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超短編小説

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短い短い、それは短い物語。 より濃い内容を補完するのは、あなたにお任せします。
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#超短編

超短編小説「会話」

調子が良くない。 いつもと違う身体に違和感を覚える。 風邪というわけでもないだろう。 頭では、まだまだ、いける、大丈夫だと言い聞かせている。 そんなときは自分の身体に聞いてみる。 会話をするのだ。 「どこがどう調子が悪いんだ?」 「昨日の自分とは、どう違うんだ?」 「動けるのか?」 「悪くなるのか?すぐに回復しそうか?」 これまでの経験と比較し、答えを探す。 「まだ、なんとかなるが、無理をすれば壊れる。」 「時間の問題だ。わかるだろ?」 「早く、手を

超短編小説「グラス」

朝起きて、彼女は私にキスをした。 「行ってきます」と言って、彼女は出かけた。 帰ってくると、いつも決まって、 「暑かったぁ」と言いながら、 私にキスをする。 ある日。 いつものように彼女が帰って来た。 見知らぬ誰かと一緒だ。 彼女は、「素敵」と言いながら、その彼にキスをした。 私は、食器棚の奥から、その様子をただ見ていた。 文:モノコト68 Twitter:https://twitter.com/monokoto68 Blog:https://monoko

超短編小説「イン・イン・イン」

「車のレースとかでさ、アウト・イン・アウトってあるだろ?」 唐突に話しだした彼を、ちらっと横目でみただけで、それ以上、何も言わなかった。 「知らない?コーナーを早く回るためにさ、アウトコースからインコースに切り込んで、アウトコースに流れていくやつ。アウト・イン・アウトだ。」 全く知らないし、全く興味のない話だった。 「でさ、やってみたわけよ。」 なにをやるのさ?と軽くココロの中でつぶやいた。 「地下街を歩いててさ、右に左に曲がらなきゃならないだろ?だからさ、アウト

超短編小説「涙」

去り際に言った。 「あなたはひとりでも生きていける」 そんなのは分かってる。 人はひとりでは生きていけないという。 だが、違う。 ココロはいつでもひとりなのだ。 去り際に言った。 「あなたは人に興味がないのよ」 そんなのは分かってる。 他人のことは分かるわけがない。 知る必要もないことだ。 去り際に言った。 「心から笑ったことある?」 そんなのも分かってる。 感情はどこかに置いてきた。 去り際に言った。 「さようなら」 ああ、さようなら。

超短編小説「秘密基地」

裏山を登った先が、ぼくらの秘密基地だ。 家から持ってきたダンボールや、木の枝を使って、 ぼくらだけの秘密基地の完成だ。 今にも崩れそうな屋根を気にしながら、 他愛も無い話をする。 裏山のさらに奥に進んでいけば、 勇敢な冒険家。 ぼくらは、そうして毎日を思い出に変えた。 秘密基地。 そして、ぼくらも思い出に変わった。

超短編小説「曇り男」

いつも、出かけると、曇りだ。 雨男よりは、ましだろうと自分を納得させていた。 今日も、もちろん曇りだ。 天気予報も、ほどなく曇り。 雨は降るなと願っている。 今日は、3回目のデート。 まだ彼女ではない。 「付き合ってください。」 「はい。」 そんな彼女は、晴れ女。 今から僕は、曇時々晴れ男だ。 ※「ごめんなさい」パターンもご用意しました。 「付き合ってください。」 「ごめんなさい。」 そんな彼女は、晴れ女。 僕の目から、雨が降ってきた。 今から

超短編小説「時間止」

「数秒間、時間を止める能力を得たんだ。」 「ほんとか?」 「あぁ、そうらしい。」 「そうらしいって、その能力、使ってないのか?」 「使ったよ。」 「じゃ、なんで、”そうらしい”なんだ?」 「数秒間、オレも時間が止まってるからな、気づかないんだ。」 文:モノコト68 Twitter:https://twitter.com/monokoto68 Blog:https://monokoto68.com/about/ Instagram:https://www.inst

