山本弘はもう来ない

 山本弘さん、SF作家である。SF作家っぽい珍しい名前や、読みにくい名前や、難しい名前ではない。

 自分が山本弘さんの文章を最初に読んだのは、当時いた会社の偉いさんが怪しい水の機械にハマって、その関連の仕事をさせられている時に、上司がこっそり「こんな本もある」と「トンデモ本の世界」を渡してくれた時だと思う。「何か怪しい」がどこが怪しいか分かりにくい本の、怪しい部分についての解説が面白かった。

 宝島社の「別冊宝島」のどれかだったと思う。あるSFに出てくる宇宙船が光速を超える方法の記述が上手く、科学的に見えるがどこかおかしい。どこがおかしいか悩んで、やっと結論が出た。というような話を書いておられた。

 世の中には「アインシュタインを越えたい」と、その理論のアラ探しをして、勝った気になっている素人が沢山いるが、そんな事はホンモノの学者がもっと確かな方法でやっているとも書いていた。

「疑似科学のおかしな所を突き詰めて暴く」というのと、「バカSF(奇想SF)に出てくる発想を愛する」という、人によっては「矛盾している」と考える2つの考えを両立させていた。

 そして時として、どちらの紹介もだが、「元ネタ」よりずっと面白くなってしまっていた。

「トンデモち超常現象99の真相」には「この本を疑う事から始めよう」と書いておられたが、このスタンスこそが基本なのかも知れない。みんな「信じる」と言って追求を止めてしまいがちだ。

 その後、ネット上で山本弘さんの文章を読む事になる。

 これは「書き出し」からして上手い。COLTさんの正体も今ではバレている。多分山本さんは志水一夫さんから聞いたんじゃないのかな。文中にあるのは恐らく「マジンガーZ」である。「UFOがプロレスだったらUFO研究家は何を研究するのか」という人がいるかも知れないが、それは、「プロレスを研究する」じゃないかな。「プロレスの歴史」、「プロレスに関わる人達」、「プロレスの中の真実」、「プロレスファンはなぜプロレスに夢中になるのか」、色々あるだろう。

 秋山さんの「本業」が暴かれる前なので、コンタクティって儲かるんだなあとか想像しておられるが(自分もそう思っていた)、多分それだけじゃ食えないから、良い子は真似しないように。並木さんも今では本業がバレているんだよなあ。
 マイヤーが「プレアデスから来た」を「プレアデスの方向から来た」に変えた事については、消火器販売の「消防署の方から来ました」みたいだって、志水一夫さんが書いていた気がする。

 丁度、自分もまたUFOの事をやっていこうと思った時期だった。

 UFOについても現実の飛行機についても詳しい人って、案外少ないのだった。

 自分のBBSやミクシィ等で何度質問した事だろう。

 関係ない所で「山本さんは成功したオタクだから」と書いたら、「成功してないんですけど」と返ってきた事もあった。山本さんにとって成功とは小松左京とか星新一とか筒井康隆とか藤子・F・不二雄なんだろうと思った。

 そうそう、この頃出た「神は沈黙せず」が面白かった。UFOにとどまらない近代オカルトについての話を調べようとしていたので、なおさらだった。

 後にこの作品や他の作品が、先行するSF作品のアイディアをかけ合わせたりして生まれていると本にお書きになっていた。
 2004年の「トンデモ本? 違う、SFだ!」では古今東西のSF作品の最後に、出たばかりの最新のSFであった「涼宮ハルヒの憂鬱」を取り上げていた。

 そんな中で奇想SFのアンソロジーもお出しになり、その中にあったマレイ・ラインスターの「時の脇道」を「超時空世紀オーガス」の元ネタってこれじゃんと思った事もあった。

 1980年代前半ぐらいまでは、2次元の美少女が好きという意味で「ロリコン」を自称する人が多かったが、いなくなっていった。山本さんはずっとロリコンを自称し続けた。

 はるかぜちゃんを応援し、グレタ・トゥーンベリに共感し、超能力少女ナターシャ・デムキナの謎を解こうとした。

 一方で半裸のラクエル・ウェルチとかがお好きで、女ターザンといえば山本弘とも言われた。

 だから美少女で女ターザンだと最強という事になるだろう。

 他にチャールズ・ブロンソンが「主役」(「名脇役」ではなく)の西部劇について語ったり、藤田まことが「奥様は魔女」の吹き替えに転業するという企画の番組について語ったり、平日昼間にやっていた楓大介さんの「心霊写真の謎を暴く」について語ったり、知識は多岐にわたっていた。

 さらにその一方で膨大な新作アニメも観ていたし、ニコマスについて評論したりしていた。

 リハビリ中の近況はカクヨムに書くようになっておられた。今までと同じ思考をするのに時間がかかるようになったのを、SF小説の登場人物に例えておられ、大変な様子の中でもユーモアは失わなかった。

 自分が2021年5月1日に「今日は『博士ちゃん』を観ようか『ブラタモリ』を観ようかすごく悩む」とツイッターに書き込んだ所に、「いいね」をして下さっていた。自分は「ブラタモリ」は大好きだが、この日の「博士ちゃん」は軍艦島だったのだ。山本さんも「ブラタモリ」を好きだと書いておられたが、「博士ちゃん」も好きそうなんだよな。

 これが最後だったかな。

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