ソ連の「インターネット」について


0.この記事について

 本記事は1960年代ソ連において創設された自動管理システム(自動制御システム)「アス」についての関連記事となります。
 ソ連の「インターネット」と呼ばれるプロジェクト(システム)USNCもしくはOGASについて解説します。

1.ソ連の「インターネット」とは?

 ソ連の「インターネット」は、経済管理を目的とした全国規模の自動制御システムのコンピュータセンターの国家的ネットワーク(USNC)のことでした。ソ連のサイバネティクス研究の第一人者のアナトリー・キトフ(ru: Анатолий Иванович Китов; en: Anatoly Kitov)により考案され、同じサイバネティクス研究者でもありソ連の英雄でもあったミハイロヴィチ・グルシコフ(ru: Виктор Михайлович Глушков)に引き継がれOGASという名称で開発が開始されました。
 しかし1970年10月1日、資金不足を理由にOGASのプロジェクトは終了し、このプロジェクトは達成されませんでした。
 グルシコフの計画ではコンピュータセンターのネットワークは三段階の構造になる予定でした。下位構造では企業や組織のコンピュータセンターと情報収集ポイントによって形成され、中間構造では大規模な工業都市にあるコンピュータセンターによって構成され、上位構造はモスクワにある本部となりネットワーク全体を運用管理し最高政府機関に直接サービスを提供する予定でした。

2.USNC、OGASの歴史

 1956年、ソ連の最高指導者だったフルシチョフがスターリン批判を展開した時、彼は資源の配分の適正化と効率化のためサイバネティクスによってソ連経済をネットワークで結びつけるという考えを支持しました。この支持を受けてソ連では様々な社会主義プロジェクトが開始され始めました。
 ソ連経済をネットワークで結びつける考えとして、この年に有名な「電子デジタル機械」を著していたソ連のサイバネティクス研究の第一人者キトフはソ連の経済管理を目的とした全国規模の自動制御システム(自動制御システムは後に「アス」と呼ばれた)の創設のためコンピュータセンターの国家的ネットワーク(USNC)を提案しました。当初のUSNCはモスクワに置かれたメインコンピューターが全国の企業から送られてきた情報を管理・処理し全国の企業へと指令を送るという「中央集権的」システムとして構想されました。しかし、このシステム構成は従来の管理方法を否定しており官僚たちの仕事を奪うであろうものとして認識されました。
 彼はこの提案を1958,1959年の二度にわたりフルシチョフへと書簡を送ったもののそれらはフルシチョフに届くことはなく二度目の彼の行為が軍上司に傍受され彼の行為は裁判にかけられ共産党員の資格を一年間剥奪そして軍からの永久追放を言い渡されました。
 彼の提案は終了したかに見えましたが、1961年、第22回ソ連共産党大会の前日にキトフは再び彼の考えを論文に出版しました。この論文はソ連国内外に反響を呼びました。ただし、彼の提案は「中央集権的」ではなくソ連全土にコンピューティングセンターを分散させるものとして最適化されていました。
 1962年、キトフの著書「電子デジタル機械」に感銘を受けてサイバネティクスを研究していたソ連の数学者、サイバネティクス研究者であり後にソ連の英雄となったグルシコフがキトフの考えを再考し、OGASという名称で、後にソ連首相となりコスイギン改革によって自動制御システムによる経済改革を実行したコスイギンの支持を獲得しました。
 1964年、予備設計が完了しソ連中央統計局にOGASが提案されるもののその技術仕様は断固反対されました。
 1966年に、中央統計局が改訂したOGASの案がソ連国家計画委員会に提案されるものの反対されました。
 1969年、OGASは未だ創設されておらず、ソ連として驚くべき事態が発生しました。アメリカは1966年にOGASと同種類のネットワークの予備設計を完了しており今のインターネットの前身となるARPANETという名称でネットワークを立ち上げようとしているということでした。
 この報を受けてソ連は関連する委員会や研究所の立ち上げに急ぐことになりました。
 しかし完全なOGASの計画の実行はされることはなく、グルシコフの「今すぐ(完全なOGASを)実行しなければ、1970年代後半にソ連経済は非常に困難に直面することになるため、私たちは否応なくこの問題に立ち返らなければならないだろう。」という強い要求も空しく同年10月1日、計画のための資金提供が拒否されプロジェクトは失敗に終わりました。

