みつけていく」
執行人:「風景や花のモチーフは、人気があるジャンルとは言えませんが、それでも貴方の絵には、価値がついていた筈です」
画家:「ああ、そうだな。作品はいつも高ランクがついて、今でも多くが美術館に飾られている。…それでも―」
執行人:「人の手で作品に昇華されたモチーフと、どこにでも生えている物では、価値が違うでしょう」

0:画家、苦々し気に眉を寄せる。

画家:「そう、だろうな」
画家:「…でも私は、その花に何か特別なものを感じたから、描きたいと思ったんだ」
執行人:「……」
画家:「私が本当に見て欲しかったのは、作品ではなく、荒涼(こうりょう)とした大地に根を張る花の逞しさだった」
画家:「でもみんな、足元の花には見向きもしない」
執行人:「…画家っていうのは、そういう事を考えているわけですか?理解できませんね」
執行人:「自分の作品が称賛され、世界中の人に愛されるのですよ?それで充分じゃないですか」
画家:「……」
執行人:「作品はそのアーティストにしか作れない、唯一無二のものです」
執行人:「でも花なんて、勝手に生えて勝手に枯れていく。愛でられるために産まれた訳でもない」
画家:「…確かに、そうかもしれないが」
画家:「だからといって、簡単に踏みつけていいものではないだろう」
執行人:「関心を持つ必要がありますか?」
執行人:「人間の心を満たせるのは、人間だけ」
執行人:「その方が明確じゃないですか」
画家:「…私達は、そんな単純な生き物だろうか」
執行人:「どういう意味ですか」
画家:「確かに花は愛でられるために産まれたわけでもない、自然は美しいと言われる為にある訳ではないだろう」
画家:「でも私達はあまりに世界に無関心だ、」
画家:「そこにある植物も動物もかまわず、枯れた山を潰し、海を埋めて、美術館を建てる」
画家:「自ら資源を減らしていることに気づきもしない」
執行人:「…動物食は汚染物質を含む可能性がある為、現在ではキューブ食が推奨されています」
画家:「そんなものを食べて生きることに、何の喜びがあるというんだ」
執行人:「食の喜び、ですか」
執行人:「効率的で健全な栄養摂取と、リスクを兼ねた嗜好品を比べる事はできません」
画家:「…キューブで栄養はとれても、人の心は偏ったままだ」
執行人:「…」
画家:「大昔の芸術家は、自然や天体の中に神を見出し、それを賛美する為に作品を作ったと言う」
画家:「芸術とはきっと、そうして産まれたんだ」
執行人:「確かに古い美術品の中には、自然を神として崇めるような作品もあったようですが、その多くは戦争の最中に失われ、現存していても、殆ど価値がないものばかりです」
執行人:「歴史的に希少度が高いので保護されていますが、誰も好んで見ようとはしません」
画家:「それこそ自然を顧みていない証拠だ…!」
執行人:「『美』の価値は、流動的なものですよ」
執行人:「どれだけ美しいと感じる人がいるかで、価値も金も変わる」
執行人:「それは画家である貴方が、一番よく分かっているのではないですか?」
画家:「……ああ、そうだ。よく分かってる。でも」
画家:「あの花に特別なものを感じたんだ」
画家:「私があの花をかけば、今度こそきっと」
執行人:「ーだから貴方はあの花を盗んだのですね」
画家:「なに?」
執行人:「あなたが盗んだ花は、表向きには絶滅希少種とされています」
執行人:「でも実際には、団体で秘密裏に研究中だった遺伝子操作技術により作られた花でした」
画家:「遺伝子操作…?」
執行人:「ええ」
画家:「…統一美術保護団は、作品とアーティストを保護する団体じゃないのか」
執行人:「仰る通りです」
画家:「その団体が何故、花を…」
執行人:「……」
執行人:「かつてこの世界で…大きな戦争があった事は、貴方もご存知でしょう」
画家:「…?ああ。十年以上続く大戦争だったとか」
執行人:「その戦争のきっかけは、ある国で起きた美術品の窃盗事件でした」
画家:「美術品の、窃盗事件…?」
執行人:「その戦争が始まるまでは、美術品を含む芸術品は個人で所有でき、自由に売買されていました」
画家:「…信じられないな」
執行人:「今ではありえませんね」
執行人:「やがて美術品の価値は爆発的に高騰し、一部の作品は国家予算を揺るがす程になりました」
画家:「……」
執行人:「そんな中で、ある国の美術品が盗まれた」
執行人:「犯人は見つからず、被害にあった国は、国家ぐるみの陰謀だと他国を非難、奪還を名目に侵略を始めました」
画家:「そして、戦争が始まった…」
執行人:「ええ。戦火は燃え上がり、やがて世界中を巻き込む大戦へと発展した。…その戦争で多くの作品、尊い芸術家の命が失われました」
画家:「…」
