鷲生智美

文章書きです。どうぞよろしくお願いいたします。平安ファンタジー小説「錦濤宮物語」公開中…

鷲生智美

文章書きです。どうぞよろしくお願いいたします。平安ファンタジー小説「錦濤宮物語」公開中。「京都市左京区下鴨女子寮へようこそ!」を投稿中です。どちらも他サイトでジャンル1位になった作品です!

最近の記事

第3話 料理会へご招待

 俺は何度も何度も推敲を重ねてからメッセージを送信した。言いたいことを端的に表すと同時に、無駄もなく、そして助平な下心など微塵も感じられない爽やかな文言だ。 「世界の料理を作るレシピ本を購入しました。一緒に作ってみませんか?」  その返事は電話で来た。 「もしもし一ノ瀬君? 楽しそうなお誘いありがとう」  構えることなく無邪気に弾む声が聞けて、俺は心底安堵した。「はあ? 何それ」と一蹴されたらどうしようとビクビクしていたのだ。 「来週の日曜日空いてるの。友達と一緒に

    • 第2話 料理で美女を釣れないか

       一ノ瀬優25歳。  私立大学で薬学を専門に学び、大手製薬会社に勤務。一人暮らしで料理を楽しむ独身男性。  顔は特に美男子ではない。清潔感はあると評されるが、女っけはない。今の勤め先に内定した頃から、女子との集まり――つまり合コンによく駆り出された。モテると言えばモテるのかもしれないが、ピンと来る相手には巡り合えてない。  どの女性も俺のスペックだけが目当てなのかと溜息をつきたくなる。いや、合コンに来る女性を貶める気はない。こういう出会い方を求める男女双方が納得しているな

      • 「俺と料理と彼女と家と」」第1話 我が手にしゃもじを

        (あらすじ) メシマズ母のおかげで、自分で料理するのが大好きに育った一ノ瀬優(男性)。就職を機に一人暮らしと自炊を始めた彼は、その特技を活かしてまずは華やかな女性同期にアプローチしてみるが、価値観の違いから疎遠になる。彼女の友人の田村さんと料理を通じて親しくなり、真剣に交際を考えるが、彼女の抱える事情に躊躇してしまう。両親に相談の上、交際を続ける決意を固め、「やはり一生共に料理をしたいのはこの人だ」と彼女と結婚し、世界の料理を楽しむべく留学生向けの寮を営む。 *****

        • 第30話 下鴨女子寮公式Webサイト

           武田氏を見送って美希は地下の食堂に降りていく。  ノートPCを開く由梨さんの周りに人が集まっていた。食堂のガラス戸を開けると皆の視線が向けられる。 「どうだった?」  新市さんの問いかけに、炭川さんの声が重なった。 「ちゃんと両想いだって確かめ合えた?」 「え、は、はい。あの……こうなるって予想されてたんですか?」 「あったりまえじゃん!」と炭川さんが大きな声を上げ、他の皆も「そりゃそうだよ」「いつくっつくのかと思ってた」「もどかしいなあって思って見てたよ」と笑

        第3話 料理会へご招待

          第29話 告白は三段論法で

          「偽装彼女を辞めたいと思います」  下鴨女子寮の面会室で武田氏と二人きりになった美希はそう告げた。武田氏が来るまでに言いたいことは決めていた。 「私は、武田さんに清水さんみたいになって欲しくないんです」  武田氏は机の真向かいで腕を組む。 「俺もいろんな意味で彼のような男になりたくないが、君が言わんとするのはどういう意味でだろう?」 「清水さんは信頼と尊敬を黒田さんに捧げつつ、恋人には扱いやすい『安くてチョロい』女性を求めます」 「うん。そうだな」 「黒田さんの

          第29話 告白は三段論法で

          第28話 仲間は仲間で仲間だから仲間だけど……

           帰寮後、藤原さんと美希とで、北大路を歩きながら母が何を言ったのかほぼ全て再現できた。  河合さんは「予想を上回る毒っぷりだねえ」と呆れ果てた様子だ。 「あんな母で……皆さんに失礼なことを言って本当に申し訳ありません……」  金田さんがこともなげに鼻を鳴らす。 「私のことは気にしないで。そういう人がいるから普段は金髪で威嚇してるんだし。こっちだって織り込み済みで生きてるわよ」  新市さんも「社会の反発が怖くて社会学をやってられるかっての。平気平気」と笑い飛ばし、由梨

          第28話 仲間は仲間で仲間だから仲間だけど……

          第27話 毒母の来襲を迎え撃て!

           氏は女子寮に入れるとは思っておらず玄関先で立ち話するつもりでいたが、受付にいた筧さんが「じゃあ、面会室を使いましょう」と提案してくれた。 「面会室? そんなのがあるんですか?」 「ほら。玄関の正面にドアがあるじゃん」  三和土の奥に小部屋があるが……。 「ここ、物置じゃないんですか?」 「実質そうなってるけど、元は寮に入れない男性の来客を通すための部屋だったんだよ」  筧さんが受付室から出てそのドアを開ける。段ボールや昭和の時代の扇風機やテニスラケットなんかが雑

          第27話 毒母の来襲を迎え撃て!

