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ドライブインシアターの鑑賞とお手伝いをした話

 コロナウイルス関連の記事が「クラスター」や「2けた感染」などの文言で不安と緊張を覚えた花冷えする時期を経て、「減少」や「ゼロ」などの前向きなキーワードが目に付くようになった新緑の風そよぐある日、一つの新聞記事の見出しに目が留まった。

「車内で映画楽しもう」

 それは、コロナウイルスによる県民の自粛ストレス緩和を目的とした「ドライブインシアター」の開催を伝える記事だった。車の中で外の大画面に移された映画を見ることで、感染リスクを避けながら楽しめるという。子どものころ、昭和時代に洋画のワンシーンで見たあの光景。それが令和時代の今、体験できるのか。コロナ禍でなければこのイベントはなかっただろう。何もできない暗く沈んだ毎日から、目の前がパッと明るくなるようなワクワク感に包まれたオレは、発売日と同時にすぐさまチケットを買い求めた。

 翌日、同シアターで飲食を販売する方々よりお手伝いの依頼があった。コロナ禍の真っ只中で飲食が立ち行かなくなった一か月半前、とある青年団体の飲食店有志らが「テイクアウトマルシェ」と銘打って自店の弁当などを三密を避けたドライブスルー方式での販売を始めた。その手法がメディア等で話題となり、富山県内各地に同じ冠名での飲食販売が広がっていったという。さらに富山県を超えて全国でも同じ名前での飲食販売が伝播し、ついには行政等が主催するこのシアターでの飲食販売まで任せられるようになったのだという。

すごいなあ。コロナの逆境の中で、誰かの歌ではないけれども時にムーブメント起こしてるよなあ。関わっている人の熱量に触れたかったオレは、これまたすぐにお手伝いを引き受けた。

 シアター鑑賞者として迎えた当日。席は先着順なので早めに向かう。会場に入ってまずは「テイクアウトマルシェ」の飲食物を買購入。見たことある人ばかりが運営していたので思わず笑みがこぼれる。ずっと外で販売していたのであろう、体質が変わったくらいにどす黒く日焼けしているメンバーもいた。その那智黒のような肌の色濃さが、今までの大変さと充足感を現わしているようだった。

シアター車

 そして上映会場へ。建物の外壁にこのイベントのロゴが映し出され、日が沈むにつれてとくっきりと浮かび上がる。夕日を横にずらりと並んだ多種多様な車。田んぼに囲まれた会場の外で聴こえるのはカエルの輪唱。指定のFMに周波数を合わせると、軽やかな音楽が車内に響き渡り始めた。日常に囲まれた車の非日常空間。子どものころに憧れていたワンシーンがスタート、思う存分雰囲気を満喫し、家族愛をテーマとした映画を時には涙しながらじっくりと堪能した。

 翌日、今度はテイクアウトマルシェのお手伝いへ。マスクを通して久しぶりに会うメンバーと談笑しながら準備を進めた。オーダーを担当したオレは、開始と同時に続々と入ってくるお客にあたふたしながらも、身体にやることを覚えさせながら対応していく。このマルシェ自体がブランド化しているようで、一人で何品でも買っていくお客や、目当ての品が品切れで残念がる客を何度も目にした。改めてマルシェが文化・習慣化されていることに驚くとともに、ともかく行動を起こそうという初期衝動と熱量に畏敬の念を抱いた。最終日まで手伝い、打ち上げにまでお呼ばれされたオレは思う存分痛飲、ステージ1まで制限が緩和された居酒屋で、一定距離を保ちながら久しぶりの交歓のひと時を満喫した。

 夏のイベントが軒並み中止となっている今、感染リスクを避けたこのシアターは再開を求める声が出てくるように感じた。そして、シアターで大団円を迎えたマルシェ。その世間を賑わせた一端に触れることができて良い経験になった。コロナ禍の中で自分は何ができ、何を思うのか。この原稿を書くことで行動の証を記していきたい。


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