執行人:「やがてその状況を危惧する人々が現れ、我々、統一美術保護団が産まれたというわけです」
画家:「…あの戦争の理由が、一つの美術品の盗難から始まっていたなんて、にわかには信じ難いが」
画家:「何故、世界中の作品がたった一つの団体に管理されているのか、そう考えれば腑に落ちる」
執行人:「人は美しいものを独占しようとする。だからこそ保護し、誰でも平等に楽しめるようにするしかありませんでした」
画家:「誰でも、平等に…」
執行人:「各国で管理委託協定を取り付けると、戦争は終結しました。そして人間は再び、安心して美術品を楽しめるようになった」
画家:「…」
執行人:「しかし戦争が奪ったものは、他にもありました」
画家:「…長い戦争で、世界は荒れていた…」
執行人:「ええ。山は枯れ、大地は汚染されて、海には油が浮き…そして人間は、花と雑草の区別すらつかないほど、自然から関心を失っていました」
画家:「奪い合うことに夢中で、大切なものが失われている事に気づかなかった…」
執行人:「そういうことです」
画家:「……」
執行人:「ですが生態系のバランスを保つためにも、自然はなくてはならない存在です」
執行人:「そこで我々はこう考えました」
執行人:「人の心を満たせるのが人だけならば」
執行人:「『自然を我々の手で作ればいい』」
画家:「…ッ」
画家:「そんな…!それは間違っている…!」
執行人:「そうでしょうか?」
執行人:「貴方の願望とも合致すると思いますが」
画家:「違う、…違う!私が言いたいのはそういう事じゃない」
執行人:「人工的に作られた花を見て、貴方は独占したいと思い盗んだのでしょう?あの研究は、想像以上の成果をあげていたようですね」
画家:「本当にあれを作ったというのか…?」
執行人:「ええ。我々が1から組み上げたものです」
執行人:「他の花と比べても遜色なかったと思いますが、あえて貴方はあの花を選んだ…」
画家:「ーそれは、あの時、私はあの花を見て…」
執行人:「『美しい』と思った?」
画家:「ッ」
執行人:「良かったではないですか」
画家:「どこかだ…!」
執行人:「美しいと思う感情を取り戻したかったのでしょう」
画家:「…っ」
執行人:「昔の人間が自然を畏れたのは、人間にコントロールできない力だったからです」
執行人:「今ならば我々が自然を管理できる」
画家:「そんなのは思い上がりだ!」
執行人:「人は傲慢の上に成り立つ生き物ですよ」
画家:「きっといつか罰があたるぞ…!」
執行人:「『ばち』ですか、それこそ時代錯誤ですね。自分達が生き延びる事を第一に考えるのは、種として自然なことです」
執行人:「破滅すると分かっていながら、汚染された花を食べずにいられない貴方の方が理解し難い」
画家:「人間に都合よく問題を解釈をする事で、事態から目を逸らしたいだけだろう」
画家:「過ちを振り返らなければ、これからも愚行を重ねるだけだ!」
執行人:「…愚行、ですか。そうかもしれませんね」
執行人:「でももう、遅いんですよ」
画家:「貴方は見た事がないのか?」
画家:「昔の絵画に描かれたコバルトブルーの海や、濃緑(のうりょく)に茂る森を」
執行人:「…今では見る影もない物ばかりですね」
画家:「そうだ…!こんな風に世界を壊しておきながら『美を生み出せるのは人間だけだ』と驕り、荒廃した大地に神のようにふんぞりかえっているなんて、恥ずかしいと思わないのか…!」
執行人:「…」
画家:「自然を管理出来るなんて思い上がりだ」
画家:「本当にそんな事が出来るなら、世界はどうしてこんな事になっているんだ」
執行人:「…好きの反対は、何だと思います?」
画家:「は…?急になんだ」
執行人:「嫌い、ならまだいいんですよ」
執行人:「本当に怖いのは無関心です」
執行人:「つまりこうなるまで、我々もそこに関心を持つ事が出来なかった」
画家:「なら事実を公表して、現実を見るべきだ」
執行人:「そんな事すれば、世界規模のパニックになりますよ」
執行人:「それに、もうそんな猶予もありません」
画家:「何…?」
執行人:「世界に残された時間はもう長くありません」
画家:「…まさか」
執行人:「我々には、悔やんでいる時間も余裕もないんです。…前に進むしかない」
画家:「それは、―ぐ、、」
0:急な激痛に襲われうめく画家
画家:「…ぁあ、くそ、痛い、」
執行人:「発芽が始まりましたか。急ぎましょう」
画家:「ー、発芽…?」

0:無言で車を走らせる執行人

画家:「まさか…!」
執行人:「…」
画家:「答えてくれ、あの花は、ぐ、」
執行人:「…」
画家:「痛い、、体の内側から割かれるようだ、」
執行人:「……」
画家:「私にはまだ、描きたいものが…!」

