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短編小説:『僕の妻は20歳年下』

まえがき

年齢差――それは時に大きな壁として立ちはだかります。世間の目、未来への不安、自分自身の迷い。そのすべてを越えるのは、決して簡単なことではありません。

短編小説『僕の妻は20歳年下』は、そんな年齢差を抱えながらも、愛することを選んだ一組の夫婦の物語です。世間の偏見や心の葛藤に向き合いながら、二人が築いていく日常は、穏やかで愛に満ちたものであり、同時に読者にも「愛とは何か?」を問いかけます。

この物語を通じて、年齢や状況にとらわれない、純粋な愛の形を感じていただけたら幸いです。愛の形に正解はなく、そこにあるのはただ一つ――「選び続ける勇気」だけなのです。


1. 運命の出会い

「人生、どこで何があるかわからないもんだな。」

50歳の僕、達也は、ふとリビングのソファで呟いた。隣では30歳の妻、美咲が笑いながら雑誌をめくっている。その声は、まるで鈴の音のように軽やかだ。彼女と結婚して3年になるが、未だに「なぜ自分がこんな若くて美しい女性と一緒にいるのか」と不思議に思う。

出会いは、職場だった。20代の美咲がインターンとしてやってきたとき、僕は部長として迎え入れた。彼女は生き生きと仕事をこなし、時折見せる天然さが周りを和ませる、職場のムードメーカーだった。僕にとっては、歳の離れた「娘のような存在」――いや、むしろ孫のようにさえ感じていた。

だが、その感覚が変わったのは、ふとした瞬間だった。


2. 年の差を越えた瞬間

ある日、美咲が仕事で大きなミスをした。納期を忘れ、取引先に迷惑をかけてしまったのだ。顔を真っ赤にして謝る彼女を見て、僕は怒る気になれなかった。

「誰にでもミスはある。大事なのは、次にどうするかだ。」
そう声をかけると、美咲は目に涙を浮かべながら「ありがとうございます」と深々と頭を下げた。その瞳には、不安と感謝、そしてどこか特別な想いが宿っているように感じた。

それからの美咲は、以前よりも積極的に僕に話しかけてくるようになった。仕事の相談だけでなく、プライベートの悩みや趣味の話も。彼女と話すたびに、年齢差を忘れるほどに心地よい時間が流れるのを感じた。


3. 周囲の反応

僕たちが付き合い始めたのは、美咲がインターン期間を終え、会社を離れた後だった。正直、告白されたときは驚き、何度も断ろうとした。

「君は若いんだから、もっと似合う人がいる。」
「いませんよ、そんな人。」
彼女の真剣な目を見た瞬間、僕は負けた。だが、交際が周囲に知られると、案の定、反応は様々だった。

「年の差婚なんて、どうせ続かない。」
「若い奥さんに捨てられるのがオチだ。」

友人たちの心ない言葉に、正直傷ついたこともあった。けれど、美咲はいつも笑顔でこう言った。

「歳なんて関係ありませんよ。私が好きなのは達也さん自身ですから。」

その言葉に支えられ、僕たちは世間の目を気にせず前に進むことを選んだ。


4. 日々の暮らし

結婚してからの生活は、想像以上に楽しかった。美咲は家庭的で料理が得意で、僕の健康を気遣ってヘルシーなメニューを毎日作ってくれる。休日には、一緒に映画を観たり、美咲の趣味であるヨガに付き合わされたりする。

「ほら、もっと背筋伸ばして!歳だからって諦めちゃダメですよ!」
「言いたい放題だな……」

彼女の明るさは、僕の生活に彩りを与えてくれる。若さゆえのエネルギーに引っ張られることで、自分自身も気持ちが若返るような気がした。


5. 小さな不安と大きな愛

それでも、僕には一つだけ気がかりがあった。それは、彼女との「未来」についてだ。

「俺が60歳になったとき、君はまだ40歳だ。君がその時も俺を選んでくれるのか、正直不安だよ。」
夜、ベッドでそう呟いたとき、美咲は真剣な顔で僕を見つめた。

「そんなこと、今考えなくていいじゃないですか。未来のことなんて誰にもわからないけど、私たちが今一緒にいること、それが大事なんです。」
そう言って僕の手を握る彼女の手の温かさに、僕の不安は少しずつ溶けていった。


6. 愛は年齢を超える

僕たちは、年齢差という壁を乗り越え、日々を共に生きている。確かに世間の目や未来の不安が完全に消えることはない。けれど、それでも僕は思うのだ。

「愛することに、年齢なんて関係ない。」

美咲の笑顔を見るたびに、その思いが強くなる。僕たちは、20年の年の差を超えて、これからも共に歩んでいく。どんな未来が待っていても、二人ならきっと乗り越えられるだろう。

−完−



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物語の綴り手
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