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それはサントリーのジン。愛すべき翠ちゃん

「環状線の福島駅んトコに、串焼き屋があるんですよ」
出勤するなり、仲の良い同僚が言ってきた。前のめりになって詳しく聞いてみると、なんと千円で串焼きの食べ放題ができるらしい(三百円の突き出し有)。鶏のハツ、肝やら豚のホルモンなど、千円という割に種類も豊富だと言う。
スマホで、メニューを見せてくれた。
「串焼き以外にも、うずら醤油漬け、ナムルとか一品ものも色々あるのね……。で、酒は?」
何より、そこが一番重要。
「ビールはもちろんあるとして、ハイボール、レモンサワーもあるよね。他は?」
捲し立てるように続ける。
「こんな感じみたいですよ」
画面を見ると、上に書いた物の他に

ホッピー
ワイン(グラス)
翠ジンソーダ

と書いてあった。
「翠ちゃんあるやん!」
思わず目を輝かせる。
サントリーのジン、翠。素晴らしいお酒!
私がジンにハマったきっかけであるお酒で、あの綺麗な薄青色のラベルに惹かれて飲んでみたのが始まりだ。

その頃は、いかに高い度数のアルコールで、いかに効率良く酔うか、という事を考えていた。結果、安い紙パックの甲乙混和の焼酎を買って、ポッカレモンなどの液体と共にソーダ水で割るという、自家製ド底辺チューハイを飲んでいた。
しかし、次第に二十五度の焼酎をソーダ水で割るのでは、コスパが悪くなってきた。楽しく酔っ払うまでに、そこそこの量を飲まなくてはならなくなり、紙パックから、大容量の四リットルペットボトルに変わった。
さすがにこれは、女が家に置いていて良いものではない気がする……と、ほとんど飲めない夫に、申し訳なくなってきたのだった。
そこで彗星の如く現れた、翠である。
ラベルを見ると、和が香るとか、日本の食卓に馴染み深い、だとか書いてある。

柚子、緑茶、生姜の香りぃ?どういうこと?味がついてるの?クラフトビールみたいな感じなのかな。

と不思議に思いつつも、アルコール度数四十度という数字が決定打となり、景気良く瓶で買ってみた。大好きな柚子が入ってて、飲めないということも無いだろう。
また変なお酒買ってる、と言いたげな夫を横目に、早速グラスに注いでみる。初めてだから、薄めに作ろうか?いや、普通に作ろう。
ドキドキしながら、指三本分の翠の上から、氷に触れないようソーダ水をそろりと注ぐ。鼻を近付けると、なるほど?何となく爽やかな香りがする。
期待しながら飲んでみると、よく分からんが美味い!確かに柑橘系の香りがする。柚子と言われれば柚子なような気がしてくる。生姜、ほんのり分かるかな。緑茶、全く分からない。柚子の香りだけではないな、という事だけ分かる。それでも、美味しい!
余りの飲みやすさに感動し、次からはこれを買おう、と決めたのだった。
しかし、しばらくもせぬ内に安いイギリス製のジンを見付けてしまい、翠を飲むのは外で飲む時だけになったのであった。薄給の辛いところである……。

翠ジンソーダは、増えてきたとはいえ、外ではまだあまりお目にかかれない。ハイボールほどの認知度と人気がないのだろうか。飲み屋の壁に、あの薄青色のポスターがあれば、私の中で大当たりだ。

そして、噂の福島の串焼き屋には翠がある。
中にまだ薄らと血を感じるレバー。あのねっとりとした旨味に翠ソーダ。
味がギュッと詰まったハツ。あの歯応えに翠ソーダ。
甘みさえ感じる豚バラの脂。あの濃厚さに翠ソーダ。
ああ、思い浮かべるだけで就業前からヨダレが……。

「モニカさんは行けないんで、僕と誰々さん達とで下見に行ってきますね!」
「お、おん……。写真、よろしくね……。特にメニューの写真ね、よろしくね……感想待ってる……」
現実に帰ってきた私に、元気な赤ちゃん産んで、落ち着いたらすぐに行きましょう、と言ってくれる。
彼から美味しそうな、皆の楽しそうな写真が送られてきたら、それを肴にノンアルチューハイでも飲もう、と心に決めたのであった。

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