          第26話 材木の森

           可愛い雑貨に満ちたイノブン北山店。そこに思わぬお客がいた。ティーカップを手に取って眺めている、白い髪を綺麗にセットしたあのご婦人は……。 「白河さん?」 「ああ、北村さんかいな」  白河さんは美希の隣の武田氏にも微笑みかける。 「そちらさんが偽装彼氏さんどすな? 初めまして。下鴨女子寮の大家の白河と言います」 「え?」  何でご存知なんだろう。白河さんはティーカップを持ったまま笑みを深くする。 「女子寮の噂は耳に入ってきますえ。手の空いてる寮生を誘ってお茶会し

          第26話 材木の森

          第25話 再びの烏丸御池

           京都国際マンガミュージアムは地下鉄烏丸御池駅のすぐ傍だ。そして武田氏は、美希が電車を降りるホームのベンチで待ち合わせようと提案した。  夕食の席で、それを聞いた新市さんが「ホーム?」とお箸を止めて「普通、駅の改札とかで待ち合わせない?」と疑問を呈する。  金田さんも「変わってるね」と訝しむが、由梨さんが静かに見解を述べた。 「烏丸御池駅では清水さんと祇園祭宵山で待ち合わせたでしょう? 美希ちゃんに辛い思い出があるんじゃないかと気を遣ってくれたんじゃないかしら」  金

          第25話 再びの烏丸御池

          第24話 夢は大きく!

           長楽館を出たのは夕方だ。褐色の日差しが桜を主とする円山公園の樹木を照らしていた。秋を迎えて気の早い何本かはもう色づき始めている。  美希はこの辺りに来たことがない。観光の名所だが、逆に言えば観光目的でもなければ来ることもない。せっかくだから武田氏と別れたら少し散策してみよう。そう思ったのは氏の方も同じで「ちょっと歩いて帰ろうか」と声を掛けてくれた。美希は嬉しくなって「いいですねえ」と微笑んだ。  円山公園を抜け、知恩院の豪壮な三門の前を通り、青蓮院前の楠の巨木を右に見や

          第24話 夢は大きく!

          第23話 ベルサイユの桜

           女子寮の食堂でノートPCを広げた炭川さんが、長楽館の画像を見つけるやいなや小さく叫んだ。 「こりゃあ、偽装彼女が必要だわ! 男性が足を踏み入れるにはハードル高すぎ」  隣から筧さんも同じ画面をのぞき込む。 「明治期に煙草の製造販売で財を成した富豪が、円山公園に建てた迎賓館かあ。今はカフェやホテルなどに使われてて……ゴージャスな建物だね」  由梨さんは自分のスマホで長楽館のサイトを見ている。 「えーと。外観と一階の広間はルネサンス風で、玄関ポーチがイオニア式。内部に

          第23話 ベルサイユの桜

          第22話 偽装彼氏獲得交渉の成立

           氏は「ええと、話が少し飛躍したかな……」と言いながらポリポリと頭を掻く。 「君は……いわゆる毒親に育てられたせいか自分に自信が無さそうなところは心配だが、その分、謙虚だ。だから、自分以外の事物や人間に深い興味を寄せる。自分がダメ人間だと思い込んでいる劣等感は痛ましいが、その結果として自分以外の事物を咀嚼し理解する姿勢が身についているのはとてもいいことだと思う」  そうなのか……。由梨さんも美希のことを解像度が高いと褒めてくれたが、それは母からダメだダメだと批判され続けて

          第22話 偽装彼氏獲得交渉の成立

          第21話 フランソア喫茶室の会談

           美希はそのまま歩道で話し始めた。親が「毒親」かもしれない、その成育歴から。 「ちょっと待て。それは立ち話で済ませられるものじゃないだろう」  美希はぱっと顔を赤らめた。 「スミマセン、私ってばこんな往来で自分語りなんか始めてしまって……」 「偽装彼氏が必要であるからには、きっと深い事情があるんだろう。どこかでお茶でも……。そうだ。早速だが、女性同伴でないと入れないカフェに付き合ってくれないか?」 「え? ええ……」 「俺が前から入りたくても入れなかったカフェが四

          第21話 フランソア喫茶室の会談

          第20話 泥棒!泥棒!泥棒!

           武田氏はイノブン前の歩道にいた。  車道との境目にある鉄柵ギリギリまで遠ざかった場所で、しゃがみ込んだり、背伸びをしたりしている。視線を追うと、どうもイノブンの中を懸命に覗き込もうとしているようだ。 「武田さん?」  美希に声を掛けられた武田氏はあからさまにぎょっとした顔をした。そしてたちまち顔を真っ赤にする。 「どうしたんですか?」  武田氏は「え……」「あ……」としどろもどろだ。 「イノブンの中が気になるんですか?」  武田氏ははっと驚く。 「どうしてそ

          第20話 泥棒!泥棒!泥棒!

          第19話 男を忘れられる場所

           明け方になる前に二人はそれぞれの部屋に帰ることにした。食堂のテーブルに広げていたお茶会用具を片付ける。美希は借りていたマグカップを由梨さんに差し出した。 「とっても可愛い花柄で素敵ですね。由梨さんって持ち物の趣味がいいです」 「私の気晴らしになるよう親がよく小遣いをくれるから、雑貨に凝ることもあるの。ただ、そのカップは私の趣味のど真ん中じゃないし、良かったら美希ちゃんにあげるわ」 「いえ、自分で同じのを買います。私も今年の夏休みはバイトでお金を稼ぎましたし!」 「い

          第19話 男を忘れられる場所

          第18話 貴女はとてもいい仲間

          「私、どう評価されてるのでしょうか?」 「寮委員長の新市ちゃんもいい新入寮生で良かったってほっとしてたし、みんな美希ちゃんのことを好きなのよ」 「私、人に好意を持たれるようなことを特にしていないと思うのですが……」 「私たちが美希ちゃんを好きなのは、美希ちゃんが特に何かをしたからしなかったからって訳じゃないわ」 「……」  例えば、と由梨さんがこの夏のトラブルを話し始める。 「新市ちゃん、303号室の人に手を焼いていたでしょう?」 「ああ、西都大の人でしたよね。

          第18話 貴女はとてもいい仲間