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立ち上がれ勇気!震災を体験した子供たちの物語


何も心配しなくていいのよ。

だから言う通り、勉強しなさいね。あなたのために。

ママはそういうから、あたしは勉強をするふりをする。

頭には入らないけど机に向かって。

youtubeを見ながら絵を描き
その合間に友達とラインする。
話題は「推し」のこと。
中身なんてない。

成績は低迷してる。テストの結果が出るたびにママは怒る。
だけど気になってしょうがない。パパが帰ってくるたびに、居間で怒鳴りあいが始まるから。朝になると何でもないふりをして、ママはご飯を作り、私は学校へ向かう。

パパは早くに家を出てもういない。パパの帰る時間はどんどん遅くなってる。

大きな地震があって、いろんなものがぐちゃぐちゃになった。
さすがに一年たって少しは落ち着いたけど、
ここは中途半端な場所だから、家が流された人もいるし、なんでもなかった人もいる。

なんにもなくても、うちみたいに家の中がおかしくなってる人もいる。
仮設住宅の薄い壁を気にしながら、亡くなった人や、おうちを悼み、
残った家族に殴られる恐怖に怯える人だっているだろう。
でもこんなことがあっても、笑顔があふれる家だってあるだろう。

神様は不公平だ。不幸は平等には起こらない。

あたしは絵を描いてる。
ただ絵を描いてる。

そしてTwitterで絵師として自分の絵を発信してる。

情報空間にはそんな絵が、あふれている。

自分の描いた絵が、粒子になって空間を満たしているのを想像する。
光に溶けて、きらきら、きらきら。

ハジメちゃんの絵も きらきら。
ネギ坊主さんの絵も きらきら。

目に見える汚いものは皆嘘で、ただ、この心に映るきらきらだけが
ほんとかもしれない。

大好きだった町が、波に飲まれ深海の底になったのを見た。
潮の匂いが生々しかった。
壊れた生活の残骸が、あっけらかんと繰り返された暴力の結果のように
あちこちに散らばっていた。

あたしたちはあの場所に戻って、何度か真剣に泣かなきゃいけないのかもしれない。
絵を描きながら、そんなことを想う。

ちゃんと悲しむことが、必要だ。お母さんの胸にも、お父さんの胸にも、海の底の泥のようなものがいっぱい詰まっている。

鼻歌を歌いながら、あたしは絵を描く。
胸の奥の泥が、きれいな輝きを放つまで。

描いた絵をAIで動かして、動画にしてみる。

自分の代理の女の子が、はやりの歌を歌う。
悲しみの歌。
だけど、それを見ているのは気分がいい。

パパとママが喧嘩するのは、きっと愛してるからだ。
その愛に向かって、あたしは今日も絵を描く。

投下したTwitterに「いいね!」がついて、どんどん拡散していって、それがメッセージになる。あたしの悲しみが歌になって、新しい愛の物語を紡ぐ。

そんなふうにして、あたしは地球を抱きしめる。

ガザで、バルセロナで、パリで、アフリカで、中国の名もない村で、世界中の女の子たちが、きっと何かと闘っている。

立ち上がれ勇気。

と節を付けて歌いながら、今日もあたしは絵を描く。
絵の中の少女たちが、命をもって立ち上がるのを思う。
その苦しみから曲を作り、歌を歌いはじめる全ての女の子の列に、
連なっていく。

描くことで守り、描くことで創り出し、自分の弱さを愛し、
地球と緑と音楽を育てていくみたいに、
絵を、描いて描いて描いて描いて、

光に乗せて、それを銃弾のように世界に放ち続ける。

この星がまた1から始まるまで。


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