3.OGAS後のソ連のインターネット

 1970年代の終わりまでに、ソ連のコンピュータの発展は、全国的な光ファイバーと無線/衛星デジタルネットワークの構築を目的としたアカデムセットと呼ばれるプロジェクトの創設につながりましたが、ソ連解体前に実際に実装されたのはレニングラードだけでした。
 1992年までにソ連のコンピューターは破棄され、1990年にソ連およびロシアはレルコムと呼ばれる民間通信企業の努力により、(フィンランドへの電話による国家に依存しない)グローバル・インターネット接続を取得しました。

4.付録:グルシコフの「電子社会主義」の野望

 グルシコフのサイバネティクス研究は1962年から始まり20年間、彼はサイバネティクス研究所を運営した。
 グルシコフと若い研究者たちは様々なサイバネティクスプロジェクトを開発し、特に外貨をオンラインの口座に仮想化する電子通貨システムのプロジェクトを研究していた。
 しかし彼(および彼ら)の電子通貨のアイデアは委員会に無用な不安を引き起こし承認を得ることができなかった。だが、このプロジェクトは生き延び再び日の目を見る機会が与えられることになる。
 それは米国がソ連に先立ち分散型コンピュータネットワークARPANETを立ち上げたことだった。
 彼は現代のインターネットの前身となるこのARPANETに対抗する必要性を訴えるため、キトフのアイデアを引き継いだ「全州自動システム(OGAS)」を持ってクレムリンに入り財務大臣との会談に臨んだ。彼は経済的決定の迅速な意思決定システムのプロジェクトと共に、かつて研究していた電子通貨システムの野望も持ち込んだ。
 問題は政治局のプロジェクトへの資金提供だけだった。
 もちろん、グルシコフは事前にプロジェクトの同志を準備していた。首相のコスイギンと書記長のブレジネフが彼を助けるため会議に参加を予定していた。彼らは技術畑出身であり、コスイギンにおいては5年前に彼の経済改革を財務省に隠蔽されていた。
 しかし財務大臣がグルシコフの前に立ちはだかった時、彼らは席に居なかった。彼らは財務省に対抗するより欠席することを選んだのだった。
 グルシコフの「インターネット」のアイデアは財務大臣とは相容れないほどレベルの高いものであった。大臣は例えばアラーム機能を持つといった簡単なコンピュータを要求した。
 結局、OGASプロジェクトは破壊的な閣僚や現状維持の官僚によって、さらに10年間放置されることになった。
 しかし、その10年はグルシコフにとってはあまりにも遅すぎた。
 1981年、グルシコフは健康状態が悪化した。モスクワの病院で治療を受けたものの1982年1月30日、彼は病院で亡くなった。

5.年表

$$
\begin{aligned}
1956年 & フルシチョフがソ連経済のネットワーク化を支持 \\
同年 & キトフが\text{USNC}を提案 \\
1959年 & キトフの追放 \\
1961年 & キトフが論文を出版しアメリカで反響を受ける \\
1962年 & グルシコフがキトフの案を\text{OGAS}という名称で \\
& 引き継ぎコスイギンの支持を得る \\
1964年 & \text{OGAS}を中央統計局へ提案するも断固拒否される \\
1966年 & \text{OGAS}の改訂版を中央統計局が国家計画委員会に \\
& 提案するも反対される \\
1969年 & アメリカが\text{ARPANET}を計画していることを受けて \\
& 各種委員会や研究所が立ち上がる \\
1970年 & 資金不足によりプロジェクトが失敗 \\
1970年代後半 & アカデムセット創設 \\
1990年 & ソ連およびロシアはグローバル・インターネット接続 \\
& を取得
\end{aligned}
$$

6.感想

(後ほど更新します)

7.参考文献

1960 ~ 1980 年代のソ連経済自動制御システム (OGAS) を構築するプロジェクトの歴史(История проекта создания автоматизированной системы управления советской экономикой (ОГАС) в 1960–1980-х гг.)、https://www.computer-museum.ru/histussr/ogas_sorucom_2011.htm

ソ連のインターネット(The Soviet InterNyet)
https://aeon.co/essays/how-the-soviets-invented-the-internet-and-why-it-didnt-work

8.関連動画

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