0:痛みに意識を失う画家

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0:過去の回想
画家:(M)意識を失っている最中、夢を見た。
画家:色とりどりの花の前に、私が立ち尽くしている。
画家:赤、青、白、黄色…。
画家:ああ、どんな絵具でも、この繊細な色を完全には再現できないだろう。

画家:本当に美しいのは、この花の筈だ。
画家:知りたい、この花をもっと。
画家:欲しい。私だけのものにしたい。
画家:許されるはずだ。
画家:こんなに、魅了されているのだから…。

画家:『じゃくり。』
画家:気づいたら私は、花を頬張っていた。
画家:花びらが潰れ、溢れる味に驚いた。
画家:赤の舌先を刺す辛さ、青は塩のようにしょっぱく、白の何と芳しい甘さだろうか…。
画家:『じゃく、じゃく、じゃく』
画家:夢中で花を咀嚼し、飲み込んでいく。
画家:ガクの歯切れの良さ、茎の新鮮な青み、花弁のすり潰れる淡さ。

画家:あぁ…なんて…。
画家:なんて美しいのだろう。

画家:そうか、思い出した。
画家:『美』とは五感をつかい、味わうものだ。
画家:私は表現したい、この体をすべて使って。
画家:溢れる衝動を、欲望を、観客へ届け、愛されたい。
画家:嗚呼。私はやっとー

0:場面転換の長い間。
 
執行人:「目が、覚めましたか」
画家:「-ここ、は…」
執行人:「あなたの処刑場です」
0:辺りを見る画家
画家:「……植、物園…?」
執行人:「はい」
画家:「…。」
執行人:「あなたが盗み、食べるという独占行為を行った花は、遺伝子操作により産み出された、特別な花でした。」
執行人:「荒れた大地でも根を張れるように繁殖力が強く、わずかな水と根をはる場所さえあれば、どこでも成長することが出来る」
執行人:「…例えば、人の体の中でも」
画家:「あの花が私の、中で…」
執行人:「ええ」
執行人:「貴方の罰は、これから繁殖する花の苗床として、ここで人々に『美』を提供する事です」
執行人:「あなた自身が、花という作品になって」
画家:「ー…!」

画家:「…… ああ、そうか」
画家:「なるほど」
画家:「…そうか、 …ははっ」
画家:「ああ、やっと分かったよ」
画家:「私が本当に描きたかったものを、」
執行人:「…」
画家:「貴方には、感謝をしなければいけないな」
執行人:「…感謝される覚えはありません」
執行人:「これが、私の仕事ですから」
画家:「…ああそうか。なら貴方達に、感謝しよう」
画家:「私は、確信しているんだ」
画家:「この作品は必ず、最高傑作となる」
執行人:「…ええ。私もそう思います」
0:固定された画家を見て目を細める執行人。
執行人:「最後に、タイトルをつけて頂けませんか」
画家:「…タイトルか。…そうだな」
画家:「花に魅了され…花に食べられる事に取り憑かれた者の末路には、きっとこの名前が相応しい」
執行人:「教えてください、その名前を」
画家:「この作品のタイトルは『花食症(かしょくしょう)』だ」
執行人:「……素晴らしい」
執行人:「きっと誰もがあなたを見て、称賛の声をあげるでしょう」
画家:「ああ…それなら私は満足だ」
画家:「持てる力を尽くして、人の目を楽しませること」
画家:「それが……私の人生だ」

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執行人:(M)美の価値、基準が変わった世界。
執行人:人間は、自然の中に『美』を見出すことができなくなった。
執行人:唯一人間が美しいと思えるものは、人の手で作られる『美術品』。

執行人:世界初の生体アートは、大成功だった。
執行人:人々は連日植物園に訪れ、日ごとに変化してく作品に魅了された。
執行人:画家に咲く花の美しさに、涙を流す人もいた。
執行人:くしくも人と植物が融合する事で、人間は再び、自然の持つ美しさに気づく事が出来たのだ。
執行人:画家は最後の瞬間まで幸せそうに微笑んで、人々の目を楽しませていた。

執行人:我々はその後、更に改良を加えた花や植物の苗を世界中へ分布した。
執行人:花は荒れた大地に根を張り、少しずつ自然を取り戻そうとしている。

執行人:いつからこの世界はおかしくなってしまったのか。
執行人:誰も正体を知らないまま、緩やかに世界は変容していった。

執行人:これはそんな世界で起きた、ある罪人の物語。

0:終幕


お疲れ様です。
ここまで読んで頂きありがとうございます。

昔から構想がありずっと描きたかった話でした。
中々かかないジャンルで1番悩みながら書きました。
むずかしーー…!

※世界観の質問や誤字の報告はコメントかDMまでお願いします。

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