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キリンジがわかる

 本当に好きなものほど軽率には語りたくない。私の表現能力が足りないからだ。
 アナログ情報をデジタル化するときの精度が完全でないように、フワフワとした気持ちを言語化するときに必ず抜け落ちてしまう何かがある。
 私が考えるに言語化とは思考の編集作業だ。しかも対象について自分が言えることだけ、あるいは言いたいことだけしか切り貼りできない。言語化の陰で自分さえ取りこぼしてしまっている気持ちというのもあると私は思う。
 だから、本当に思っていることを100%伝えることはコミュニケーションの原理上できない。そして、そのことが私は悔しい。自分が感じていることをそのまま伝えられたらどんなに楽だろう。

 この上であえて、私が一番好きなアーティストであるキリンジについて何か言えるとすれば、タイトルにある通り、「キリンジがわかる」だ。尊大な言い方をしてしまって申し訳ないが、これ以上入り込むと必ず取りこぼすので細かいことは言えない。結局伝わってないことになる気がする。だから「わかる」としか言えない。
 
 断っておくと、基本的に私は言語を介さないコミュニケーションが苦手だしどちらかと言えば嫌いだ。だがそれ以上に、何かを好意的に評価するときに言語を使うのが嫌いである。なお、嫌いなものを語るときは不思議なことにどんどん言葉が湧き出る。枯れることを知らない泉のようにこんこんと溢れ出る。 
 好きなものというのは自分にとって解決済みな問題だ。すでに自分の中で好きだとわかりきっているから細かいこと言わなくても別に構わない。だが、嫌いなものはそうはいかない。未解決事件として心にこびりつくし、とやく言いたくなってしまう。解決を試みているのである、おそらく。
 とりもなおさず、私は自分が嫌いなものはいくらでも語れてしまうのだが、好きなものの話となると口をつぐんでしまいがちな困った人種なのである。でもキリンジに関してはもはや生活の一部になっているから、せめての恩返し的に布教活動のようなことはしてみたい。この記事を書くモチベーションはそこにある。

 
 
 さて、君たちはキリンジをどれくらい知っているだろうか。CMで使われたことがあるから「エイリアンズ」は聴いたことがある人がいるかもしれない。もっと知ってる人なら「Drifter」も聴いたことあったりするのだろうか。
 でもどうせエイリアンズしか聴いたことないんでしょう?いや、それでもいいんだけどね。十分だと思う。でもどの曲も良いからさ。もし少しでも興味がある人がいれば他の曲も聴いてみてほしい。私はサブスクで聴ける曲は全曲聴いた。誇張抜きである。
 
 この記事を開いたほとんどの人はもうギブアップしただろうが、一応私が特に「わかるなぁ」と感じる曲をいくつか以下に提示する。ちなみにあくまでも「わかるなぁ」な曲なので、そんなにメジャーな曲ばかりになるとは限らない。せっかくなので曲のリリース順に紹介。


ペーパードライバーズミュージック (1998.10.25)

 キリンジとしての一番最初のアルバム「ペーパードライバーズミュージック」より『五月病』。イントロがいい。

2 in 1 (1999.03.24)

 「2 in 1」より『休日ダイヤ』。ジャケットがかっこいい。

47'45''  (1999.07.28)

 正式にはこれが2ndアルバム。「47'45''」より『恋の祭典』。ところで1曲目の『Drive me crazy』は「ペーパードライバーズミュージック」に入っててほしかった。

3  (2000.11.08)

  言わずと知れた名盤「3」より『グッデイ・グッバイ』。あの「エイリアンズ」はこのアルバムに収録されている。これまた言うまでもないだろうが、アルバム名の由来はこのアルバムが3枚目だからだ。
 ジャケットの堀込兄弟が脂ぎっている。これまた補足だが、キリンジは堀込高樹(眼鏡をかけている方で兄)と堀込泰行(左のデカい方で弟)の兄弟で結成されたバンドである。

『グッデイ・グッバイ』のシングル盤

 同じく「3」より『悪玉』。2013年の堀込泰行脱退ライブで最後に演奏されたのがこの曲だ。「マイク寄こせ、早く!」はスローガンにしたいくらいに好きな歌詞である。

Fine (2001.11.21)

 4thアルバム「Fine」より『雨は毛布のように』。aikoがコーラスとして参加している。
 「Fine」は実は一番好きなアルバムだ。全体の雰囲気としては少し暗いが、滋味深い料理を食べているような味わいがある。そう、味わい深いのだ。

『雨は毛布のように』のシングル盤

 同じく「Fine」から『玩具のような振る舞いで』。Cメロは特にお気に入り。

OMNIBUS (2002.11.20)

 「OMNIBUS」より『来るべき旅立ちを前に』。何でかわからないが、しっくりくる。古い友達と会った後はだいたいこういう気持ちになる。

For Beautiful Human Life (2003.09.26)

 5枚目のアルバム「For Beautiful Human Life」より『愛のCoda』。本当に良い曲。
 ジャケットは「3」を意識したような構図。でもすっごい暗いね。実際、アルバム全体が暗いというか鬱屈している感がある。特に『奴のシャツ』とか『ハピネス』とかはそう。でも暗いだけでなくそれをちょっと笑い飛ばす温かみもある気がする。

Home Ground (2005.11.23)

 「Home Ground」より『クレゾールの魔法』。これは堀込高樹個人名義で出した曲なので、キリンジかと言われると微妙だが一応。わかる。

7-seven- (2008.03.19)

 7枚目のアルバム「7-seven-」より『この部屋に住む人へ』。まっすぐに引っ越しについて歌っている。

 『もしもの時は』。過剰な心配性。

BUOYANCY  (2010.09.01)

 8枚目のアルバム「BUOYANCY」より『セレーネのセレナーデ』。アルバムの意味は「浮力」で、名前の通り浮遊感のある曲が多い。

 『都市鉱山』。笑える。


 
 


 以上が「わかるなぁ」という曲である。正直全曲わかるので選ぶのが苦痛だった。以下に番外編として「KIRINJI」時代の曲も載せる。

ネオ(2016.08.03)

 「ネオ」より『恋の気配』。気配ってのがいいね。あと、いま秋だし合いそう。

愛をあるだけ、すべて(2018.06.13)

 「愛をあるだけ、すべて」より『非ゼロ和ゲーム』。非ゼロ和ゲームが何なのかについては曲を聴いてみればわかるかも……?

 『時間がない』。いわゆる中年の危機を歌ったものだと思う。

『時間がない』のシングル盤

cherish (2019.11.20)

 「cherish」より『善人の反省』。自分もだいたいこのマインド。

 『休日の過ごし方』。セネカの『人生の短さについて』を思い出す。身につまされる。

Steppin' Out (2023.09.06)

 「Steppin' Out」より『指先ひとつで』。このアルバムはつい1か月前にリリースされたばかりだ。非常に完成度の高いアルバムだと思うので、ぜひ聴いてほしい。
 私がこの曲を聴いたのは、中国旅行で最悪な事件に巻き込まれている最中であったので、特に印象深い。泣ける曲。

 『説得』。こう書くとジェーン・オースティンの著作みたいだが、無関係だ。

 『Rainy Runway』。シングルとしてもともとリリースされていた曲で、シングルを張るにふさわしいポップさがある。

『Rainy Runway』のシングル盤



終わり。

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