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夫婦の形|三重・二見浦

「後ろから見ると、CMに出てくる仲のいい老夫婦みたいやね」
「そやな」
母が父の腕に手を回し、並んで歩いている。
私と夫は、こっそりそんな言葉を交わした。

両親が腕を組んで歩く姿など、これまで見たことがなかった。
いや、そういうこともあったのだろうが、子供の前では照れくさかったのかもしれない。

緑内障を患った父は、だんだんと目が見えづらくなり、車を手放した。
好きなゴルフもできなくなった。
旅行にも行かなくなった。

「お伊勢さんに行くけど、一緒にどう?」って誘ってみたけれど
「もう景色も見えへんから、ええわ」って。
昔、家族で行った二見浦。
父は首から下げたフィルムカメラで、夫婦岩をバックに母と妹と私の写真を撮っていたっけ。

今は、外出する時は母が付き添う。
母が父の腕を取る。
亭主関白で、何かと文句が多い父も、母に従うしかない。
睦び合う、というには不器用なふたり。
でもこれも一つの夫婦の形なのだろう。


「睦ぶ」(むつぶ)・・・仲良くする。むつまじくする。

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