超短編小説「未来」

あの日見た絵本の一頁のような景色が目の前に広がって、 涙した理由は他にあったんじゃないかって思う。 僕たちはいつの間にか、ここまでやってきた。 未来の扉を叩いては、崩れていって、 手に入れそうな時間を奪いにやってくる。 四番線のホームに立って、電車を待って、覗き込んだのは君だった。 さぁ、未来を掴みにいこう。 探し物はここにはないから。 さぁ、未来を奪いにいこう。 無くした物はここにはないから。 文:モノコト68 Twitter:https://twitt

超短編小説『前へ』

前へ進め。 だだ前へ進め。 動け。 大丈夫。 信じ抜け。 前へ。 振り向くな。 前へ。 前へ。 大丈夫だ。 不安は置いていけ。 前へ進むのは、誰のためでもない。 自分のため。 前へ。 誰にも言われないなら、言ってやる。 あなたなら大丈夫だ。 前へ。 誰かが優しく背中を押してくれる。 前へ。 進んだ先には、何が見える? 文:モノコト68 Twitter:https://twitter.com/monokoto68 Blog:https:/

超短編小説「片道だけのタイムマシン」

ルール①:戻ってこれません ルール②:自分の人生の過去にしか戻れません ルール③:人生で一度きりです ルール④:容姿・環境は過去のまま ルール⑤:記憶は現在のまま 「過去に戻るの?」 「戻るわけないだろ。今が幸せなんだから。」 「私も。戻らなくてもいい。」 「このままがいいよ。このままずっと。」 「わたしたち、運命的な出会いだったんだから、このままずっとね。」 「ああ。」 わたしが『片道だけのタイムマシン』を使い、 彼女に出会ったことを知らない。 運命的とはそ

超短編小説「えんぴつ」

吐き出せば、吐き出すほど、終焉に向かって ただ突き進むだけ。 あなたの描いたモノは、有益なものなのか? 私は身を削って、ただそこに存在している。 「終わりに近づいているんだ。 使われる度に、削られる度に、終わりを感じるんだ。」 えんぴつは言った。 「それはさ、人間も一緒さ。 使われることに、削られることに、 気が付かないフリをしているだけさ。」 と、消しゴムは言った。 文:モノコト68 Twitter:https://twitter.com/monokoto6

超短編小説「言語」

「カッツピードロピー」 暗号だよ、暗号。これはなにかの暗号だ。いいか、このカッツとピードロとピーに分けて考えるんだ。数字に置き換えられるだろ?えっと。。。 「コリンパシッパリツラリ」 これはきっと食べ物だな。南米だ。ほら、テレビでやってたろ?激辛特集の。なんだったかな、うん、聞いたことあるよ。間違いない。 「ニーサモシーカルーダ」 もういいよ、わかんないって。これが何かを意味するならきっと、どうでもいいことだよ。だってそうだろ、すぐに分かんなきゃ、緊急のとき困るだろ

超短編小説「希望」

風が吹いている。 空には雲が流れている。 「人は誰でもいろんな顔をもってるんだ。大したことないだろ。」 「でもさ、どれが本当の自分かわからなくなる。」 「どれも同じだろ。」 「そうじゃない、自分の本質を知りたいんだ。」 「本質はひとつじゃないんだ。今この瞬間にも変わっていく。変化するんだ。そう、見てみろよ、あの雲。あれと一緒だ。本質は変化する。」 「それじゃ、自分がないみたいだ。」 「自分ってなんだよ、自分で決めるものかよ。」 「決まってるんだ!人生は。」

超短編小説「メダカとキンギョ」

みてみて こっちがメダカ ほらほら こっちがキンギョ すいすい ちょろろ メダカがおよぐ ぷかぷか ふわり キンギョがおよぐ メダカはしろい キンギョはあかい いつも いつも みてる きみが ボクを みてる ボクが きみを みてる いつも いつも いっしょ メダカとキンギョ いつも いっしょ あしたも いっしょ 文:モノコト68 Twitter:https://twitter.com/monokoto