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うりずんの頃|沖縄

空港を出ると、もわんとした空気が身体をつつむ。
かすかに雨の匂い。

3月末で10年勤めた会社を辞めた。
次のことはまだ決められないまま、沖縄にやってきた。
時間に縛られない、あてのないひとり旅。

急にパラパラと雨が降ってきて、近くのお店に飛び込む。
「いらっしゃいませ」
ふわり、爽やかな香りが鼻をくすぐる。
「いい香りですね」
「サンニン、月桃のアロマオイルです。ちょうど花が咲き始めて」
母ぐらいの年の女性が、にっこり微笑んで、窓の外を指差した。
細長い緑の葉の間に、鈴なりの小さな花が見えた。

「どちらから?」
「東京からです」
「いい時にお越しになったわね。うりずんというの。古い沖縄の言葉で、潤い初めという意味。大地が潤い、緑が萌え、花が開く、一番いい季節よ」

催花雨。
少しくたびれた私の心に、じんわりと染み込む恵みの雨。
私もまた花を咲かせられるだろうか。


「催花雨」(さいかう)・・・春、花の咲くのを促すように降る雨。

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