19世紀末の飛行船騒動 4

◆それは二次元からやってくる?

 現実世界を長距離航行可能な飛行船が飛び回る前に目撃されたのが「幽霊飛行船」なのだが、でも実はそれと前後して飛び回っていた場所がある。二次元世界だ。
 アルベール・ロビダの描く風刺に富んだイラストレーション作品、ジュール・ベルヌの科学小説「征服者ロビュール」(1886年)、アメリカの「フランク・リード・ライブラリ」(1891年から新聞連載)、他にもダイムノベルと呼ばれる安い小説や、博覧会(この時代はあちこちで開催された)のパンフレット、新聞に載った新発明紹介や飛行船製造のスポンサー募集広告、果てはタバコのおまけのカードにも飛行船は登場しているようだ。

 注目すべき「征服者ロビュール」の「あほうどり号」は数多くのプロペラを持った、それまでの「飛行船」は過去のモノにしてしまう重航空機(動力源は電気)であり、アメリカ大陸ではロープを下ろし、パリ上空ではサーチライトを使う。漁をするような場面も見られるし、音楽を奏でる楽器も積み込んでいる。ロビュールは誰にも知られない場所で空中戦艦を作る事が可能だった。「幽霊飛行船事件」との共通点は多い。
 個人的には、この作品の中にあるように、気球開発者が協力していたならば、アメリカでの飛行船開発はもっと進んでいたのかもしれない。

 ベルヌはまた、「月世界旅行」(1868年)では月に向かう砲弾の材料にアルミニウム選んでいる。

 オーロラ事件などは「火星からきた」になっているけど、実は、イギリスとアメリカでなんと同時連載されていた(アメリカでは「コスモポリタン」1897年4月号から)H・G・ウェルズの「宇宙戦争」の影響か、いや、パーシヴァル・ローウェルの「火星の運河」の観測で(1895年には火星に関する本を出している)「火星ブーム」だったんだろうなあ。
 ウェルズの描く火星人は「元祖タコ型」なんだけど、前作「水晶の卵」(1897年)では翼はあるが地球人に近かった。

 一連の幽霊飛行船事件の後(1898年)なのだが「エジソンの火星征服」などという作品が作られ、そこでは反重力による宇宙船とか、物質を原子レベルまで分解する光線銃が使われているんだとか。日本語訳はないみたいだ。

 1896年4月には首都ワシントンの新聞で「空の海軍」という、翼のある飛行船と地上との戦闘の様子が描かれている。

 ネブラスカ州オマハでは1897年4月5日、2人の男が気球のバスケットにおが屑を入れて放ち、町の中央に運ばれて大騒ぎになった。
 牛の誘拐を見たアレクザンダー・ハミルトンは、地元の「嘘つきクラブ」に入っていた事が判明しているし、オーロラ事件は1966年の調査では当時存命していた人から証言は得られず笑われた。現在はでっち上げという見方が大勢である。(ただし「伝説」として存続しているという見方もある)
 フートンの目撃した飛行船は、インチキと言い切れないまでも当時の蒸気機関車や鋼鉄艦などのイメージの合成でかたち作る事ができるだろう。
 1897年4月にはアイオワ州ウォータールーで「36フィートの飛行船」が着陸している事件が起きた。飛行船は空気圧縮機と発電機を備えていて。人が入らないようにロープまで張られていた。「乗組員」は仲間が船外に投げ出されたというので、町の人は捜索隊を結成した。
 しかし、この飛行船は木材とカンバスを使って作られたインチキであった。

つづく

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