松崎旅行記 その6の2


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「西伊豆は太陽があふれるばかりに輝き 黒潮がおどり 伝説を秘めた山々が素朴な美しさを 見せてくれます」                 つげ義春の漫画「長八の宿」で宿の娘マリちゃんが考えたパンフレットの案内文のとおり、松崎は太陽と緑が美しい場所だ。熱海でも伊東でも堂ヶ島でもなく、このとくに観光するものもない小さな町にやってくる人たちの何割かはつげ義春の漫画の舞台になった町を見たくてやって来ると思われる。

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古い看板に興味でもなければ、早めに宿に帰って温泉につかったほうがよさそうだ。食べ物屋はシャッターをおろし、土産屋のようなものも見当たらない。人も歩いてないし…。

「ひなびた漁村」と1968年作の漫画のなかでも呼ばれているが、2016年の現在ではさびれたと言うか、くたびれた眠くなるようなところだ。それでもこの町を歩くのはけっこう楽しい。

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観光やグルメ巡りで忙しく走り回ったりしないで、なんの目的もなくぼんやりできるところがこの町のよいところだと思う。なにか面白いものを見たいなら都会にいればそれだけで目の前をいろいろなものが秒速で走り抜けていく。思いっきり退屈できるのが松崎の最大の魅力だ。

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「長八の宿」で私がいちばん好きなシーン。漫画だと宿は海に面していて、富士山が風呂場から「真正面にドーン」と見えることになっているが、実際には「山光荘」は町の中にあって、松崎の町からは富士山は見えなかった。これは意外だった。正直いって少しがっかり。つげ義春の作ったフィクションの力にひっぱられた格好になった。                 漫画「長八の宿」は旅の青年と宿の下男のジッさんとの交流を描いたドラマ、と言うほどでもない、ただ青年がジッさんと世間話をして別れるたあいもない数日間の描写だが、「たあいもない時間」とジッさんの素朴な人間味で松崎の町の良さを表現しているんだなあと、漫画の現場であらためて読みなおしてみて感想を得た。

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夕焼け。部屋の真正面に沈んでほしかった。まあ仕方ない。

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