11.ルーレット →
カジノの女王と呼ばれるルーレットは、回転する円盤に小さい玉を投げ入れて落ちる場所を当てるゲームだ。他のルーレットといえば、ロシアンルーレット。どちらにも共通するのは、裏社会の題材として登場する点か。
とうに時効になるので白状すると、ロシアンルーレットに使うリボルバー(回転式拳銃。業界用語:レンコン)を購入したことがある。あ、ケーサツ屋さん、令状を取るのは少し待ってほしい。続きを読んでからご検討を。
1986年10月5日から1987年9月27日にかけて日本テレビ系列で放送された連続テレビドラマ、「あぶない刑事」にハマっていた高校時代。「推し」や「コスプレ」という言葉はなかったが、当時つるんでいた友人たちと、登場人物を模した服装をして「聖地巡礼」をしたり、ドラマを元に二次的な脚本もどきを書いて寸劇のまねごともやっていた。いつの時代も同じである。
刑事ドラマなので小道具に拳銃は必要不可欠。ということで悪友の一人、ナオと一緒にアメ横へ調達に行った。
彼女の推しは鷹山敏樹だからS&W(スミス&ウェッソン)M586、私は大下勇次でコルト・ローマンMK−IIIを購入。
拳銃のリアルなイラストが描かれた、重たく かさばる箱を抱えてそれぞれ帰宅。
ナオは手先が器用だ。こういう細かい作業も得意だろう。遅れを取らないように、さっそく開けて組み立て始める。
手先の器用なヤツはいいよな、と思いながら作業していたら、途中工程で合わせる順番を間違えた。やり直していると今度は小さなバネの挿入がなかなかできず、どこかに飛ばして焦ったりと邪念によるアクシデントもあったが、考えていたより時間は掛からなかった。
昔から立体的な図工は苦手でプラモデルを作ったこともなかったが、好きなモノを作っていくのは楽しい。グリップの飾りコインが少し曲がったのが気になる程度の仕上がりだった。あした学校に持って行くか。重たいけど。
翌日、登校するとナオがちょっと凹んでいた。
「おはよ。どうした?」
「あ、ユージ。あの箱ン中にあるはずの部品が足りなくてさ」
「問い合わせた?」
「うん。買ったお店に聞いたら、『メーカー取り寄せになるから2週間くらいかかる』って」
「待て、ないよなw」
「待てるわけ、ないねw メーカーならすぐあるかな」
(このあたりはタカとユージのモノマネで会話している)
昼休みにメーカーへ問い合わせると、「取りに来てくれるならブツはすぐ用意できる」との話。※ブツとは言ってない
「行ってやろうじゃん」
「おし。ガッコ終わったら行くか」
場所は埼玉。私たちが通う東京の女子校から電車の所要時間は15分程度だ。授業が終わると制服を着たまま京浜東北線に乗り込んだ。JR川口駅で降り、よくわからない道をぐねぐね歩いて工場を目指す。
迷わなかったとは思うが、けっこう遠かった記憶。駅から遠ざかるにつれ、だんだん人通りが少なくなっていく。夏休み前の暑い中、さっき乗ってきた電車の所要時間をだいぶオーバーするくらい歩いたと思う。
寂しい風景に建つ事務所兼工場に到着すると、二間ほどの間口は全開で、ざりざりしたコンクリートの床が見えている。
おそるおそる入ってみると中も外も同じ気温で、ぜんぜん涼しくない。埃っぽさと金物の混ざったような匂いがして、細かい金属どうしがぶつかるガチャガチャ音や、一定のリズムでバタンバタンという重たい音が、うわっといっぺんに聞こえる。
切断する機械らしきキーンンンという大きな音もときどき高い天井に響く中、人影を見つけたので大きな声で話しかけると、すぐにわかったようだ。色黒でシワの深い、木彫りのような顔をした男性は無愛想に「ああ、聞いてる」と口の中で言いながら奥へ引っ込んだ。
しばらくすると違う男性が戻ってきて、あらかじめ用意してあったと思しき、透明のファスナー付きポリ袋に入った部品をひょいと渡してくれた。さっきの職人っぽい木彫りの顔よりも少し愛想が良い。
「入れんの忘れっちゃったのかね。暑いとこ悪かったね」
「いえいえ、ありがとうございまーす!」
あっさりブツを入手して終了。モデルガン工場のおじさんたちは、JKが部品をもらいに来たことについて無関心な様子だ。あまりめずらしくもないのか。そんなことはないだろうが。
次の日曜日。小道具を持参してさっそくロケ地、横浜へ。
横浜は、あぶ刑事ブームの前から何度も訪れていて、地元レベルの土地勘だと自負している。そのため聖地巡礼もサクサクだった。
さすがに何日かに分けているが、横浜市中区の全域、ドラマに使われた場所はほぼ網羅している。大黒ふ頭、山下公園、関内、中華街……etc.etc.
ちなみに、この撮影から2年後の1989年(平成元年)、赤レンガ倉庫は保税倉庫としての役割を終えた。
なお、このグループは「まったくもって黒歴史とは思っていない」などと供述しており……。
じゃ、次!「と」
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